書庫(捧げ物3)

□第三勢力の台頭
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「まぁ、急ぐようならば山本に今の王鍵の場所を吐かせれば済む話だからね。君たちが約束してくれれば空座町には手出しする必要も無い、だから約束してあげれるんだよ」
笑みを浮べながら物騒な事を言った藍染に生返事を返しつつ一護は悩む。
「義理堅いな。自分達を先に見捨てたのは向こうの方なのだ、見限ってしまえば良いのに」
微笑を含んだ声をかけるハリベル、しかし一護は尚も約束しようとはしない。
「今、俺達の仲間になれって言ってる訳じゃねェんだ。そんなに悩む事かよ」
「俺、は…」
「一度見限って来たアイツらが戻ってくる訳もあるまい、こちらは約束の証として女を返したじゃぁないか」
迷う一護にノイトラとバラガンも言い募る。
「急に言われて悩むのはわかるけどよ、護廷の奴らを取ったって損するだけだぜ」
「悪ければ疑いを掛けられるだけだ、庇う必要も無いだろう」
グリムジョーとウルキオラも言い、一護は口を噤んだ。
「…では、賭けをしないかい?君たちは今から現世に戻り、一週間後に私達からの使者と会う。その間に護廷がどう動くか……君たちを守ろうとすれば君たちの勝ちだ、護廷の戦力となるのもならないのも好きにするといい。しかし裏切り者として扱うなら君達は護廷の戦力にならないと使者に約束してくれ、現世には手を出さないようにしよう」
どうかな、と藍染は微笑む。
「…お前達はそれで良いのか」
「さっきも言った通り、君達が向こうの戦力にならないだけで此方には良い事となるからね」
「………わかった、約束する。一週間後、答えがどちらであろうと返事は必ず」
「楽しみにしている、といったら失礼かな。では一週間後に」
そうやり取りを交わし、一護と織姫は現世に戻って行った。
「いやぁ、ご無事で何よりッス!」
「しかしよく無事で連れ出せたのぅ?」
すぐに浦原商店に入った二人を出迎える浦原と夜一、織姫は兎も角一護も無傷な事に首を傾げる。
「…井上を攫った目的は果たせたから賭けをする代わりに返すって、藍染達が」
カタリ、と奥の部屋で壁に寄りかかり一護が答えた。
「賭け、ですか…?」
「一週間後までに、護廷の人達がどう動くかで賭けようって言われたんです。もし私達を守ろうとするなら私達の勝ち、裏切り者とするなら負けなんです」
「それで俺達が護廷に力を貸すかどうかが決まる」
疑問を口にする浦原に織姫が答え、一護が付け加える。
「…なるほどな。しかしまぁ一護、お主はよくよく藍染達に気に入られたようじゃのぅ;」
好条件を出した藍染に呆れる夜一、厄介な者達に好かれる一護に同情の視線を投げかけた。
「一護さん相手なら納得出来ますけどね、兎も角お帰りなさい。一護さん」
ご苦労様でした、といつも通りの笑みを浮べた浦原に一護も漸く笑みを返す。
疲れているだろうとそれぞれ家まで送ってもらい、一護達は夜明けと動じに眠りについた。
「藍染も考えましたね、護廷の愚かさを知って賭けるんスから;」
「まぁ、一護の利になる賭けじゃ。此処は有難く思っておこう」
先の読める展開に浦原商店に戻った二人だけが溜息をつく。

昼頃、霊圧で感知したのだろうが早くも死神達が現世へと降り立った。
メンバーは檜佐木に日番谷、乱菊、ネム、阿近、砕蜂、恋次、白哉、ルキア、一角に弓親。
虚圏での疲れで家にいた一護はその面々に瞠目し、話をする為に人目につかぬ浦原商店へと場所移動を促す。
「移動の必要は無ェぜ、一護。お前は俺達と瀞霊廷へ来るんだ」
口火を切ったのは恋次、棘を多分に含んだその口調に話が悪い方へ進んでいると察した一護は密かに奥歯を噛み締め表情を消した。
その間にもネムと阿近が姿を消し、恋次達はジリジリと一護を囲う。
「どういう事だ」
