山守月天子

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楽しそうな人々が暗い暗い土に呑まれていく光景を私はヤマトさんのすぐ横で見つめていた。

あまりにもショッキングな光景に私は目が離せなくて凝視してしまい
やがて人の姿が全て土の中に消えて月明かりだけが唯一の光源の静かな景色に姿を変えた頃、私は力なくその場に座り込んで口元を抑えて涙を流す。

「…すず音さん…」

大きな仕事を終えかなりの体力を消耗したのか息も絶え絶えなヤマトさんが、それでも心配そうに私を気にかけてくれる。

「大丈夫…です…」

声を振り絞り、けれどそのせいで声が掠れる。
それでも私は続けた。

「大丈夫です…
きっと…救われたと信じています…」

今埋もれた人々は元々死んでいた者達。
月天子の力で無理やり動かされていただけ。
死んだのに、無理やり生きている風に装われていた人達なのだ。

やっと休む事が出来たのだと私は信じる事にした。

生者による勝手な解釈かもしれない。

それでも私は…そう信じる。
信じる事しか、出来ないから。















空には白銀に輝く月。
だがその月は先程と違い満月ではない。
欠けた月がぼんやりと浮かんでいる。

サク達の視線は最早天空ではなく、揺れが収まった地面に向けられていた。

天女が空から落ちてきた。
月天子の権能を無くした一人の女性。
銀糸のようなキラキラと光る細く柔らかい長い髪を散らばせ、女性は地面にうつ伏せの状態で倒れていた。

「……月が落ちたようだな」

カカシがぼやいた。

「姉さん…ミソカ…姉さん…」

サクの声に反応したのか月天子だったミソカの肩がピクリと動く。
ゆっくりと顔を上げるとサクと同じ宝石のような瞳から真珠の涙をポロポロと零して泣いている。

「サク…どうして…?どうして…
私達…また、やり直そうって…っ」

「姉さん…」

「私を…裏切るの…?サク…!」

「もう…終わりにしようよ」

「イヤよ!だって!だってまだ!私は誰にも認められてないもの!
ずっとずっと頑張ってきたの、サクが一番知ってるでしょう!?
こんな形で終わりたくない!終わらせたくなんかない!!
もう一度…っもう一度やり直しましょう!
そこの人達みんな殺して!!最初からもう一度私達の国を…!!」

ミソカが起き上がり何か行動する前にカカシが素早く移動してミソカの背後に立つ。
そして彼女の両腕を掴むと後ろにガッチリと拘束した。

「離して!いや!」

月天子の権能が無ければ彼女は戦えないのか、か弱い力でもがくだけ。

サクは体を支えてくれていたネジから離れると一歩一歩ゆっくりと歩き始める。



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