書庫(捧げ物3)

□失えない記憶の欠片
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瀞霊廷深部、中央四十六室の地下議事堂。
そこで今日は一つの議案が可決され、秘密裏に実行命令が出された。
可決された議案は『死神代行の抹消』、簡潔なそれはすぐさま確実な方法が命令として隠密鬼道と鬼道衆に伝達される。
常とは違う方法で伝達されたそれは、翌日には実行された。


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次の日、丁度報告日だった一護はいつも通り瀞霊廷を訪れる。
『一護、常と少し気配が違う』
『出入り口で構えてる奴がいるぜ』
扉を潜り終える直前に警戒するよう促す斬月と朔護に、一護も少しばかり警戒して扉を抜けた。
「ッッ旅禍だ!!!!」
「怪しい侵入者め、成敗してくれる!!!」
扉を抜けると同時に驚愕され、刀を向けられて一護は困惑しつつもその場を離れる。
(どういう事だ?!)
『演技、でも新米ゆえという訳でもなさそうだ』
『追手だ、席官だろうが数人来るぞ』
混乱する一護に一先ず回りの状況と見解を述べる二人、言われた通り既に数人が追いついて着ており鬼道の火球が傍らを掠めた。
「「「「覚悟!!!」」」」
「待て!!俺は死神代行だ!!!何で追手が来るんだよ?!?!」
「代行だと!?そんな者は護廷には無い!!!」
「愚かなる旅禍、嘘ならもっと上手くつけぃ!!!」
追手に話しかける一護だったが、席官や平隊員達は耳も貸さない。
『砕蜂と夜一が来る』
斬月の言葉が終わらぬうちに、目の前に立ちはだかる夜一とその傍らに控える砕蜂。
「夜一さん、砕蜂さん…」
「軽々しく夜一様の名を呼ぶとは無礼な、口を慎め。旅禍!」
「待て砕蜂。旅禍に聞こう、中々の実力者のようじゃが何故ここに来たのじゃ」
敵意を露にする二人に一護は言葉を失い、冷静さを失わないようにするのがやっとだった。
「俺は、旅禍じゃない。死神代行だ、代行証もある。 夜一さん達にだって何回も会った事があるんだ、俺の死神の力を鍛えたのは夜一さんと浦原さんだろ!?」
何故知らない人物のように扱うのか、そう悲壮な表情で一護は夜一に訴える。
「何…?」
「戯けた事を!!始末してくれる!!」
代行証を見て、何より一護の表情に嘘は無いと感じた夜一が戸惑った。
しかし砕蜂は主が唆されるとでも思ったのか、一護に本気で襲い掛かる。
「ッッ!!」
一護は知り合いと戦う事などしたい筈もなく、すぐに避けてその場を離れた。
霊圧を結界で消してはいるが、なんら解決策は見つからない。
むしろ状況すらわかってはおらず、一護は少しだけ頭を冷やし考えを巡らせた。
「見つけたよ、旅禍君」
「なんや、可愛い子やねェ」
「余り、やりあいたくはない。武器を捨てよ」
「そうでなくては四肢を潰さなければならないからね」
「ッッ!!」
一先ず隊舎の裏手で立ち止まっていた一護は急に聞こえた声に斬月を構える。
「藍染に市丸、狛村さんと東仙さん達まで…。俺の事を覚えてないのか……ッ」
隊長達四人がそれぞれ副官を連れ、一護を囲っていた。
「なんだって?」
「覚えてないって…知り合いなんですか?隊長」
「…一先ず捕らえよう、話はそれからだ」
「そうだな。鉄左衛門」
「へい」
「了解」
一護の言葉に首を傾げる隊長達。
副隊長たちも困惑するが、東仙と狛村の言葉に動く。
「悪い」
一斉に飛び掛ってきた副隊長たちを全員気絶させると、詫び残して一護はその場を後にした。
『…いっそ全員殺すか』
(な事しねェよ、一先ず浮竹さんの所に行ってみる)
『打開策はあるのか?』
(モノは試しだ)
イラ付いた口調で言う朔護に冷静さを取り戻しつつ、一護は急ぎ雨乾堂へ向かう。
「浮竹さん…京楽さんもいたのか」
「ついでかい?酷いなぁ、君はさっき来たっていう旅禍でしょ。なにしに来たんだい?」
「何で俺達の名前を知っているのかも聞きたいところだな」
目当ての人物を見つけ雨乾堂の庭に降り立つ一護だったが、浮竹の隣にいた京楽と七緒と海燕に睨まれ足を止めた。
