書庫(捧げ物3)

□姫君のお泊り
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代行業も少し落ち着き、久しぶりに街をゆっくりと見回る一護。
最近相手をしてやれなかった妹達に何か買って行こうかと思案しつつも散策を続ける。
『鬱陶しい奴らが来たぜ、一護』
『先遣隊全員いるようだな』
適当にCDショップにでも入ろうとした一護に舌打ちしながら言う朔護と眉を顰めている斬月の言葉が響いた。
(…面倒;)
折角の休みだったのに、と空を仰ぎ一護はため息を付く。
幾ら明日も休みとは言え虚まで大人しいのは今日だけかもしれない、そう思うとため息しか出てこない一護。
「よお一護!」
「一緒にショッピングにでも行かない?」
「たまには付き合え!」
「いいだろ、一護君?」
「今日休みなんだろ?いいよな」
「…どうなんだ、一護」
そこに現れたのは予想通り、恋次に乱菊、ルキアに一角、弓親、冬獅朗の六人。
早速一護を囲み逃がす気は無いように見える。
「ゆっくりしてーんだけど」
「奇遇だな、俺達もゆっくり休みたいんだ」
「一人で、って態々言わなきゃわかんねェのか手前ェ。ゆっくりしたいなら勝手に休んでりゃいいだろ恋次」
「僕は構わないよ、ゆっくり君と話したいだけだしお茶でもしないかい?」
「この人数でどうゆっくりしろってんだ、弓親」
「いいじゃない、買い物も楽しいわよv」
「乱菊さんだけな」
「なんだ狭量な奴め、たまにはいいではないか!」
「お前に付き合わされるのが既にたまにの回数超えてんだよルキア」
「明日でいいから手合いしやがれ!」
「一角はしつこいんだよ、一日付き合わす気か。絶ッ対ェ嫌だ」
「…現世の案内だけでもしてくれないか」
「ルキアに案内しまくった、アイツに案内してもらってくれ冬獅朗」
「「「「「「「……………」」」」」」」
一人一人の誘いをバッサリと切って捨てる一護、しかし恋次達も引かず睨み合いに入った。
「こんな街中で何をやっておるんじゃ、貴様らは。まぁ、大方予想は付くがの」
暫く続くかと思われた睨み合いの間に割って入ったのは夜一、呆れたように全員を見やる。
そして不意に一護の腕を掴むと、ニヤリと笑った。
「こんな奴らよりワシとデートでもせぬか?一護」
グイと自分に引き寄せて、ちゃっかり腕を組むと夜一はそう笑う。
「……今日一日だけだからな」
「決まりじゃの!では主ら、一護はワシとデートするのじゃ。さっさと道を開けんか」
元より団体行動を余り好きではない一護、全員を相手にするより夜一だけを選択し腹を括る。
それに満足げに返事をすると、夜一は一護を連れて恋次達の真ん中を通った。
ギリギリと悔しそうにする面々、しかし相手は瞬神と呼ばれた嘗ての隠密鬼道隊隊長で今も衰えぬ実力者。
敵う筈も無く素直に道を開けるしかなかった。

