書庫(捧げ物3)

□近衛兵と隠されし主君
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時が満ちるまで、と優しく諭してくれた主を待つと誓った。
俺達は例え違う隊で違うモノを背負っても其れは永劫変わる事のない事だと、言葉にせずとも互いにわかっている。

時々すれ違う相手に普段通り頭を下げた、今までは逆だったそれも随分と板につき不自然さは欠片も無い。
「檜佐木、隊長の原稿預かってきたぜ」
「態々ありがとうございます海燕副隊長、浮竹隊長の連載は定評がありますから助かりますよ」
何気ない遣り取りで交わす言葉の中で、一瞬だけ視線のみで会話をして二人は仕事へと戻る。

丁度その頃、二人の死神がそれぞれの場所で任命を受けているところだった。
その任務が何を引き起こすのか、それは誰も想像する事が出来なかったに違いない。


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ふわり、薄く開かれた異界への扉から舞い出てくる黒い蝶。
酷く懐かしいそれに目をやって、一護は机に並べた宿題から視線を上げた。
(さて、どう来るか)
『これが差し金である可能性は限りなく高いからな』
『ほぼ確実だろ、アイツからの情報だと』
内側にいる相棒達と話しつつ、一護は蝶を目で追う。
同時に部屋の中に一人の死神が入って来て、バッタリと目が合ってしまった。
「お前……私が見えるのか…?」
「…悪いか、着物の幽霊なんざ初めて見たが浮遊霊なら日常的に見てんだよ」
驚愕の余り声を掛けてきた死神へと答える一護、見えぬ振りまでする必要もないと一応会話する。
信じられない、と呟く死神に対し、これ以上はどう動くべきかとも一護は考えていた。
『虚だ』
『雑魚だが近すぎる』
一護と死神がそれぞれ動けずにいると、一護の内側で声がし同時に階下から衝撃音と地震のような揺れが二人を襲う。
「なんだ?!」
「っ遊子、夏梨!!」
驚きで反応が遅れている死神を残し、一護は階下で寛いでいる筈の妹達の元へと走った。
慌てて追ってくる死神を無視し、危惧した通り怪我をしている夏梨を見つける。
怪我の大きさを確認し応急処置をしようとした一護の目に映る虚の手の中の遊子、瞬間的に沸いた殺意と衝動のままに転がっていた椅子を掴み投擲した。
「ッッオオオオォォォォォォ!!!!」
吹き飛ばされた腕に叫ぶ虚を余所に一護は遊子をキャッチし、瓦礫の中にあった柱の一部を掴んで構えを取る。
『落ち着け、一護』
『斬月が抑えてるが霊圧がマズイ事になってんぞ』
抑えたままの力でも死神化しかねない一護に声を掛ける斬月と朔護、よく見れば死神は霊圧に圧されその場を動けないようだった。
ついでに一心も見遣ったが気絶か振りかわからず一護は一先ず放っておく事にした。
一護が霊圧をある程度収めた所為かすぐに襲い掛かってくる虚、持った柱の一部で顔を殴り何とか凌ぐが遊子を抱えていた為に踏ん張りが利かず吹き飛ばされてしまう。
壁に背中から激突し、息を詰まらせるが何とか衝撃を耐え切り遊子を抱えなおした。
「っはぁ!!!」
その間にようやく動けるようになった死神が虚の腕を一閃する。
思わぬ反撃を受けた虚は雄叫びを上げ、少しでも早く霊圧を食らおうと一護へと再び襲い掛かった。
遊子を抱えたままだった一護はすぐにかわそうと横に重心を移動させたが、足が床を蹴りる刹那に目の前へと躍り出た死神に目を見張る。
自らの体を盾に自分達を守ろうとした死神に鋭く舌打ちをし、遊子を素早く床に下ろし右足を蹴り上げて虚の顔面をそれだけで止めた。
(斬月、念の為に全員に白伏と死神の力を俺が譲渡されたように幻術掛けといてくれ)
『構わぬが、死神と関わりを持つのか?』
(近くにアイツが言ってた浦原がいるからな、一応の関わりは必要だろ)
『そのようだな』
瞬時に死神を手刀で気絶させると同時に斬月によって操作される周辺の霊圧、ついでに巨大な刀で虚を一閃し倒すと一護は死神の姿でその場に倒れる。
程なくカラリと下駄の音がして、意識が戻ったらしい死神と話をしながら音の主は去っていった。
記憶置換を掛けられたらしい翌朝、トラックに突っ込まれたという無茶苦茶な理由の惨事の片付けをしてから一護は学校へと向かう。
「おはようございます、貴方が黒崎さん?」
『スッゲェ猫だな、周りの誰も突っ込まないのかよ』
(…; 黙ってろ、ってそもそも記憶置換掛けてった見てただろうに;)
やや物騒な挨拶をそこそこに、一護はルキアと名乗る死神の手伝いをさせられる羽目になった。
それこそやる事自体は難しい事でも嫌でもなかった為に引き受けた一護だったが、予想以上に面倒臭い。
『押入れは無いだろ、気配でバレバレだっての』
『常識云々の問題は現世と向こうでそこまで食い違いは無かった筈なのだがな』
朔護や斬月の呆れ声が示すように一護にとって面倒なのは仕事ではなく、押入れに住み着きそれを気づかれていないと思っているルキアだった。
そうこうしている内にクラスメート達が虚と遭遇したりと事件が起き、何とか一護は全てを解決する。
しかしコンが仲間になり少しした頃、一護とルキアの事が瀞霊廷に知れてしまった。
そして二日と経たない内に伝令役であり、浦原の存在を一護へと伝えていた一護の部下……夜一が姿を見せる。
「一護、奴らが動いたようじゃ。朽木ルキアを捕らえに来る、喜助の奴はどうやらお主にルキアを取り戻しに瀞霊廷へと向かうよう画策しておるみたいじゃが」
尻尾を揺らしながらも人目に付かない所で話す夜一、その話を聞きながら一護も考えも巡らせた。
「元々、アイツらの事に関しては俺も手を出す必要があるとは思ってたが……これも縁か、まさかど真ん中にぶち込まれる立場とはな…」
これも己の定めと割り切り、一護は肩を竦める。
「差し向けられる立場とあれば一回負けとく方が良いだろ、適当にあわせるから夜一もそのつもりでいてくれ」
「お主がそれで良いならワシが異を唱える事なんぞ無い。喜助は油断ならぬ男じゃ、それだけは気をつけてくれ」
軽く話しを終わらせ、ヒラリと屋根の上に乗る夜一。
その後ろ姿を見送り、一護は自宅へと戻った。
『コンの奴は遊んでんのか』
『朽木ルキアが姿を晦ますのに口封じしただけだろう』
帰った早々にトイレからコンを回収する羽目になった一護は、溜息を吐きそうになるのを抑えつつもコンから事情を聞く。
今しがた入った情報と合わせると余りにもタイミングの悪い行動に思わず舌打ちし、コンに留守を任せて家を出た。
ルキアの霊圧の近くには案の定知らぬ霊圧、死神だとわかるそれに一護は急ぐ。
心配して見に来たと思わせ対峙すれば、恋次と名乗った死神がすぐさま襲い掛かってきた。
『動きはトロいし刀の躾はなってねェ、たかが数年で護廷の質も落ちたな』
『そもそも霊圧の譲渡では力は失われん、学院出ならばその程度の事わかっても良かろうに』
呆れ返った二人の声を聞きながらも戦う一護、しかし力を抑えたままの上にわざと攻撃を受け終らそうとしているにも関わらず一護がやや勝っている。
そこに手を出した白哉により漸く終わりとなり、一護は予定通り地へと伏した。
斬月に精神世界深くに眠ってもらい、力を失った状況を作る一護。
浦原に運ばれてる間は自らも眠り、直ぐ傍の気配に目を覚ます。
至近距離にあったテッサイの顔に言葉を失いつつ、流れに任せて勉強会をする羽目になった。
『ネタばらししてぶっ飛ばしてェ…』
(同感だがまだ駄目だ、一先ず藍染の目的がわかったらやらせてやっから)
バレないように演技しつつも勉強会をこなし、斬月を起こして死神の力を正式に手に入れた形にする。
「明日突入に当たって一人、紹介しておきます」
そう前置きして、浦原は夜一を一護と引き合わせた。
とりあえず猫である事を突っ込んでおいて、初対面である事を印象付けると一護はそ知らぬ振りで話を進める。

