書庫(捧げ物3)

□夕闇は濃い藍色
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破面の襲撃の後、織姫が攫われた事により死神たちは現世から撤退した。
残された一護は少しばかり俯いていたが、そのまま部屋を出て行く。
『どうすんだ?』
(とりあえずチャドと石田だな、仮面は…まぁ放っとく)
朔護の問いに首を掻きつつ答える一護、治療を終えて休んでいるらしい級友二人の元へ向かった。
「チャド、石田」
「一護か、どうした?」
「わざわざ呼び出して何の用だ、黒崎」
「井上が攫われた上にルキア達が全員引き上げた」
「「ッッ?!?!」」
普段から感情を表に出さないチャドと石田も流石に驚愕を露に目を見開き、一護の次の言葉を待つ。
「お前らは悪いけど力を封じさせてもらう」
「何だとッッ?!」
「ッ一護?!」
続いた言葉に驚く間も無く一護の手が伸ばされ、二人は咄嗟に距離を取った。
しかし一護は動じもせず、静かに歩を進める。
「何がしたい、黒崎!!」
睨みながら恫喝する石田、いつに無く静かな気迫を放つ一護に警戒を強めた。
「俺さ、母さんが殺されたろ」
「…ああ」
唐突に一護が言った事をいぶかしみながらもそのまま聞く二人、その様子を見つつ一護は一度足を止めてまた口を開く。
「その時、本当は近くにいたんだ。  死神が……それも、おそらく席官クラスの」
「なんで…そんな事、そいつは動かなかったのか?!」
「見てただけだった、俺は母さんに守られて生き延びたけど。そいつをもう一度見かけた時にそいつは他の虚を葬っていたから、聞いたんだ。『何であの時は、見てたの?』って、答えは『テメェは食われた筈じゃなかったのか?』だったよ…ッッ!!」
「見殺しにしたのか、一護達を…?」
「何故だ?、理由は聞いたのか?!」
静かに話し始めた一護。
しかし話すにつれ泣きそうに顔を歪め、最後には堪えきれぬように恫喝した。
その一護の言葉に驚愕しつつも一護の心境を感じ取り自らも辛そうな表情を浮かべる二人、それぞれに一護を気遣う。
「目の前が見えなくなるぐらいの怒りで、俺の力は目覚めた。霊圧が爆発的に上がった所為で俺の中にある力も使えるようになったんだ、何も考えず怒りに任せてソイツを殴って理由を吐かせた。 
餌なんだと、霊圧の高い人間はな。それなりに強くなった虚は討ち取ればそれだけ『特別給金』だかが貰えて、その上自分の位も上がる。だからある程度強くなるまで待つんだそうだ」
そいつにとって俺は餌に過ぎなかった、そう言って一護は顔の左側を押さえる。
「死神が憎い、けどアイツらは嫌いじゃない。だから迷ってた、藍染の誘いに乗るかどうか」
「そしてあいつは賭けを持ち出した」
「「ッッ?!」」
自らを守るように抱きしめた一護、その言葉を引き継いで紡いだ朔護の姿に石田とチャドは目を見開いた。
一護と鏡を合わせたような背格好に、真逆の色彩。
朔護は当然のように一護を抱き寄せて冷たい眼差しを二人に向ける。
「俺は一護の一部、こいつの怒りで目覚めた虚の力だ。
…藍染はまだ未熟だった一護を助け、死神の事について教えた。あいつは何考えてるのかわかんねェが死神の事は嫌いらしくてな、一護に自分と一緒にいろと言い出したんだよ」
「俺は、迷った。死神は嫌いだし憎い、けど俺にとっては藍染もまた死神…」
「そこであいつは賭けを持ち出した、一護の霊圧ならいつか必ず死神と関わる。その時に、一護が死神を救うか滅ぼすか決めろってな」
「俺が死神を憎んだままならあいつの勝ち、計画に力を貸して藍染の所へ行く。俺がまだ死神を救う価値のあると判断すれば俺の勝ち、藍染は俺ともう関わらず俺も好きに行動する」
静かに、交互に話す一護と朔護。
石田もチャドも黙って聞き続ける。
「あいつは、俺が崩玉に関わった事で一度接触してきた」
「お前らと瀞霊廷で逸れてすぐだ、知らぬ振りで思う通りに行動しろと言って来た。二度目は現世に帰ってから暫くして、藍染達の攻撃開始に死神がどう行動するかでまた賭けを持ち出した」
「襲撃に対して俺達を守ろうとすればそれで良い、けど見放した場合……それはもう救う価値は無いだろうってな」
だから俺は藍染の所に行く、そう一護は締めくくった。
「…井上さんは、無事なのか」
「それは大丈夫だ、攫ったのは死神の出方を探る為と十刃の一人を回復させる為だけだから。何より少しでも危害が加えられたら俺は藍染を敵と見なすってあいつ自身わかってるだろ」
「藍染は一護の機嫌を損ねるような真似は出来ねェよ、それこそ俺達を敵に回す程馬鹿じゃねェからな」
石田の問いに答える一護と朔護、そして徐に手を伸ばし二人の力を封じようとする。
「何で僕達の力を封じる?!」
「これから狙われたら困る、俺が向こうにつけばお前らも疑われるから」
「それに、死神と虚に仮面共の中じゃお前ら死ぬだけだし」
「待ってくれ、俺達も戦う!!」
必死に抗う二人を抑え、一護と朔護は力を封じた。
無理やり力を封じられた反動で気を失った二人に一言詫びると、一護は朔護に内に戻ってもらい姿を消す。