短く聞いた一護に厳しい視線を向ける恋次やルキア、その中で面倒そうに一角が口を開いた。
「お前の事は仮面の軍勢とやらで疑いが掛かってたらしいんだがよ、今回藍染と取り引きしたのが裏切りの証拠だってんで連行命令が出た」
「悪いけど一護君、現世の人間から君の記憶を開発局の二人が消してる。大人数用の記憶置換装置で一斉にね」
だから此処で逃れても行き場は無い、そう言外に含ませて十一番隊の二人がにじり寄る。
「ま〜た同じ事やっとるんかい、お前ら」
「筋金入りの阿呆やね」
表情を消したまま一護が奥歯をかみ締めどうするか考えていると、訛りの強い二つの声が頭上から降ってきた。
霊圧で気付けなかった全員が顔を一斉に向け、呆れ顔の平子とリサと目が合う。
「何者だッ?!?!」
警戒を露に叫ぶルキア、しかし二人は呆れと嫌悪の視線を向け黙らせ一護を見やった。
「一護、俺らを来い。こいつらはもう腐っとるで」
「そうや、私らの方がずっとお前をわかってやれるんや。私らの誘いを断って一人で苦しんでたアンタを裏切り扱いする馬鹿共の所なんて、行く必要ない」
「…平子、リサ。 悪い、俺は」
今まで見せる事の無かった真摯な眼差しと優しい言葉で一護を説得しようとする二人に、一護は賭けの事もあり申し訳なさそうな顔をして俯く。
「やはり藍染と通じていたか」
一護の答えに口を開いたのは白哉、間髪入れずに千本桜で攻撃を仕掛けてきた。
即座に斬月で防御する一護だったが、周りを見て跳躍し上空に逃れる。
追って来た千本桜を叩き落とすだけではなく斬月で切り裂き時間を稼ぐと、一護は近づいてきた黒猫に目を留めた。
「一護、無事であったか。スマンな、喜助が行ったが記憶置換には間に合わんかったようじゃ」
しかし織姫はすでに保護した、そう言って人型に戻る夜一。
「邪魔をする気か、四楓院夜一…!」
「当然じゃ、元々ワシらを謀反人として追い出したのは護廷じゃろうに。藍染が許せんだけで主らの味方をしていた訳ではないわ」
恫喝する白哉にピシャリと言い返し、夜一は一護の隣へと立つ。
白哉と恋次、ルキアらが構える横で、砕蜂が突然一角と弓親を昏倒し夜一の前へと傅いた。
「良いのか砕蜂」
「勿論です夜一様、私の主は夜一様のみ。今回は先じて報告出来ず申し訳ありませんでした」
目だけを向けた夜一に淀みなく答える砕蜂、そのやり取りに白哉が眉を顰める。
「なら、俺もそっちについていいッスか。隊長もいなくなっちまったし、仮面とか良くわかんねェが一護を捕らえるのは反対なんで」
「足手纏いになってくれるなよ檜佐木」
ヒョイと手を上げて夜一達の側に来る修兵に、夜一がニンマリと笑みを向けた。
「悪いが俺も一護に付かせてもらう、これ以上四十六室に付き合ってやるのは馬鹿馬鹿しいからな」
「あたしも一護につくわ。織姫にも世話になったし、面白そうだしねv」
静かに言いつつも移動する冬獅朗と場にそぐわぬ軽い調子でそれに続く乱菊、二人は揃って隊長用の白羽織と副官章を切り捨てて破棄する。
「日番谷隊長まで…!!」
「裏切る気ッスか!!」
驚くルキアと苦々しげに激昂する恋次、しかし四人は平然と二人を見返した。
「裏切りってのは違う気がするけどな」
「一護に勝手に嫌疑を掛けたのは四十六室でしょ?」
「私は元々夜一様に従っている」
「好きに言えば良い。俺達は俺達が正しいと思う方を選び、それが一護と同じであるだけだ」
「どうする白哉坊、このまま戦闘になれば報告せずに主らは死ぬ事になるじゃろうの?」
五人それぞれに言われ、白哉は苛立ちを露にしながらも踵を返し恋次達も一角達を運んでそれに従う。
「一護さん、取り合えずは阿近達も帰りました。一先ずウチで話しましょ」
ヒョイといつも通り扇子を片手に現れた浦原に促されて一同は浦原商店の地下へと移動した。
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