翌朝、一護は体をコンに預けて瀞霊廷へと突入した。
人目を憚る事無く会話出来るようになった夜一と一護は流魂街に着地し、向こうが動き易いように一度旅禍として騒ぎを起こす。
警戒させる為に門番を倒した一護だったが、開いた扉の向こうに見えた狐顔の男の攻撃から凹丹坊を守って弾き出された。
「市丸が出てきたのは予想外じゃったの」
「様子見だろ、つまりはそこまで計画は読まれてたって事だな」
「…となればどうするのじゃ一護」
「別にどうもしねェよ。向こうの計画通りはこっちの計画通り、って事は最低限こっちがやらなきゃいけない事以外はそのままでいいって事になる」
だから構わない、そう言って一護は衝撃で倒れた凹丹坊を見遣る。
話しながら夜一が鬼道で治したお蔭で怪我は大分良くなったが気を失ったままの凹丹坊。
そのままにしておくのもどうかと思った一護だったが、隠れていた流魂街の住人達が出てきた事で会話を中断する。
「オレンジのお兄ちゃん!!」
ゾロゾロと出てきた住人達の中から躊躇いもせず駆け寄ってくるシバタに、一護は無意識に笑みを浮かべてその体を抱きとめた。
「元気そうだな」
「うん!お兄ちゃんのお蔭だよ、今日はどうしたの?」
子供に対する時の癖なのか、膝を折り視線を合わせて話す一護。
その表情は優しく穏やかで、話しかけようとしていた住人達の動きが止まり顔を赤くする。
暫く邪魔されずに話していた二人だったが、キリがついたのか一護がシバタの頭を撫でながら立ち上がると住人達が一斉に一護へ話しかけ始めた。
死神は嫌いだが凹丹坊とは仲が良かったらしい住人達に礼を言われ、治療の後を任せると一護と夜一は長老の家に一先ず上がる。
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