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虚夜宮、広々とした部屋に集まる主戦力となるメンバー。
しかし彼ら全員を相手にして尚勝利出来るただ一人の人物がそこに姿を現した。
「一護!!」
「やっと来たか」
「待ってたぜ!!」
「ようやく来てくれたね、待ちかねたよ」
一護の姿に敵意ではなく歓迎を示す十刃と藍染達、元々虚の時に会っていたので仲は良いのだ。
「一護君が来たと言う事はやはり…」
「護廷もアホやねェ、態々敵増やすんやから」
予想通りの行動を取った死神達に呆れる東仙と市丸、苦笑を返す一護に藍染が立って手を伸ばす。
「お疲れ様、一護君。疲れただろう?すぐに部屋に案内させるよ。井上織姫についてはすぐ現世に帰そう」
「いや、一度ちゃんと話すよ。チャド達にも話してから力を封じさせてもらって来たから、井上にもそうする。案内してくれ」
頬へと手を伸ばし、そのまま滑らせて頭を撫でる藍染。
その手を拒みもせず甘受する一護、しかしすぐに緩く頭を振ると強い眼差しを向けた。
「わかった、ウルキオラ」
「はい。一護、こっちだ」
「おう」
ウルキオラに案内されて部屋を出て行く一護、その姿を見送ってから藍染は再び玉座に着く。
「さて、我々の大事な姫君を傷つけた愚かな死神達にはどう絶望を味わってもらおうか」
限りなく冷たい笑みを浮かべた藍染の言葉に、それぞれが好戦的な笑みで意見を述べた。


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織姫にも事情を説明し、一護は力を封じ込めてから現世に送り届ける。
一応まだ気を失っていた石田達と一緒の部屋に置いて来たので心配は無いだろう、近くには死神嫌いでそれとなく力を貸してくれていた竜玄もいるから虚も問題ない。
完全に力を隠していた一護は案内された部屋では無く虚夜宮の外に出て、伸びをしてゆっくり体をほぐしてから一気に本来の力を解放した。
『あ〜…やっと力が全部出せたな』
『やはり、抑えたままでは肩が凝る』
力をもう抑えずいれる事に喜ぶ朔護と斬月。
それぞれの言葉に笑みを零すと、一護は霊圧を落ち着けてから宮へと戻る。
「力を戻したんだね、素敵だよ」
「…意味わかんねェ;」
先ほどついでに案内してもらった部屋に戻れば、何故かすぐに藍染が来て手にキスを落とされた一護。
そのまま手を引かれ、成すがままに明らかに一人用ではない豪奢なソファに並んで座る。
「会いたかったよ、君が朽木ルキアに遭遇してからは二度しか会えなかった」
一護の細い腰に手を回し、抱き寄せる藍染。
頬を染めながらも何も拒否しない一護に気を良くし、更に強く抱きしめる。
「…そろそろ放せ///」
「何故だい?まだ数分も経っていないよ」
いい加減恥ずかしくなった一護が少しばかり抵抗を始めるが本気には程遠く、藍染は笑みを浮かべたまま放そうとしない。
「ッ〜〜//////」
「調子に乗ってんじゃねェぞ」
抱きしめるだけではなく額にキスした藍染に真っ赤になる一護、それに対し益々強く抱きしめようとした藍染だったが朔護の声と殺気に動きを止める。
すぐさま一護の襟首を掴み引き離す朔護、そのまま一護を後ろから抱き込み藍染を睨み付けた。
「全く、空気を読んでくれないか?」
「こっちの台詞だ、一護が放せっつったら放せ」
恥ずかしさの余り朔護に抱きつき顔を隠してしまった一護を余所にバチバチと火花を散らす朔護と藍染。
「俺らの王様だ、お前には勿体ねェんだよ。あんまり煩ェと消すぜ?」
「酷いね、私はただ愛しいお姫様を守っているだけなのに。護衛なら護衛らしく大人しくしていたらどうだい?」
破面でも下級の者がいたら発狂してしまいそうな霊圧の中、一護はどうしようかと思いつつも暖かい腕の中でつい眠くなってしまう。
元々グリムジョーとの模擬試合で負った怪我をそのままに死神達と話しチャド達三人の力を封じたのだ、幾ら力を解放したとはいえ疲れは溜まっていた。
耳元ではまだ言い合っている二人の声、殺し合いまではしないから良いかと結論付けて一護はまどろみに身を任せ眠りにつく。
「…あ」
「…寝てしまっているね……」
いつの間にか寝てしまった一護に気付いた藍染と朔護、そのまま口論を続ける気にもならず殺気も自然と治まった。
「しゃあねェな…」
「今日はコレ位にしておこうか、私は戻らせてもらうよ」
ため息を付いて一護をベットに運ぶ朔護、それを見つつも自分も腰を上げると藍染は部屋を出る。


一護が藍染側に行った事に騒ぐ死神達は、己の過ちに気付く事も出来ず衰退していった。



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あとがき

すいません、当家の藍一はこんな感じです;
保護者が強いんで、一護が乗ってくれないとムードにすら持ち込めない。

頼華さまお待たせいたしました!!
 

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