書庫(捧げ物3)

□失えない記憶の欠片
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『今度は何処に行くんだ』
(流魂街、追手も来なそうだし)
解決の糸口を見つけた一護は一旦隠れようと、流魂街に向かう。
此方から行く分には楽な門をすり抜け、知った顔のいる荒野を目指した。
普段は入りたくないと感じる門構え、しかし今は気にしている余裕など無い。
むしろ変わりは無いのではないかと淡い期待が沸いて、一護は戸口の前に立った。
「此れは此れは一護殿」
「やや、怪我をしている様子。早く中で手当てをせねばなりますまい」
暑苦しい門番双子は顔を近づけ一護を見やると、いつも通り一護を中へと通す。
「怪我するなんて珍しいじゃねェか、ははぁんさては負けて来やがったな!!」
「負けては無ェよ、久しぶりだな岩鷲」
一護の怪我を指差す岩鷲、常の通りなそれに安心しつつ一護は片手を挙げた。
「随分疲れた顔してんじゃねーか、どうした?」
覇気の無い一護に驚く岩鷲、しかしそれを口にする前にこの家の主の空鶴が一護を心配そうに覗き込む。
「…護廷でちょっと、参っちまって。それで、此処ならと思って来たんだ」
急で邪魔だったかな、と一護は俯いた。
「なに遠慮してやがる!相談くらい乗ってやっからそんな顔すんな!!」
ボスッと一護の頭を隻腕で掴み、自分の肩口に埋める空鶴。
豪快だが心底心配してくれているとわかって、一護は堪らず涙を流した。
それにギョッとする岩鷲、しかしそれを一睨みで黙らせると空鶴は一護の頭を撫でる。
「何があったんだ、俺らでいいなら幾らでも力になってやる。だから話してくれ」
静かに涙を流す一護にゆっくりと話しかける空鶴。
ポツリポツリと、一護は今日来てから今までずっと旅禍として追われていた事を話した。
「最後に、マユリに頼んで…霊圧の記録を調べてもらえるようにはなったけど。 皆、俺を旅禍だって……ッ!」
何を言っても届いていないような感覚が何より恐ろしかった、そう一護は空鶴の背に回した腕を縋るように力を込める。
「大丈夫だ。俺らはちゃんとお前の事を知ってるし、覚えてる。夜一と浦原の馬鹿野郎はブン殴って記憶を取り戻させてやるから、一護は安心して此処にいろ」
空鶴達からすれば幼い、それでも常は毅然として強かった一護。
親しくなってからはそれこそ実の弟かそれ以上に空鶴には愛しい存在だった、その一護を傷つけた腐れ縁達に怒りを煮え滾らせつつも空鶴は一護を落ち着かせた。
いつもは自分がいる部屋に座らせ、空鶴は一護を横にさせる。
「疲れてんだろ? なら一回寝とけ。大丈夫だ、馬鹿共なんかには邪魔させ無ェ」
肩の傷を鬼道で治し、疲れている一護の髪を撫でながら眠りへと落とした。
元々鬼道に秀でた家系の空鶴、治療や日常で必要な技などお手の物で一護はすぐに眠りにつく。
ついでに結界を何枚も張ると、空鶴は外に出て岩鷲と門番双子に向き直った。
「いいか、俺が帰るまで誰も近づけんな。夜一も浦原もだ!!」
「「「ッはい!!!」」」
常以上の気迫にビビりつつ返事をする三人。
それに頷くと空鶴は護廷へと向かう。

一番隊隊首会室、珍しく隊長と副隊長の全員が顔を見せていた。
「旅禍を取り逃がしたそうじゃな」
「先生、それについては一つ報告が。彼の持っていた代行証は本物で、しかも彼の言った通り俺の霊圧跡がありました。本当に彼は旅禍なのでしょうか…?」
「それ以外のなんだというのだ。代行証事態が過去の遺物、何らかの方法で手に入れただけかもしれぬ」
