書庫(捧げ物3)

□男性死神vs女性死神
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一護が九番隊隊長になってしばらく、女性死神協会から〔月刊瀞霊廷通信〕で取り上げて欲しい題材があると依頼が出された。
それは女性死神協会からのアンケートで、解答用紙のハガキを綴じ込むのもあまり手間ではないので一護達編集担当は快く引き受ける。
むしろ売れ行きが伸びるのではと、修兵達は喜んでいた。
「男女共同参画、って感じだな」
アンケートの下書きを見つつ呟く一護、その言葉に用紙を持ってきた七緒とそれをチェックしていた修兵が顔を上げる。
「現世ではそう言うんですか?」
「つーか、男女きょう……なんだって?」
一応意味を理解したらしい七緒と全く聞き慣れない言葉だといった顔の修兵に苦笑すると一護は口を開いた。
「男女共同参画、まぁ仕事も生活も男女平等であるべきだって考え方かな。学校でも習うし、一応は考え方として定着しつつあるって程度だけど」
肩を竦めて話しを終える一護、すらすらと説明が出る事に感心した七緒から賞賛の眼差しで見られ照れくさそうに頬を掻く。
「それよりさ、何でいきなりアンケートなんかする気になったんだ?しかも景品付きで」
応募者から抽選で数名、女性死神の中で人気上位者のサイン付き写真をプレゼントと書かれた解答用紙に一護は目をやった。
「なるべく多くの人に答えてもらって結果を明確にしたいんです」
この程度の景品なら経費も掛かりませんし、と答える七緒に根っからの編集者である修兵も頷く。
商魂逞しいと言えなくもない二人に苦笑しつつ、一護は書類に目を戻した。
一応の確認事項を終えた七緒と修兵も自分の仕事に戻り、その日は問題など無く終わる。



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九番隊食堂、月末間近のそこは本来賑わうべき場所。
しかし常の平和主義九番隊はどこへ行ったのか、険悪な沈黙が食堂を支配する。
いつも男女隔てなくなされる和気藹々とした会話も無く、男女が見事に分かれ睨み合っていた。
「面倒な事になってんなぁ………」
「ある意味珍しい光景だよな」
睨み合う隊員達を見ながら茶を啜る一護と修兵、食堂の椅子や机が使えないので調理場で椅子を拝借している。
食堂が機能していないのは何処の隊も一緒なので、一先ず自分の隊にいるのだ。
なぜ機能していないのかといえば、先日のアンケートが発端といえる。
家事や育児、それらをどう思うかというアンケートに対して意見が分かれたのだ。
女性がやるべきだと言った男性隊員の半数以上に対し反発した女性隊員達、その論争が激しくなり全ての隊の男女が睨み合う。
結果、ボイコットを起こした女性隊員達が食堂を閉鎖した為に今に至っていた。
個人的には料理が好きな一護と、どっちがやっても同じだと考えている修兵は隊員達を刺激せぬ様に我関せずで傍観している。
「出来もしない癖に威張るつもり?!!!」
「女だってだけで威張ってるのはどっちだよ!!」
「「何だと!!!」」
時折激しく言い合いつつも睨み合う男女、しかし他の隊では決闘沙汰にまで発展している所も多々ある為まだ九番隊は平和といえた。
他の隊と言えば、女性の多い四番隊は女性優先の冷戦状態。
十一番隊は女性隊員が皆無な為に騒ぎも起きず唯一やちるが睨みを利かすので主張もしない、一番隊に至っては時折火花を散らしつつ仕事をしている。
二番隊は砕蜂に刺されかねないので声を上げる男性は居らず、副隊長の大前田といえば庶民の論議だと最初から関わりもしない。
三番隊と十番隊は乱菊と市丸を筆頭に激しく諍いを起こしており、冬獅朗とイズルは匙を投げて執務に専念している。
五番隊と六番隊、七番隊や八番隊、十二番、十三番隊は完全に男女が分かれている状態だがまだ小競り合い程度。
特に隊長達の均衡が微妙な所為で互いに大きな衝突が起こっていないと言える。
唯一例外の開発局は意外にも実力主義で男女平等、むしろ性別は認識の外なので一番平和だった。
「女性は怒らせると怖いんスから、のらりくらりとかわすべきだと思いますけどね〜」
「だったら隊員にもそう言ってやりゃぁいいじゃないすか」
「嫌ですよ面倒くさい」
「「「………」」」
古巣で安全圏の開発局で呟く浦原に阿近が突っ込みんだが、さらりと返され他の開発局員達共々呆れた様な視線を寄越す。
それを無視して飄々と道具を持ち出すと、浦原は喜々として実験に取りかかった。
暫くはマユリの機嫌が悪い日々が続きそうだと、局員達はため息をついた。
男女の諍いは無くとも思わぬ余波が来ていたらしい。


