書庫(捧げ物3)

□勇ましき姫君=麗しき剣士?
3ページ/3ページ

それに驚きつつも我に返る面々、しかしどうすればいいかわからず手を出せないままに小隊と二人を見やる。
「ああ、大丈夫だ。油断していた、悪いな一心。…それで一体、なぜ特務の小隊が現世にいる」
「霊王様より直々に命を受けましてお迎えに上がりました、一護様。霊王様は心配しておいでです」
一心の手を借りて自分の足で立つと、小隊を睨む一護。
その問いに答え、小隊長は深々と頭を下げた。
「心配?自分の椅子の事しか頭に無い奴が何を言うのかと思えば。 俺は戻らない、霊王にそう伝えろ」
嫌悪を露に一護が吐き捨てる。
「聞こえなかったのか、託を持って霊王の元へと戻れ」
「そうは、いきません。お連れしろと言い付かっております」
一護と一心の霊圧に冷や汗を流しながらも引かぬ小隊長。
ス、と目を細めて一心が霊圧を研ぎ澄ませ場に緊張が走る。
「一心、良いから少し待ってくれ」
軽く片手で制し一護が言えば、一心は殺気を収め構えを解いて一歩引いた。
それに微笑を浮かべ、スルリと刀を借りる一護。
何事かと全員が見つめる中で自然な動作で刀を持ち上げると、一護は己の首にその切っ先を当てた。
「一護様?!」
「何を…ッ、お止め下さい!!」
「お前達が下がるなら俺もこの刃を下げるさ、この身を霊王の前に置くぐらいなら俺は死を選ぶ。今まで育ててくれた一心には悪いと思うよ、けど俺はあの土地に踏み入れる事すら耐えられない!! …誰が両親を殺した忌まわしい場所に行きたいと思う。霊王に伝えておけ、お前達の所へと行くくらいならば俺は死を選ぶと」
一心や小隊が慌てて制止の声を上げるが、血を一筋流しながらも淡々と言う一護。
一歩たりとも引きそうにないその態度に圧倒され、小隊長は躊躇しながらも頭を下げて立ち去り小隊もそれに続いた。
「一護様、すぐに治しますので少々ご辛抱を」
小隊を見送ってすぐさま一護の傷口を手で覆い鬼道で治す一心に、一護も大人しく治療を受け刀を返す。
「いきなり悪かった、一心。でも本当にアイツらについて行くのは耐えられなかったし、斬月じゃ俺が怪我する前に自壊しちまうから」
「…いいえ、お謝りになる必要はありません。黄泉の果てまで従い、一護様を支えるのが我が使命です」
共にあります、そう頭を下げる一心に一護は小さくありがとうと呟いた。
完全な主従のやり取りに呆気に取られて口を出せない面々。
しかしやり取りを終えた二人が此方に気付いた事で我に返り、真っ先に夜一が動いた。
「ええい、まさかワシが騙されるとは思いもせんかったわ!一護、お主も何時までそんな格好をしておる!!折角の美人が台無しじゃ、服を買いに行くぞ!!!」
「「「そっち?!?!?!」」」
「ちょっと待て夜一、まだ現世の認識じゃ一護様は男なんだ。買い物は良いが取り合えず記憶置換で何とかしてからにしろ」
今にも一護を引っ張って買い物に行きかねない夜一を止める一心、どこかズレたやり取りに数人が同時に突っ込む。
ともあれいつも通りの空気に戻り、一旦は落ち着いて一護の家で話す事になった。


