書庫(捧げ物3)

□引き寄せられて
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流魂街に住む知り合いの所に時々だが遊びに行く一護。
その知り合いとは大抵空鶴の事で、今回もまた報告に瀞霊廷へと来たついでに浦原と夜一から手紙を預かってきていた。
「帰れって言ってんだろうが!!!!」
いつも通り目立つ家の前には見慣れぬ集団がおり、その向こうからは空鶴の怒鳴り声が響いてくる。
門番双子も険しい顔で立っていて、一護は何事かと急いだ。
「何やってんだ空鶴さん」
集団と睨み合っている空鶴達の横から声を掛けると、幾分か表情を和らげた空鶴に手招きされる。
「貴族の馬鹿共が俺達も戻して五大貴族の集会をやりたいとか抜かしてやがんだ、断ってんのに帰りゃしねぇ。 んで、今日はどうしたんだ一護、ともかく中に入れよ」
一護と共に家に入り、集団の相手を終えるつもりの空鶴が促す。
それを制止しようとする集団に浮上しかけていた空鶴の機嫌が急降下したのを見て、暫し考えて一護は口を開いた。
「四楓院家姫君、夜一さんからの手紙を預かって来てるんで早く空鶴さんに読んで貰いたいんですけど」
ヒラリと袂から手紙を出して態と言ってみせる一護に集団がざわつき、その反応に空鶴がニヤリと笑う。
「腐れ縁の夜一からとあっちゃぁ早く読まないといけねぇな、悪いが手紙を優先させてもらうぜ」
如何にも尤もらしく頷いて言うと、空鶴は一護と共に家の中へと入った。
渋々ながら集団が帰っていく気配に顔を見合わせ吹き出す二人、ザマァミロと大笑いする空鶴に一護も笑みを零す。
「夜一さん達から手紙を預かって来て良かったよ、後で返事を渡す時にでも礼を言わないとな」
「返事にも一応書いとくさ、ナイスだったぜ一護」
あー笑った、と上機嫌な空鶴と奥の部屋に入り、一護は茶を貰う。
座ったついでに適温のそれに口をつけながら、空鶴が手紙を広げているのを眺めた。
暫くは手紙を読んでいた空鶴だったがすぐに隻腕でスラスラと返事を認め、慣れた手付きで折り畳む。
「わざわざすまねぇな一護。悪いが返事だ、頼むぜ」
「こっちもついでだし良いって、またな空鶴さん」
手紙を袂に納めて軽くやり取りを交わし、一護は志波家をあとにした。
現世で浦原と夜一にそれを渡して、肉体に戻る一護。
いつも通り少しばかり菓子を買ってから帰った。


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数日後、窓辺に現れた夜一を招き入れつつ一護は首を傾げる。
次の報告日は明明後日、ここのところ大した虚も出て来ないのでわざわざ来る必要性が見つからなかったのだ。
そう思いながらも大人しく目の前の夜一が口を開くのを待つ。
「それが空鶴の手紙にも書いてあったのじゃが五大貴族を含む貴族の集会があるようでの…」
面倒そうに尻尾を揺らしながら言う夜一が言うには、その集会に出るのが嫌だと空鶴も海燕も思っているらしい。
海燕は仕事で出る時間は無いし空鶴はただ話を聞いているだけの集会なんぞ我慢ならない、しかし岩鷲では集会に出す事が出来ないと書いてあったようだ。
「その上、ワシも正式には瀞霊廷に出入りが禁じられておる身じゃ。しかし代理で砕蜂を出す訳にも行かん、一応隊長じゃからの」
そこでじゃ、と夜一は一旦言葉を切ると一護を真っ直ぐに見据える。
「すまぬが一護、ワシの代理として空鶴と一緒に会議へ出てはもらえんか」
「……へ? 俺が??」
はっきりと言われた言葉が飲み込めず間の抜けた反応を返してしまう一護に、重々しく夜一は頷いた。
「幸いお主と一緒なら空鶴も大人しくしておるじゃろうし、貴族の中でもワシと同位の者は白哉坊と空鶴の他には二人しかおらん。ワシの一番弟子で弟同然と言えば反対意見なんぞ出なかろう。日取りを聞けば一応此方では土曜日じゃ、引き受けてはくれんか」
珍しく困ったように夜一は眉根を寄せ、一護は返答に困る。
「貴族の集会だろ? 幾ら夜一さんの代理でもどうすりゃいいかわかんねェよ;」
「適当にあしらってくれて構わん、白哉坊と空鶴もおるから何とかなるじゃろ。いざとなれば黙っているだけで良い」
迫る夜一に、困惑する一護。
「集会では白哉坊もお主に滅多な事は出来ん筈じゃ、もしもの時は空鶴が隣でフォローしてくれる。ワシも一応当主じゃ只でとは言わん、そうじゃな……例えば銘菓『月世界』でもチョコの確か『グランプラス』という名前じゃったか、それも好きなだけ買ってやろう」
そこでチラリと夜一が一護を見ると、明らかに常と違い頬を紅潮させている一護が目を泳がせている。
一護の甘い物好きは限られた者しか知らない、それを知っている夜一としてはいつでも好きな物を与えたかったのだが一護は余りそれに甘んじようとしなかったのだ。
今回の事を利用して喜ばそうとした夜一だったが、思った以上に愛らしい表情で葛藤している一護に目を奪われてしまう。
「…あのさ、夜一さん。チョコの方なんだけど///」
「ああ、なんじゃ?他の種類が良ければそれでも良いぞ、コレでも五大貴族当主である事には変わらんからの」
モジモジと顔を赤らめたまま話し出す一護に夜一が身を乗り出した。
「いや、出来れば『グランプラス』が良いんだけど/// 俺だけじゃなくて夏梨達の分も駄目かな…?その、駄目なら良いけど///」
出来れば、とチラリと上目遣いをした一護に思わず人間の姿に戻って抱きしめたい衝動を何とか抑えつつ夜一は頷く。
「そんな事なら構わん、三人分用意しよう」
「本当か?! ありがとな夜一さん、なるべく頑張って集会に出とくよ。空鶴さんの付き添いみたいな感じでいいんだよな」
衝動を抑えていた為やや早口で言った夜一に笑みを返すと、一護は快く承諾を口にした。
「そうじゃ、すまぬが頼むぞ。土曜日の10時頃向こうに行って空鶴と合流してくれ、その時に一応手紙を持っていけば大丈夫じゃろうからの」
もう一度頼むぞと言い残し、夜一は窓からヒラリと出て行く。
それを見送って、一護は上機嫌に宿題を片付け始めた。


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