「愉快愉快、なんとも口惜しそうな表情をする奴らよ」
「助かったぜ夜一さん、アイツら全員の相手は面倒でさ」
一護と腕を組み上機嫌な夜一、厄介な幼馴染を制して手に入れた愛しい存在に目を細める。
対して一護も一応の恋人に笑みを向け、少しばかりだがいつもより幼さを見せた。
「何、構わぬ。ワシとて一護と二人になれたのは嬉しいからのぅ。さて何処へ行く?お主が欲しいモノなら何でも手に入れてやるぞ?」
褐色の美女と橙色の髪の美青年の二人は酷く人目を引いたが、二人とも全く意に返さず街を進んでいく。
「ん〜…、俺も何か欲しくて来た訳じゃねェしな。帰りに遊子達の土産を買えればそれでいいんだけど、夜一さんはどっかないのか?」
何かにつけて己を甘やかそうとする夜一の言葉に考えつつ、一護も夜一に聞いた。
「そうじゃの…では現世の服を選んでくれんか、折角じゃから色々と見て回りたいしの」
「ああ、別にいいぜ。でも夜一さんの好きな露出の多いのは選ばないからな」
今日も今日とてシックだが大胆なタンクトップにジーンズ姿の夜一。
そんな夜一に一護は釘を指す、似合うのだが些か過激なのが如何にも夜一らしい。
いつまで経っても初心でフェミニストな一護に夜一は笑うが一応了承を示して、二人は手近な服屋に入っていった。
結局上品で大人びたチョイスをした一護に夜一も満足し自分で支払い、困惑する一護を連れて夜一は更に色々な店を巡る。
「これなんか喜ぶのではないか?」
「ああ、こっちは夏梨だな。ありがと夜一さん」
最後に妹達への土産を選ぶと、一護は一緒に選んでくれた夜一に礼を言い支払いに行った。
「一護、実はな……頼みがあるのじゃが」
店から出て帰り道の途中、急に迷うような素振りを見せた夜一に一護が首を傾げる。
「なんだ?夜一さんが頼みってのは珍しいな」
コトリと不思議そうな顔をする一護に夜一は内心で可愛いと思いつつも表情を変えず口を開いた。
「明日の昼までで良い、泊めてくれぬか?勿論このままでとは言わん、荷物を置いて猫の姿でじゃ」
どこか真剣に言う夜一、一護は少し悩んだが猫の姿ならと了承し訳を尋ねる。
「理由は簡単じゃ、今回ばかりはアノ阿呆に愛想が尽きた!!全く何百年の腐れ縁じゃがここまで頭にきたのは久方振りじゃ!!!」
夜一は握り拳を作り怒りに震え、その様子に一護はまた浦原と喧嘩でもしたのかと妙に納得した。
「…訳は大体わかったよ、夜一さん。泊まるのはいいけど、飯も猫用でいいのか?それに…下手すると遊子に遊ばれるかもしれねェけど;」
言っている内に可愛い物が大好きな妹がどう反応するか想像じた一護、少しばかり罰が悪そうに言葉を続ける。
「その点は大丈夫じゃ、子供の成す事に一々腹を立てて手を上げる程ワシは未熟では無い。それに飯も普通の人間の一人前程で満足出来るからの、猫用でもそうでなくともどちらでも構わんぞ」
「了解、じゃぁまた後で」
「スマンの、頼んだぞ」
話しながら既に家の直ぐ傍まで来ていた一護と夜一は一旦そこで別れ、一護は土産を妹達に渡そうと玄関を潜った。
「お帰り、お兄ちゃん」
「街に行ってたんでしょ?早かったね一兄」
「おう。ただいま遊子、夏梨」
出迎えてくれた妹達と挨拶を交わして土産を手渡すと、一護は今日の夕飯の当番を引き受ける。
普段から一護にべったりな二人が断る訳も無く、喜んで一護の手伝いを始めた。
夕飯が出来上がり、後は食べるだけになった頃。
カリカリと窓から音がして夏梨がカーテンを開け直ぐに座っていた黒猫に目を見開いた。
「一兄〜、なんか猫がいるんだけど窓開けていい?」
「ああ、黒い猫だろ?多分浦原さん所の夜一さんだ、入れてやってくれ」
なんとなく普通の猫とは違うと察した夏梨は一番頼りになる兄に指示を仰ぎ、夜一を中に入れる。
「きゃ〜〜vvv可愛い!!!お兄ちゃんこの子と知り合いなの?!」
「だから浦原さんの所に住んでるんだって、なんか浦原さんが怒らせたらしくて来るかもって聞いてたんだ。気難しいからあんまり抱っことかするなよ、遊子」
夜一を見てすぐさま抱き上げようとした遊子を宥め、一護は夜一にテーブルの上に来るようさり気無く促した。
その間も遊子の視線は夜一に釘付けで、思わず一護は苦笑してしまう。
自分達の分と夜一用に猫飯と煮干をテーブルに置くと、一護たちは仲良く食べ始めた。
今日は珍しく病院で医者の集まりがあるらしく一心は不在、よって好きに料理の腕を振るった一護はデザートまで用意している。
手早く作っていたのはティラミスで、全員が未成年という事もありブランデーではなくエスプレッソがスポンジに染み込ませてあった。
クリームなら猫でも大丈夫だろうという事で夜一にも一人分配られ、全員でぺロリと普通では多い筈の量を平らげる。
片付けは引き受けてくれたので妹達に頼み、先に一護は部屋へ戻った。
「可愛い、っていうか美人さんだよねvv」
「まー、そうだね」
リビングに残った夜一は遊子と夏梨にじっと見つめられながらも平静を装い毛繕いを始める。
「ねー夏梨ちゃん、夜一さんに服着せちゃ駄目かなぁ?」
「止めといた方がいいんじゃない、犬ならまだしも猫なんだし。嫌がるよきっと」
ジィッと見つめられ、しかも怖い提案に冷や汗を垂らす夜一だったが夏梨の一言にほっと溜息をついた。
話には聞いていたが、部屋に連れて行かれヌイグルミを見て遊子の無邪気な凄まじさを悟ったのだ。
一護に似ているのか冷静な夏梨に感謝しつつ、夜一はどうやって遊子の腕の中から抜け出そうか考える。
下手に暴れて爪痕でも付けたらほぼ確実に一護に悲しい顔をさせてしまう、しかしギュウギュウと抱きしめられていては地味に苦しい為そう長くは我慢出来そうにない。
「夜一さん、飼っちゃダメかな?首輪くらいなら―――……」
「遊子…、あんたいい加減にしなよ。その猫は一兄が預かってるんだからね?」
諦め切れないらしい遊子の腕から夜一をとり、夏梨が代わりに夜一を膝に乗せる。
この隙に、と動こうとした夜一だったが夏梨がさり気無く背を押さえた事で逃げれなくなってしまった。
「やっぱりダメかなぁ…、しょうがないよね。一緒にお風呂入ろ、夏梨ちゃん」
「いいよ、先に行ってて」
溜息一つついてパタパタと先に部屋を出て行く遊子、それを見送ってから夏梨は夜一に視線を戻す。
「夜一さんがどんなので何で此処に来たか知らないけど、ただでさえ一兄は忙しいの。一兄の勉強とか寝るのを邪魔したりしたら速攻で遊子のオモチャにするから、それを忘れないでね」
目を厳しく細めて釘を刺すと、夏梨も遊子を追って階段を下りていった。
キチンと夜一が出られるように細く開けられたままの扉を見つつ、夜一は一護が自分の部屋から出てくるのを待つことにした。

もしかしたら、一番の強敵は妹達かもしれないと認識を改めながら。




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あとがき

すいません、秋慧さま;
総受けがほとんど無い挙句夜一×一護も微妙な仕上がりに…

お取替え+加筆修正要請はいつでも受け付けますので!!
 

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