「こっちも大変みたいだねぇ」
「あぁ、特に海燕がな;」
現実逃避の為に茶を啜る京楽と浮竹、妹と妻の猛攻にあって疲弊している海燕に生暖かい視線を向けた。
「人の事をダシにして茶ぁ啜ってる暇があるなら自分の隊だけでもどうにかしたらどうですか(怒)」
気力で仕事を進める海燕が二人を睨みつけ、二人は同時に目を逸らす。
七緒や清音、都にチクチクと威圧を受けている二人としてもこれ以上矛先を向けられるのは避けたかったのだ。
女性隊員達と男性隊員達の板挟みで下手に話しをする事すら出来ない二人。
同じように狛村や藍染も板挟み状態で身動きがとれず、白哉に至っては恋次共々妻と義妹に黙らされている始末。
そんな全ての隊で走る緊迫感を余所に、一人悠々と九番隊に来た夜一。
目当ての顔を見つけニンマリと笑みを浮かべる。
「おお、一護が飯を作るのか?儂も食いたいのぅ」
厨房にいる一護を見てワザとらしく言う夜一に、一護が些か呆れた様に見やった。
「此処に来なくても自分の家で鱈腹食えるだろ夜一さん;」
「つーか自分の隊はいーんすか;」
「儂は一護の作った飯が食いんじゃ」
呆れつつも突っ込む二人に夜一は胸を張る。
開き直りの早さに脱力しつつ、一護は諦めて昼食の支度を始めた。
一応修兵も手伝ったが大半を一護が作り、暖かく美味しそうな料理が大量に並ぶ。
食欲をそそる匂いに夜一が喉を鳴らして、待ちかねたように箸を構えた。
「お待たせさん、さぁどうぞ」
今にも箸をつけかねない夜一に苦笑しつつ一護が勧め、修兵と夜一が競うように食べ始める。
結構なスピードで食べ進める二人の横で自分もゆっくりと食べ始める一護、見る間に無くなっていく料理に驚く様子もなく箸を伸ばした。
「ぷはーッ、満足じゃ!! 本当に一護は料理が上手いのぅ」
「本当で美味かったぜ一護」
「そりゃどうも、お粗末様でした」
米粒を頬に付けたまま舌なめずりする夜一と茶を啜る修兵から褒められ、あれだけ食べれば満足もするだろうと一護は呆れ気味に返す。
食堂内部では未だに続く睨みあい、食器を片付けつつもさてどうするかと一護は思案した。
「おい、お前ら。いい加減にしねーと昼休み終わるぞ」
「昼飯も食わないで仕事したら持たないだろ、半分づつでも厨房使ってサッサと済ませちまえ。少しくらいなら開始時刻ずらして良いから」
「お主らがどうしようと勝手じゃが職務に支障が出る様な事をするでないわ、一護の迷惑じゃろ」
三者三様に言い残し隊員達を静めると、一護達は一旦食堂を出てそれぞれの仕事場へと戻る。
尊敬する隊長である一護と修兵の言葉に姿勢を正していた隊員達も睨みあいつつ一時休戦し、個々に厨房を使ったり食べに行ったりと解散していった。

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