向けられた事の無い冷たい眼差しに今の自分の立場を痛感させられながらも、一護は当初の予定通り代行証を浮竹達に見せる。
「これを、俺に渡したのは浮竹さんだ。浮竹さん達がどうして俺の事を覚えてないのかはわからないけど、他に証なんか無いから…渡してくれた浮竹さんの所に来たんだ」
泣きそうになるのを押し留めながら言う一護、目を丸くする浮竹達に代行証を放って渡した。
「…確かに、微かにだけど俺の霊圧が残ってる」
代行証を手に複雑そうな表情をする浮竹、京楽はそれに頷くと一護を見て笑みを浮べる。
「ま、立ったままのなんだし話そうか!七緒ちゃん達も怖い顔しないで斬魄刀を仕舞って、話そうにも警戒心剥き出しにしてたら聞いてないのと同じじゃないの」
ね、と先ずは自分の花天狂骨を傍らに置く京楽。
戸惑う七緒たちの前で一護は斬月を静かに地面へと付きたて手を離し、敵意は無いと意思表示した。
「…そうだな、先ずは話を聞こう」
一護の様子に浮竹も双魚理を置き、海燕にも置くよう促す。
それに続き七緒も警戒を解いて、全員で話をしようと一護が一歩踏み出した。
「相変わらず甘いな、兄らは。 散れ『千本桜』」
「吼えろ『蛇尾丸』!!」
「「「ッ?!」」」
突如割り込んだ声と攻撃、瞬時に避けた一護だったが肩には僅かに鮮血が滴っている。
「白哉、恋次」
二撃目を放ってくる二人に話しが出来る相手ではないと判断し、一護は雨乾堂を離れた。
「朽木!!なんて事をしてくれたんだ!!!」
「旅禍の排除は命だ、それを守っただけで何が悪い」
「あの子に、瀞霊廷への敵意はなかった。罰するのは筋違いかもしれないんだよね」
話をしようとしたところを邪魔され怒鳴る浮竹、不可解だと眉を顰める白哉に困ったな、と京楽が傘をかぶり直す。
『アイツ絶対ェぶちのめす!!』
(後でな、今は記憶を戻してもらわねェと…………)
折角のチャンスを潰してくれた白哉に殺気立つ朔護、怪我の止血はしたがやはり一護の顔色は優れない。
『…記憶ではなく記録ならば、残っているかもしれん』
(開発局か)
打開策を考えてくれていたらしい斬月の言葉に可能性を見出し、一護は向かう先を十二番隊へと変えた。
「マユリと阿近さんはいるか?」
「おやおや、まさか自分で来てくれるとは思わなかったヨ」
開発局に迷わず飛び込むと知った顔が驚愕に歪み、一護は唇をかみ締める。
「…俺の霊圧は既にデータ化した筈だ、残ってるか調べて欲しい」
真っ直ぐにマユリと見据えて言うと、一護は困惑しているリンから器具を受け取り霊圧を込めた。
「死神代行黒崎一護、斬魄刀の名は斬月…。採取日は一ヶ月ぐらい前」
違うか、そう一護は照合するようにマユリを促す。
「…一致しました、彼が言った通りです」
照合した阿近がコンピューターの画面に表示された事項を読み上げ、一護が事実を言っていると肯定した。
「……此方の記憶が操作されている可能性があるようダネ、すまないが解析に少し時間をくれたまえヨ」
自分達の作ったデータの改竄はされている筈はない、そう確信しているマユリは一護に向き直り言う。
「俺は逃げ回ってるから、なるべく早く頼む」
邪魔はしないと言外に言うと、一護は開発局を出て行った。
「副局長、いーんすか逃がして」
「この事実は認めるしか無いじゃないカネ、それともデータが改竄されてるとでも思っているのかネ、阿近」
「いいえ、そりゃありえませんね。俺ら以外が何かデータを弄れるとも思えませんし」
「なら解析を急ぐヨ、記憶のどこかに不自然な場所がある筈だからネ」
それぞれ自分の記憶を探り始める局員達、リンは一人データから他の事実が出てこないかを探る。
「何をしてるんです?」
「見てわからないかネ?私達自身に記憶置換が施されている可能性が出てきたんだヨ」
そこに戻ってきた浦原。
マユリの言葉に眉を顰めるとリンに代わりデータを洗い始め、暫くしてから慌てて外に出て行った。
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