書庫(捧げ物3)

□近衛兵と隠されし主君
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長老の家では夜一が目的であった空鶴の家の在り処を尋ね、今夜は泊めてもらう事まで交渉した。
そこで一泊が決まり歓談していると、突然微かだが地響きがして扉から一人の男が転がり込んでくる。
「ふう、またボニーちゃんから振り落とされちまったぜ」
やたら格好つけて立ち上がった男に長老が嗜めるが、岩鷲と呼ばれた男は気にした様子もない。
「…って何でこんな所に客が居やがんだ?」
ガンつけながらも一護を見遣る岩鷲、しかし本心は男だがかなりの美人である一護に目が釘付けになっているだけだった。
「いちゃ悪いか、ジロジロ見てくんじゃねェよ」
岩鷲の態度につい街で絡んでくる不良達と同様の対し方になる一護に、さらに岩鷲が喧嘩腰で構えてくる。
売り言葉に買い言葉、あっさりと表で勝負と言う運びになり一護は外で岩鷲を一蹴した。
しかし勝負が着く刹那、鳴り響いた大音量のアラームにより微妙なところで岩鷲と舎弟達は猪で走り去っていく。
(……なんだったんだ;)
変な疲れを感じつつも長老の家の中に戻り、一護は休ませてもらった。

翌朝、長老やシバタ達に別れを告げて一護は夜一と共に空鶴の家へと向かう。
巨大な腕のオブジェに関心する夜一に若干引きつつも門番のいる玄関をくぐった。
「夜一殿も一護殿も、誠にお久しぶりに御座います。直ぐに知らせてきますので…」
「夜一と一護が来てんだろ、さっさと開けろ!!」
「ッはい!!」
丁寧な口調で話す金彦の言葉を遮り、空鶴が鋭く命じ扉が開かれる。
「久しぶりだな、一護、夜一」
「あぁ、いきなりですまんの空鶴」
「邪魔させてもらうぜ」
軽く挨拶を交わし、一護と夜一は空鶴と向き合った。
「会えるのを今か今かと待ってた甲斐があったってもんだ、俺は何をすれば良い」
ひたりと一護を見つめる空鶴に柔らかく笑みを返すと、一護は夜一へ目配せする。
「護廷へ侵入したいのでの、派手に頼むぞ」
「そういう事なら任せとけ!」
不適な笑みを浮かべた夜一と嬉しげな空鶴、それを相変わらずだと一護は静かに眺めた。
「ねーちゃん何か客って、あああ!!お前!!!」
「あー……お前、志波家の者だったののか」
バッと襖を開けて出てきた岩鷲が叫び、一護は僅かに眉を顰めて軽く耳を塞ぐ。
「うるっせェぞ岩鷲!!」
「ごめんなさい!!!」
間髪入れずに岩鷲を蹴り飛ばす空鶴、派手に飛ばされた岩鷲は襖にめり込んだ。
「弟か、お前らの」
「ああ、騒がしくて悪ぃな」
実の弟にも容赦の無い空鶴に苦笑しつつも言えば、空鶴も肩を竦めて答える。
「ともかく、今日中に準備しておくから休んでていくれ」
「おう、頼んだぜ空鶴」
「明日に備えて休ませてもらうとするかの」
隻腕を軽く上げた空鶴に従い、一護と夜一は宛がわれた部屋へと移動しそれぞれに明日へと備えた。


