書庫(捧げ物3)

□第三勢力の台頭
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大きく開いた風穴に加減を間違えたかと頭を掻きつつ、一護は虚夜宮に足を踏み入れた。
暫く歩く気でいたのだが、ある程度の距離で広間らしい薄暗い部屋に着き一度足を止める。
と、順に点いていく灯り。
幾つもある扉からピリピリとした霊圧が流れてきていた。
『どれに行くんだ?』
(わかんねェから正面)
『…さいで』
ズラリと並んだ扉の中、迷いなく正面の扉に飛び込む一護。
しかしその理由は単純で、余りの即決に朔護も僅かだが呆れていた。
『最初の刺客が来たようだぞ』
そのやりとりを眺めていた斬月が頭上を走る存在を示唆し、一護は目をそちらに向ける。
怒鳴って姿を現すよう促した一護だったが、足を滑らした上に良く言えば個性的な登場の仕方をされ思わず閉口した。
『ウゼェ……』
心底呟く朔護に無意識に頷きつつ、一護は相手のドルドーニを見やる。
「三桁ってのは意味があんのか?」
「勿論だともニーニョ、三桁の意味は『剥奪』…即ち十刃の称号を剥奪された者。此処の住人は皆が十刃だった者達だよ」
気障に答えるドルドーニ、それに素直に感心すると一護は斬月を構えた。
スィと片足を上げ、ムエタイの様な構えをドルドーニは取り不敵に笑みを浮べる。
一気に間合いを詰めて来たドルドーニの一撃を横にした斬月で弾き、一護は逆袈裟型に刃を振り上げた。
軽くバックステップでかわすドルドーニ、数回に渡り蹴りを繰り出すと一護を奥へと蹴り飛ばす。
受身を取った一護はかなりの距離を飛ばされ、広々とした広間の壁へと激突しかけて寸で体を回転させて壁に着地した。
部屋の全体を素早く確認する一護に、ドルドーニは呆れたように嘆息する。
「部屋など確認するモノではないよニーニョ、敵のみを意識しその戦いが全て。卍解したまえ、我輩はニーニョと全力でやりあいたいのだよ」
そう言ってドルドーニは一護を見据えた。
「戦いのやり方云々を説教されたくねェな 『卍解 天鎖斬月』」
「それは失礼した、『廻れ 暴風男爵』」
静かに卍解する一護に、ドルドーニも軽く返しながら帰刃し構える。
ドンッと霊圧同士がぶつかり空気が震えた。
ドルドーニの鳥の頭を模した竜巻の先が一気に一護へと襲い掛かる。
「月牙天衝」
竜巻を避け、襲い掛かる竜巻ごと月牙でドルドーニを攻撃する一護。
「…見事」
一閃された月牙はドルドーニに大きな傷を負わせ、己の敗北を悟ったドルドーニは一言呟いて気を失った。
大怪我だが何とか息のあるドルドーニに軽く治療を施し、一護は先を急ぐ。
『追ってきたらどうすんだ、此処は敵陣だぞ』
(…そん時はちゃんと倒すさ、その前に戻れればその方が良いけどさ)
少しばかりキツい口調で嗜める朔護に、一護も答えを返した。
続けて現れたチルッチも殺しはせず手刀で気絶させ、呆れる朔護に一護ももう何も言わない。


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「相変わらず優しいなぁ、一護ちゃん」
「殺しを嫌い、敵にも情けをかける…此処まで貫けるその精神は崇高ですね。素晴らしい」
「そうだね、やはり彼は殺したくないな」
一護の戦いの一部始終をモニターで見ていた藍染達はのんびりと話していた。
そこには十刃も居り、一護をジッと見つめている。
「捕らえますか?」
「いいや、そんな事をしたら死ぬまで抵抗されてしまうよ。出来れば嫌われたくないからね」
一護を気に入っているらしいウルキオラの発言に首を横に振る藍染、全員が少しづつだが確実に中心部に向かってくる一護を気にしていた。
「女を返せばコッチに来るんじゃねーか?俺らに近いんだろコイツ」
「それもそうやね。取引なら疑われんし、一護ちゃんにも嫌われんで済む」
ノイトラの言葉に市丸が頷き、一護と取引する事が決まる。
「護廷の出方など目に見えているからな」
「んじゃ、先ずは話し合いに持ち込むか」
席を立つ東仙とそれに眠そうに続くスターク、二人はすぐに部屋を出て行った。