「でも彼は僕たち全員の名前を知ってたよ、幾ら情報を持ってても全員の顔と名前を僕たちに知られずに調べれるものかな」
「…わしもそれは疑問に思った、何より旅禍は此方に何故来たのかわからん」
「狛村の言う通りだよ、私達に攻撃はしてこなかった。かなりの実力者に見えたのに修兵達を気絶させただけで行ってしまった」
口火を切った山本に答える浮竹。
白哉と京楽も口を挟み、狛村と東仙も困惑を口にする。
「霊圧を調べたがネ、彼の事は代行としてしっかりデータが残っていたヨ」
「それについてですが、アタシ達自身に記憶置換が施されている可能性の方が高いと思います。随分前に作った集団向けの記憶置換装置が局長であるアタシの許しなく使われた痕跡があったんです」
「…隠密機動と鬼道衆の一部が不審な休みをとっておる、もしかしたらワシらの知らんところで動いていたかもしれん」
そこにマユリが書類を分け、浦原と夜一もそれぞれに調べた事を口に出した。
「隊長全員と隊士達全員が記憶操作を受けていると……?」
信じられないように呟く卯ノ花、他の面々も似たような面持ちで黙ってしまう。
しかしそこにドタドタと騒ぎが聞こえ、全員が扉に目を向けると派手に蹴り開けられた。
「浦原と夜一!!!!手前ら一護に何しやがった!!!!」
ビリッと空気を震わせて怒鳴ると、空鶴はズカズカと浦原の前まで来て迷わず殴り飛ばす。
周りが止める間もなく夜一にも蹴りを見舞い、ついでといわんばかりに海燕に鬼道をぶつけた。
「何(するんですか)(するんじゃ)(しやがる)!!」
「こっちの台詞だ馬鹿共!!!!」
すぐさま抗議した三人を一喝する空鶴、そのいつに無く怒気が溢れた姿に三人は黙る。
「一護の事を旅禍呼ばわりしやがって!!そもそも追放をくらってたお前らを戻してやったのは一護じゃねェか!!!!一護はお前らの所為で死神をやる羽目になったんだろうが!!巻き込んだお前らが何抜かしてやがる!!!!」
他の隊長達を無視して怒鳴ると、空鶴はもう一度殴ろうと拳を振り上げた。
「待ってくれ、彼はやはり俺達の知り合いなのか?」
空鶴の隻腕を掴み留めると、浮竹は空鶴にたずねる。
「知り合いかだと?!一護は最初にお前の部下のヘマの後始末をしてこっちに来たんだ!!!その後報告に来るたびに気に入ったとか抜かして追い掛け回してたのはお前達だろ!!!!」
全員を睨む空鶴、その言葉に居心地の悪さを感じて数人が目を逸らした。
「…鬼道なら自力で解ける筈だ、何とか記憶を取り戻す他ないだろう」
冬獅朗の言葉に頷き、全員が一度目を閉じて集中する。
先ほど分けられた書類に乗っていた一護の名前と写真、そして自分の中にある違和感。
それらが全て符号し、痛みとなって全員に襲い掛かる。
頭が割れるような痛み、その中ででも思い出さなければと何処かで自分の声が訴えてきた。
それに従い痛みの先にある歪を見つけ、反鬼相殺の要領でそれを取り除く。
「「「「「解!!!!」」」」」
無理やり剥ぎ取った記憶操作の鬼道、その痛みより先に眩しいくらい優しくて強い一護の姿が脳裏に焼きついた。
「……まんまと、四十六室にやられたってわけかよ」
「一護さんに、なんて謝ればいいんでしょうね…」
苦々しげに吐き捨てる剣八、片手で額を押さえながら打ちのめされたように浦原が呟く。
「四十六室は、どうします?」
「僕たちと同じ目に会えばいいさ、記憶操作で一護君を二度と狙わないようにすればいい」
二度と同じ事をしない為に、と策を練る藍染と市丸。
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