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派手に、との注文通り花鶴砲で打ち出される事になった一護達。
一護が兄である海燕の恩人だと聞いた岩鷲も何故か加わり、三人で霊朱核を使い空鶴に打ち上げられる。
二段詠唱により騒ぎの起こし易い十一番隊のあたりに突っ込むと、遮魂膜で砲弾が分解され霊子が渦巻いて夜一と一護は別行動を取る為にそこで離れた。
轟いた衝撃に護廷の隊士達が遮魂膜を見上げているのを遠めに見つつ、一護は岩鷲の袖を掴む。
渦巻いた霊子が爆発する形で一気に落下を始める一護達。
「砂になぁれ、『石波』!!」
「志波家の口伝鬼道、石波……いつ見ても面白い技だな」
『使いこなせてるとは言え無ェ状態だけどな』
岩鷲が着地地点を砂にした事で難なく着地した一護達。
埋もれている岩鷲を尻目に関心した一護だったが、手厳しい朔護の言葉に少しばかり苦笑する。
「隊舎の外れでサボってたら手柄が落ちてくるとはな、ツイてるツイてる♪ 今日の俺はツイてるぜ!! そしてお前はツイてねェ」
何やら調子外れに口ずさみながら現れた隊士に、一護は目を向けた。
(席官、副隊長でも遜色無いクラスだが十一番として見積もれば三席か)
『変わりがなければ十一番の隊長は剣八の筈、間違いなくコヤツを倒せば来るだろう』
『根っからの戦闘狂って話だしな、時間調節にゃ丁度良い』
ザッと霊圧と構えを見て判断し、砂の中から出る一護。
「い、一護、どうすんだ?」
「うん? ああ、お前は下がってていいぜ。アイツらの構えから見ても一対一が望みみてェだし」
戦闘意欲満々の隊士に引け腰の岩鷲、粋がってはいてもやはり未熟だと一護は肩を竦めた。
「お、俺も戦う!!その為に来たんだからな!!オラ来いやオカッパ!!」
「…一角、アレは僕が仕留めるよ」
「ああ、少し遠くでやれよ。弓親」
一護に弱いと見られたとでも思ったのか、岩鷲が威勢良く弓親を挑発する。
ピシリと米神に青筋を立てた弓親に追われて走りさると、妙な空気を纏う二人が残った。
「…とにかく、名を名乗れ旅禍。俺は十一番隊第三席、斑目 一角だ!!」
「黒崎 一護だ」
互いの間にある微妙な空気を振り払うように名乗る一角、それに合わせ一護も名乗ると背負った斬月を持って構える。
軽口を叩き合いながらもジリジリと間合いを詰め、それぞれの刀が伸ばして触れるか触れないかの位置で一度止まると同時に相手への踏み込んだ。
一撃目は互いの斬魄刀を交わらせ、素早く二撃目に入る。
鞘を持ち二刀流のスタイルで戦う一角に一護は斬月で刀を防ぎ、鞘は流すか避けるようにしていた。
二刀流のままでは埒が明かないと踏んだのか一角は刀の柄と鞘を打ち合わせ槍状にし、それも何撃かかわされると三節棍へと変化させる。
「中々良い太刀筋だ、けど……少し甘い」
スッと容易く一角の懐に入り、一言言うと一護は軽く斬月を振り上げた。
切っ先でなぞっただけのように軽々と斬月が振りあがる。
しかし次の瞬間、一角から血が噴出しそれを自身が知覚すると同時に意識を失った。
「岩鷲は上手く粘ってるみてェだし、一先ず情報が先か」
霊圧の動きで岩鷲の行動を把握すると、鬼灯丸に断りを入れてから柄の中の血止め薬を使わせてもらう一護。
最後の一撃分の傷を塞ぐと、霊圧だけでは動きがわからない程度に鬼道を使い一角の意識を戻す。
「 ……なんで俺は生きてんだ?」
「よお、起きたか。先ずは酔狂なテメェをサポートしてくれる鬼灯丸に礼言っとけ」
意識を回復し早々に現状を理解した一角に一護が暢気に言い、一角は助けられたと眼光を険しくした。
「何で助けた、とか聞くなよ。負けたお前がどうこう言える事じゃない。 安心しろ、同情とか言わねェから。  数日前に罪人として朽木ルキアが連行された筈だ、何処にいるか教えろ」
「…向こうに見える白い建物、その中にいる筈だ。細かい場所までは知らねェ」
静かに問うた一護に一角も抵抗せず答え、そのまま一護は立ち去ろうと踵を返す。
「おい一護、お前達の中で一番強いのは誰だ」
「…一応俺だ」
「なら、気をつけた方がいいぜ。うちの隊長は弱い奴には興味ねェ、十中八九狙われるのはテメェだ」
目的の場所を聞き出したという事実が出来た事でその場から離れようと思った一護だったが、一角から剣八の話を聞き少しの間だけ忠告に耳を傾けた。


一角の所から離れて暫し、片端から隊士を倒す一護。
健闘していたらしい岩鷲が花火を打ち上げた事により、一護は迎えに向かう。
程なく合流し、際限なく沸いてくる隊士達を順調に片付けた。
余りの数に囲われるが、すぐに片付けるかと気楽に構える一護の耳に場違いな声が聞こえる。
岩鷲もそれに気付いたらしく、二人で顔を見合わせたがその声の主が目の前に転がってきた。
「え…、あ、あれ?;;;」
見るからに気の弱そうな青年が涙目になるなか、岩鷲は一護に目配せして許可を得ると彼の首根っこを引っ掴む。
しかし人質を取ると言う方法はあえなく失敗し、殺せコールが始まった。
四番隊の青年には悪いが彼共々岩鷲を伏せさせて一護は周り全員を一蹴し隠れる場所を探す。
「あ、あの……」
開いていた倉庫に身を潜めた一護達にオズオズと協力を申し出る花太郎、取り合えず訳を聞き同行する事になった。
花太郎の案内をありがたく受け、地下へと移動する一護達。
一先ず白い塔へと急いだ。


