書庫(捧げ物3)

□玉石混淆
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定時で終えた仕事場を後にして、隊舎の自分の部屋ではなく人気の無い所を目指す一護。
慣れぬ道を散策しながらも体を動かすのに手頃な場所を探した。
隊舎の裏手、普段から修練に使われているらしい窪地を見つけて躊躇いなく降りる。
(結界張っても此処じゃ見つかるか)
仕方ない、そう思い直し一護は斬月を岩に立てかけた。
因みに斬月は悪目立ちしないよう浅打ちの形を保ってもらっている。
ス、と一護は腰を落とし体に馴染んだ空手の構えを取った。
正拳突きから蹴りへ、勢いをそのままに回し蹴りへと流れる。
前進と同時に幾つかの型を連動して行い、腕を引きながら重心を移動させて元の位置に戻った。
最後に手を合わせ、息を整えつつも場に一礼する。
と、そこに突然襲い掛かる鬼道。
「ッ!」
一護は瞬時に斬月を掴み、抜いた勢いで切り払った。
霧散する火の粉の先、ニンマリと笑みを浮かべた褐色の女性と目が合う。
「見事な反射神経と腕前じゃ、よく儂の鬼道を切り払ったのぅ」
避けれるとは思っていたが、とその女性は笑った。
「まさか、火事場の何とやらです……俺に何か用ですか、隠密機動総司令官の四楓院殿」
酷く丁寧に言い、無用な詮索をされぬように用件を聞く一護。
その回答に夜一は益々楽しげな笑みを浮かべた。
「何、余りに卓越した動きをしていたので見学していただけじゃ。しかし堅苦しいのは好きではないのでの、名字ではなく夜一と呼べ。主は名は何と言う、ついでに所属はどこじゃ?新入隊員であろう」
腰に手を据え、問う夜一。
答えねばその場を動く事も、一護を逃がす事も無いだろうという事が聞かずともわかる。
「…今期より一番隊所属となりました黒崎一護といいます。 ………夜一さん」
渋々と名を名乗り、要求通りに夜一の名を呼ぶ一護。
「そうか、一護。修行中に邪魔をしてスマンかった。ワシの隊に来る気はないか?主の実力ならば席官として十分にやっていける筈じゃ、十席へ据え実力に応じてすぐ昇格させてやろう。二番隊、もしくは隠密機動に来ぬか?」
「俺はまだ平になったばかり、買い被り過ぎですよ。 失礼します」
破格の待遇を約束する夜一に差して態度を変えずに断ると、一護は一礼してその場を離れた。
(一筋縄じゃいかないな、諦めてくれそうもない)
『早速目をつけられたし、楽しもうぜ一護』
『どの程度まで実力を悟られているかもわからないからな』
見送る夜一の視線に苦笑しつつ、一護は相棒達と隊舎へと戻る。


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夜一と遭遇してから数日後、一護は順調に仕事をこなしていた。
仕事の手際も良く実力あり、危なげなく戦う一護。
同僚達にも頼られつつも上に行こうとはせず、我を張るような事もしない。
自然と周りに人は集まるがさり気無く交わし一線を引いていた。
その様子は他の隊にも知れ渡り、密かに一護を見に行く輩が後を絶たない程。
当然、隊長達もそれを知って好奇心を沸かせていた。
「一護はかなりの実力者、その上人望も凄いようじゃの」
先に目を付けていたとあって上機嫌に浦原に一護の事を話す夜一。
それに気を悪くするのは話を聞いている浦原と一緒にいた砕蜂、傍で聞いていた乱菊や京楽たちだ。
「…でも夜一さん、誘って断られたんですよねェ? 珍しいじゃないッスか、貴女が獲物を逃すなんて」
「なんじゃと、喧嘩なら買うぞ喜助。ワシはまだ隊の生活に慣れとらん一護に無理を言うのは得策ではないと思って様子を見てるに過ぎん!」
自慢する夜一にクスリと笑みを零し皮肉る浦原、フゥッと猫の威嚇のように鼻先に皺を寄せ夜一が反論する。
「でも、まだ一番隊所属なんですよねその子。 私の隊に貰っちゃおうかな〜〜美人って評判なのよvv」
「可愛い子だったら僕の隊にも欲しいなぁ」
酒瓶を一気に煽りながら言う乱菊、それに頷き京楽も思案し始めた。
「みんな何か面白そうな話してる〜〜。 剣ちゃんにも教えてあげよッと♪」
酒の席に紛れ込み甘味を食い散らかしていたやちるはそう呟くと、その場から誰に気付かれる事も無くその場を立ち去る。
その発言に気付けば、全員総出で止められたにも関わらずやちるは意気揚々と戻って言った。