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数人の下級破面を倒し、進み続けていた一護。
しかし目の前に現れた妹達より少し年上程の背格好の少女の破面に足を止める。
「あたしはリリネットっていうんだ、よろしく」
ニッと悪戯っ子のような笑みを向けられ、一護は毒気を抜かれた気がしながらも返事を返した。
「お前も、番号持ちってやつなのか?」
「おう、あたしはスタークの従属官なんだ。話がしたいんだって、だから聞く気があるなら着いて来なよ」
少しばかり複雑そうな面持ちで一護が聞けば、それを気にもせず軽くリリネットは答える。
「話…?」
「そ、何か取引したいんだってさ。あたしは伝言役だから内容は知らないけど、取り合えず今から行く場所にはスタークと東仙統括官しかいないよ」
いぶかしむ一護に更に言い募るリリネット、その様子からは嘘偽りが感じられず一護は僅かに悩んだが結局ついて行く事にした。
案内された宮の中には先に言われたようにスタークと東仙しか居らず、やや警戒しつつも一護は大人しく目の前に座る。
「俺はスタークってんだ、よろしくな」
「 …えっと、よろしく」
眠そうな顔で挨拶してきたスタークはクッションに凭れており、その敵意の無さに拍子抜けする一護。
「君を此処に呼んだのは彼女に伝えてもらったように話をする為だ、いきなり申し訳なかったね」
「…話ってのは何だ、なんで態々………」
刀を置き静かに話す東仙に一護は本題を問うた。
「井上織姫を返すよ、勿論無傷でね。彼女は軟禁状態だけど、私達はそれ以上は何もしていない」
「取り引きの内容は、それだけな訳ねェんだろ」
「ま、そりゃそう思うよな。でもお前が思うよりも簡単だ、俺達はお前が気に入ったから殺したくないってだけし」
「…は?」
東仙の言葉に眼光を厳しくした一護にサラリと言い、一護は思わず呆けてしまう。
「取り引きの内容は本当にそれだけなんだよ、一護君。兎も角広間で彼女を返すから移動しようか」
そう言う東仙に案内され、スタークとリリネットと共に広間へと移動した一護。
そこには十刃が揃っていたが敵意は無く、むしろ興味と好意的な視線を向けられている。
「話は大体聞いたかな?一護君。 井上織姫はもうそろそろ此処に着くから、安心してくれ」
真ん中から笑みを向けてくる藍染、眉を顰める一護を楽しげに見つめていた。
「黒崎君!!」
「井上…無事か?」
横の方にあった扉から出てきた織姫は目立った外傷も無く、本人も一護の言葉に頷き部屋の様子に困惑している。
「……藍染、取り引きの内容はなんだ。本当に殺したくないから返したってだけなのか?」
一応織姫の無事を確認し、一護は静かに問いかけた。
「そうだよ、元々彼女を攫ったのは能力を詳しく見たかったからだ。グリムジョーの腕を治してもらって能力自体はわかったし、何よりついでに護廷を現世から離す事が出来た。この時点で私達は彼女への用件は無くなっていてね。 君の事は気に入っているし、殺したいとは思わない。けれど仲間になれと言うには些か私達の関係は良好ではないだろう?だから先ずは敵意の無い事を証明しようと思ってね」
だから返すんだよ、と藍染は笑みを浮べる。
「一護ちゃん、一護ちゃんの守りたいんは現世やろ?見捨てて逃げた護廷に肩入れすんのは止めて、現世だけ守るっちゅうんはどないやろ?」
「私達が狙うのは現世の空座町ではなく霊王自身、君たちを敵に回す気はないんだ。だから護廷の戦力にはならないと約束してくれればもう手出ししないと誓うよ」
更に続ける市丸と東仙に織姫と一護は顔を見合わせた。
「あの、王鍵を作る為に空座町を狙ってたんじゃ………」
「正確には『重霊地』だね、でもそれは空座町である必要も無いんだよ。数十年か数百年後には既に別の場所が『重霊地』になってるんだから」
オズオズと口を挟んだ織姫に答えるザエルアポロ、他の十刃たちもそれに頷いている。
目の前の死神や破面には数百年など大した時間では無いのだと理解した一護と織姫は思わず言葉を失ってしまった。
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