****************************************************************************************************************

一護が二階で着替えている間に一心が話す事になり、現世組みを呼んでから一心が最初に口を開いた。
「ま、さっきわかった通り一護様は王族の中で第十四宮で生まれた姫君だ。姫君の中でも三番目の生まれでな、本来なら万が一、後継者の王子達が死んだ場合。もしくは三人の姫君が死んだ場合のみ王位継承権が与えられる程度で、あえて言えば次期王妃候補の一人になる筈だった。元々一護様の父君も王族の中の位置は中ほど、母君もかろうじて内宮にいる方。二人とも野心の無い方で王位に興味すらなく日々仲睦まじく暮らしておられた、俺達のような護廷から来た者を下と扱う他の王族とは違い寛大で温厚な方々だった」
懐かしむ様に目を細め語る一心。
「こう言うのは本来無礼なのだろうが、あの方は俺を親友として扱って下さった。俺も公の場で無い限りは敬語も使わず、本当に対等に付き合っていたんだ。奥方様のお付だった真咲との恋も後押ししていただいた。それからは四人、家族の様に暮らしていた。
…そんな中、奥方様が妊娠し一護様がお生まれになられたんだ。お二人とも幸せそうだった、俺達もこれ以上ない程に幸福な日々だった。少しづつ成長する一護様の命を、狙う者達が現れるまでは」
そこで一旦切ると、一心は瞑目して長く息を吐き出す。
再び開かれた瞳には今まで見たことの無いような後悔や悲しみといった感情が揺れ、面々は一度顔を見合わせた。
「一護さんの命を、狙った愚か者がいたんですか…?」
「ああ、さっきも言った通りお二方に野心は無かった。けど他の奴は自分か自分の子供を王座に付ける事しか頭に無い、だから幼いながらも強大な霊圧を持つ一護様を消したがった」
確認するように呟いた浦原に答える一心、グッと拳を握り締めて話を再開する。
「今もわかるように一護様の霊圧は類を見ない程に強大だ。それに自分の立場が危ういとでも思ったんだろう、命を狙う奴らが後を絶たなくなった。一護様はまだ一人歩きが出来るようになったばかりの頃だ、お二方はすぐに決断された。王族より永久追放されようとも身を隠す為に現世に行く事をな。俺と真咲はお供させて下さる様に頼み込み、同行を許された。あの方が開けた隙間から霊圧を消し現世へと飛び込んだ。先頭に俺が行き虚や駐在任務の死神を警戒し、真咲と奥方様が一護様を抱き抱え次に、最後に隙間を閉めてあの方が来る手筈だった」
だが、と一心は表情を歪めた。
「俺達四人しか知らない筈の計画が何故か嗅ぎ付けられた、飛び込む所までは何とかなったが最後に追いつかれてお二方が負傷してしまった。隙間を閉める時にあの方は致命傷を負い、追いつかれた時の怪我が元で奥方様も現世についてから間も無く死んでしまわれた」
苛立ちを押さえ込むように唸るように語り終えると、一心は自嘲気味に呟く。
「特務長の名を貰いながら主を二人も死なせてしまった、良くも生き長らえたモノだと自分でも思う」
「それでも、俺を守り抜き、育ててくれた」
吐き捨てた一心の言葉に続けられた穏やかな言葉。
階段から降りてきた一護から発せられたそれに、全員が一護を見る。
一護はゆったりとしたワンピースを纏っており、長い髪もその肩に揺れて木漏れ日のような印象を見る者に与えた。
「一心、俺は微かにだけど父や母の事を覚えてる。確かに父にとって貴方は親友で、二人は最後の時だって血に濡れながらも笑っていた。二人が俺を我が子同然に慈しみ、育ててくれたから俺は此処にいれる。憎しみに駆られる事もなく、あいつらさえ来なければその存在すら気にせず生きていた。遊子と夏梨が生まれてからも変わる事なく俺を家族として守り愛してくれた事はどれだけ感謝してもしきれない」
今も、そう言って一護は少し恥ずかしそうに微笑む。
「……ありがとうございます、一護様。良くお似合いです、真咲も喜んでいるでしょう」
嘗て真咲が着ていた服を纏う一護に手を差し出すと、ソファへと丁寧に座らせた。
変じゃないか、と裾を気にする一護に笑みを返すと一心は飲み物を運んでくる。
一連の騒ぎで忘れていた喉の乾きを思い出し、一護はそれをありがたく受け取った。