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翌日、いつも通り仕事を始めた一護は外の騒動に顔を上げて目を丸くする。
本来一番隊は規律を最も重んじる隊、しかしそれとは正反対の人物がズカズカと入ってきていたのだ。
「黒崎一護ってのはどいつだ?」
新入隊員達が集まっている仕事部屋の扉を乱雑に開け、ギロリと剣八が隻眼で見回す。
「…何かしたのか……?」
「ヤバそうだぜ…;」
コソコソと囁いてくる同僚達、しかし剣八の霊圧に冷や汗を流しこれ以上何かされたら倒れてしまいそうだ。
「なんもしてねェよ、わかんねェけど行ってくるから仕事よろしく」
軽く同僚達に言うと席を立ち、一護は扉のところの剣八の前に立つ。
「俺が黒崎一護です、更木隊長。平の俺に何かご用でしょうか?」
ピンと背筋を伸ばして剣八と対する一護に、剣八の口角が釣り上がった。
「ああ、手合いの相手を探してんだ。俺の相手をしやがれ」
「…失礼ですが更木隊長の率いている十一番隊は戦闘部隊、先ずは隊士達をお相手に選ばれるべきかと思いますが。 何より俺は一番隊の山本総隊長の指揮下、勝手に職務放棄し隊長といえど他の隊の者と手合いなどいたしかねます」
どうかご了承を、と一護は慇懃に頭を下げる。
「無理やりさせるっつたら?」
些かつまらなそうに一護の言葉を聞いていた剣八だったが、一護が頭を下げて不動を貫くと刀を抜いた。
その霊圧に部屋にいた一護の同僚達は昏倒し、一護は小さく舌打ちすると同僚達を擁護する為に斬月で刀を受け止める。
僅かに意識のある数人に四番隊の手配を頼んでから、一護は剣八の刀を振り払った。
「仕方無ェから相手してやるよ、その為にも外に出やがれ」
隊長相手と畏まる必要性を全く感じなかった一護は早々に言葉遣いを改めると、剣八に移動を指示する。
先ほどとは違う言葉遣いに獰猛な笑みを返しつつ指示通り外へ行く剣八。
故意に引いていた一線を唐突に壊され、ややキレ気味に一護も外へと出た。
二人の移動した場所は外でも広い鍛錬場、周りに数人いた隊士達も剣八の姿を見ただけで逃げていく。
それを少しだけ有難く思いながら、一護は浅打ちのままの斬月を構えた。
途端に襲い掛かってくる剣八、勢い良く振られる刃が風を切り裂く。
その勢いに合わせ受け止めた刀身をずらし一護は攻撃の矛先を変えさせ、刃が切り返される前に懐へ飛び込んだ。
後ろに流れた刃が反撃してくる事を覚悟しつつも逆袈裟形で刀を振り上げる。
剣八が一歩引きながら刃を返してきた為に斬月が付けた傷は浅く、後ろからの刃を想定して身をずらした一護も肩から上腕を少し切られた程度。
そのまま何度か刃を交えさせ、一護は少し多めに距離を取る。
血を流しながらも歓喜を露にする剣八、少し取られた距離を気にするでもなく一護の出方を見ていた。
交えた際に些細だが刀身に付いた傷、目を凝らさねば気付かぬようなそれに眉を顰めると一護は汚れを払うように刀身を薙ぐ。
「…『斬月』」
薙ぐと同時に名を呼び始解の状態に戻すと、クルリと指の力だけで一回転させる一護。
巨大な刃だけのその姿に剣八は鼻を鳴らし、舌なめずりをして再び刃を一護に向け飛躍した。
激しくなる刃の応酬と細かい血飛沫、しかし一護も剣八も気にする様子もなく刀を振るう。
「凄い、更木隊長と平気でやりあってる…;」
「一体何なんだアイツ…!!」
「強いとは聞いてたけどねェ」
「予想以上ッスね、もしかしたら卍解出来るんじゃないッスか?」
「…今期入隊したばかりの若造がか?」
「更木と始解でやりあう実力があるのは紛れも無い事実じゃがな」
「それは鍛錬の結果として、問題なのは更木じゃ。勝手にやりあいおって」
「これ以上の戦闘は彼の負担になってしまいます、止めましょうか」
「そうだね、更木の勝手に付き合わせるのも可哀想だし」
「ではワシが行こう」
騒ぎを聞いた隊長や副隊長達が見る中、一護は剣八に振り下ろされた刃に左肩を抉られつつも剣八の太腿を切りつけ一度距離を取った。
片足の自由が利かず舌打ちするも片足のみで戦いを再開しようとする剣八、それに一護も応戦する為に斬月も構え直す。
その間に入り剣八の刃を止める狛村、一瞬驚いた一護が直ぐに周りの状況を見て全隊長格が揃っている事に気付き苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
(実力がバレたな)
『ま、仕方無ェって。何とかなるだろ』
『面倒にならなければ良いが……。何にせよ彼らから敵意は感じない、警戒をし過ぎは逆効果だ』
斬月を背に戻しつつもどうするか考える一護に相棒達がそれぞれ言い、一護は一旦入り過ぎていた肩の力を抜く。
目の前では剣八が他の数名から注意を受けており、どうでも良さそうに聞き流しているのがわかった。
「一護さん、大丈夫ですか?傷の手当てをするのでジッとしてて下さいね」
にっこりと微笑みながら一護の手を取り、やんわりとその場に座らせる卯ノ花。
何となく逆らえないそれに従いつつも一護は他の隊長達の視線を感じ憮然とした。
「大事は無いか、一護」
「山本総隊長、お騒がせして申し訳ありません。勝手に仕事場を離れてこんな騒動を…」
目の前に来て問うてきた山本に深々と頭を下げる一護、その様子に笑みを浮べると山本は頭を上げるよう促す。
「今回は全て更木の責任、主に非なんぞなかろう。それよりも良くアレとまともに刃を交えれたものじゃ、すぐに昇格し褒賞も与えねばなるまいの」
酷く愉快そうに笑う山本、それに少し安心すると一護は再び頭を下げた。
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