書庫(捧げ物2)

□燈色の子
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酷い雨の中、重そうな鉄笠を被った大柄な男がゆっくりと歩いている。
雨に濡れる事を気にもせず、流魂街を進んでいく男。
彼は恩師、山本の頼みで流魂街のとある家に行った帰りだった。
見回りも兼ねて、と思ってた狛村は雲っている天気にも関わらず瞬歩で広い流魂街を回り、雨が降ってきた事で切り上げて帰る事にしたのだった。
巨大な門も見え、濡れている体に諦め歩く事にした彼は微かな音に足を止めた。
「犬か猫でもいるのか…」
微かな気配と音を頼りに狭い裏道を歩いていく狛村。
「これは…」
弱々しい気配にそぐわぬ大きい霊圧、弱っている状態でも此処までの霊圧を保持できるモノだろうかと狛村は驚愕した。
そして足早にその中心へと向かう。
雨で視界が霞む中で流魂街の森の中に一つ、鮮やかに浮かび上がる燈。
中心がそれだとわかり狛村は若干の警戒をしつつも近寄り、再び驚いた。
浮かびあがった橙は髪色で、強大な霊圧の持ち主は年端の行かぬ子供で死覇装を纏っていたのだ。
子供は木に背を預けて蹲り、顔を折った膝に埋めている。
「大丈夫か?」
元々気配に過敏な狛村は子供が弱っている事を感じ取りすぐ傍まで行って話しかけた。
「…ダ…レ……?」
緩慢な動作で顔を上げて問う子供、少し目じりの下がった愛らしい顔で歳は現世でいう五歳くらいだろう。
大きく澄んだ琥珀のような瞳が狛村を捉え、首を傾げた。
「ワシは狛村左陣という、貴公の名は、何故こんなところにいる?」
笠を被ったまま聞く狛村。
「一護、おれは、黒崎一護。…母さんを、探してた」
舌足らずに答える一護、俯いた顔は赤く、息苦しそうに肩で息をしている。
「…一先ずワシの屋敷で休め、そんな身体では探そうにも動けぬだろう」
「…ん……でも…」
そっと一護を抱え、狛村は走って靜霊廷の自分の屋敷へと戻る。
恩師には地獄蝶で用事を済ませた事と死覇装を纏った子供を拾った事を報告し、指示を仰いだ。
「大丈夫か?」
苦しそうな一護を布団に寝かせ、薬を飲ませて狛村が聞く。
一護は布団に入って力が抜けた所為か、尚苦しそうに喘ぐばかりで何も答えない。
「左陣、子供の様子はどうじゃな?随分と高い霊圧を持っているようじゃが」
どうすればよいのかわからない、と連絡を入れてきた狛村に山本が屋敷へと尋ねてくる。
「元柳斎殿…態々申し訳ない。子供をどう扱っていいのかわからず…」
自らを不甲斐ないと言わんばかりに頭を下げる狛村。
「ふむ…これはワシの手には負えんの、烈に来てもらうより仕方あるまい」
「は…」
苦しげな一護を見て治療をするべく卯ノ花を地獄蝶で呼ぶ山本、ゆっくりと一護の頭を撫ぜている。
「随分と可愛らしい患者さんですね、一体どうなさったんですか?」
来て早々に一護を鬼道で治療し、簡単な処置を施してから卯ノ花は自分を呼んだ二人に向き合う。
「ワシは今連絡を受けてきたばかりじゃよ」
「先程流魂街の外れにある森にいたのを連れてきた、名は黒崎一護と言うらしいが…」
「連れてきてそのまま…ですか?」
「あ、ああ…下手に動かすのは不味いかと思い、着物を着替えさせて薬を与えただけだ」
狛村の答えに卯ノ花が微笑んだまま怒っているのがわかり、狛村は困惑しながらも言う。
「勉強不足もいいとこですわね、雨で冷えた体をそのままにしては悪化する事ぐらい見当がつきませんでしたか?ああ、もういいですわ、少しお風呂場をお借りします」
にっこりと微笑んだまま卯ノ花は一息に言うと一護を抱いて風呂場へと足早に向かっていった。
「烈は怒らせるべきではないからな;」
「…はい」
気迫に押されていた二人は大人しく待ち、然程せず卯ノ花は戻ってきた。
「薬は明日の隊首会の折にでもお渡しいたします、それとも救護詰め所で治療するのをご許可いただけますか?」
優しく一護を布団へ横たえつつ、卯ノ花が聞く。
「どうしたものかのォ…死神としての資質は疑う余地もなし、霊圧も稀代のモノ、出来れば護廷内で面倒を見れれば良いのじゃが」
ううむ、と唸り悩む山本、一護の隣には一護の持っていた巨大な刀…一護の蹲っていた隣にあったのを狛村が一緒に運んだのがおいてある。
一護の斬魄刀だろう事は間違いなく、堂々と包まれた布の隙間から刃を覗かせている。
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