「ネタバラしは終わったなら良いよな、俺の女神様〜〜〜〜〜vvvv!!!!」
「「「「ッッあああァァァァ!!!!!!!」」」」
ヒョーーイ、と軽やかに一護の胸へと飛び込んでくるコン。
その光景に一瞬目を丸くするが事態を理解しその場の男の大半が叫んだ。
見ればコンは一護の胸に顔を埋めており、如何にも心地良さそうに頬擦りを繰り返している。
「涎は垂らすなよ、コン」
今までの空気をぶち壊すマイペースっぷりに苦笑しつつ、一護が注意した。
部屋を出る時に階下で女である事をバラしていると教えた一護、余りの空気に一応は今まで大人しくしてくれていたらしいコンの頭を撫でる。
「ズルイッスよそんな贅沢!!!」
「離れろこのヌイグルミ!!!!」
「お前らは一護様に寄るな」
すぐさまコンを引き離そうとする浦原達に笑顔で刀を向ける一心、ドサクサに紛れて何をするかわからない為先にけん制したようだ。
無言で睨みあう男達を余所に、一護へと寄る女達。
豊満な胸や細い腰、裾から見える美脚を眺め感嘆の溜息を漏らす。
「女、だったのだな…」
「黒崎君、美人///」
「ほんと、羨ましいくらいスタイルいいわよねェvvv」
「見れば見るほど美しいの、主が相手ならワシは道を踏み外しても後悔せんわ」
「ごめんな、隠してて…。現世では男として一生を終える気でいたから、まさか霊王にまでバレるとは思わなかったし。 ところで夜一さん、俺が相手で何で道を踏み外すんだ??」
しみじみと言うルキア達に謝る一護、しかし最後に夜一の言葉に首を傾げた。
「ふふ、今から教えてやっても構わんぞ?」
「「「待て待て待て待てェッ!!!!」」」
「おおおぅ!!なんて魅惑的なvv邪魔しないから俺も混ぜてください!!!!」
「一護様、今のこいつらは酷く危ないので相手にしない方が宜しいかと」
『一心に同感』
『ああ、この場は流しておけ』
くぃと一護の顎を上に向かせる夜一に慌てる他の面々、喜んで鼻血を流すコンや一護を夜一から引き離す一心に一護は益々首を傾げる。
しかし相棒二人に言われ、大人しく一心の後ろへと下がった。
「一護様に不埒な真似をしたら問答無用で俺が殺す、コンお前もだ」
ビシッと刀を面々へと向ける一心、瞬時に鋭くなった霊圧に全員が押し黙る。
「…一心」
「一護様、如何かなされましたか?」
後ろで黙っていた一護に呼ばれ、一心は刀を納め向き直る。
しかし一護は少しだけ俯いて落ちつかなげにしていて、今度は一心が首を傾げた。
「様付けと敬語は、もう止めて欲しい…。特務ももういないし、その……俺はまだ、黒埼 一護でいたい、から//////」
ダメかな、と上目遣いで一心を窺う一護。
いつもの強い姿勢でも、姫君としての凛とした態度でも無いそれに笑みを零すと、一心は一護を抱きしめた。
「いや、お前が望む事を邪魔するなんざ例え自分でも許さねェよ」
「///ん、ありがと」
慇懃な口調を止め、いつも通り強く抱きしめる一心。
いつものように突っぱねる事はせず、一護も少しくすぐったそうにしながらそれを甘受した。
「そーだ、浦原」
「はい?何でしょ」
「明日の朝までに記憶置換頼んだ、出来なきゃ支払いはしないし一護にも接触禁止な」
「それって酷くないですか?!?!」
不意に顔だけ向けて来た一心に浦原が首を傾げると、理不尽な要求を突きつけられ浦原は悲鳴のような声で抗議する。
「おおそれは良い、ほれサッサとやらぬと一護と話も出来んくなるぞ」
「ッッ夜一さんの裏切り者ぉぉぉ!!!!」
ニンマリと一心の味方になった夜一に促され、叫びながらも戻っていく浦原。
それを笑いながら見送ってから、一心は一護が疲れているからと全員を追い返した。

次の日から一護の事実を聞きつけた他の隊長や仮面の軍勢、その上一護に一目惚れしたらしい破面達まで加わった一護争奪戦は熾烈さを増したとか。


****************************************************************************************************************
あとがき

ようやくup致しました;
何故か一心さん出張ってます
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