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緊急召集の掛かった護廷隊長達、市丸の処分は不問とされ不穏なやりとりが交わされる。
それぞれに思惑や疑惑が渦巻く中、旅禍への徹底抗戦が言い渡された。
その会議を一人、外で聞く海燕。
霊圧と気配を消し去り、ギリギリまで近づかない事で隊長達から気取られぬよう会話を聞き取る。
(さっきの花火は岩鷲として、三人して表ではバラバラに動いてるが……何をする気だ)
気付かれぬ間に上官の所に戻り、海燕は思案した。


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地下から出た一護は、待ち構えていた恋次と対峙しゆっくりと間合いを詰める。
幼馴染らしいルキアの事に気を取られ、目の前の一護を見る事すらまともに出来ていない。
(甘いっつーか、若い、な)
『馬鹿なだけだろ』
『斬魄刀共々短慮だ』
見据えているようでその向こうがわを見ている恋次に表情を変えず苦笑する一護、戦いにおいて致命的な愚行に朔護と斬月がバッサリと切り捨てる。
二人の苛立ちがこれ以上募る前に、と一護は攻撃を仕掛けてきた恋次を一撃で沈めた。
倒れる刹那、目を見開いた恋次。
「ルキアは助けるさ、アイツには借りがある」
気を失う寸前にそう言ってやれば、頼むと唇が微かに動く。
(これで少しは目も覚めるだろ)
見据えるべき対象を間違えてしまわぬよう、一言添えると一護は岩鷲達を促してもう一度地下へと潜った。


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何者かによる藍染の殺害事件。
ありえないその事件に護廷が揺らぐ。
取り乱した雛森を取り押さえる副隊長達、その中でそれを納めた冬獅朗だったが、一番市丸への不信感を募らせていた。
(まずいな、段々隊長同士で疑い始めてる上に副隊長達も揺れてやがる)
イヅルを隊牢へ護送する間、他の同僚達を見つつも考える修兵。
ともかく自分の役目を果たそうと一人一人の状態を見て記憶しておく。


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一夜明け、階段を駆け上がる一護達。
先にある一つの大きな霊圧に、一護は笑みを浮かべた。
『戦闘狂のお出ましだな』
『お蔭で雑魚を相手にする手間が省ける』
此方の霊圧も少し上げて誘うと、一気に向けられる殺気。
足を止めた花太郎と岩鷲を先に行かせ、一護は剣八と向かい合う。
「お前か、一護ってのは」
「ああ、お前は更木剣八だな」
戦いに身を置く者として直感した相手の強さに知らずお互いに口角を上げた。
嬉々として一撃目を仕掛けてくる剣八の刃を防ぎ、一護も押し切られまいと弾き返す。
「ははッ強ェな!!」
「そりゃどうも!」
勢い良く攻撃を続ける剣八とやり合いながらも、一護は少しづつ剣八へ怪我を負わせていく。
久々に本気を出せると眼帯を取った剣八、地を揺るがす程のそれに同等の霊圧で対する一護。
強大なそれがぶつかり合い衝撃を生むが、二人は構わず真っ向から刃を交えた。
今まで以上に派手に上がる血飛沫、ドサリと倒れこんだのは剣八で一護は血を流しながらも立っている。
「出てきていいぜ、副隊長さん」
「強いんだね、いっちー。良かったらまた剣ちゃんと遊んであげてね」
ヒョイと顔を上げた一護の前に現れたやちる、酷く軽い調子で言うと剣八を担いで行く。
「流石じゃな一護」
入れ替わりで顔を出した夜一に笑みを浮かべると、一護は無言で先を促した。
「藍染が死んだ、その事で護廷が揺らぎピリピリしておる。尤も、本当に死んだとは到底思えんがの……それぞれ隊長達も動いておるようじゃ」
パタリと尾を揺らして言うと、夜一は一護を伺う。
「…気掛かりなのは崩玉に手を出すタイミングだ。処刑を邪魔すりゃ出てくるだろうが、今からルキアを助けても無意味だろうな」
「仲間を増やしておくか?白哉坊は微妙じゃが浮竹は何とかなろう」
ふむ、と二人して考えると、一先ず危険な状況の岩鷲達の所に向かった。

一撃目を受けて血を流す岩鷲の前に立ち、一護は白哉を見据える。
「久しぶりじゃの、白哉坊」
「…四楓院夜一、なぜ貴様が此処にいる」
静かに睨み合う一人と一匹を余所に、一護は浮竹の方を向いた。
「海燕、悪いが此処でだけネタ晴らしだ」
「「「ッ?!?!?!」」」
凛とした声を響かせた一護の前に瞬時に現れ傅く海燕、驚愕するルキア達を尻目に再会を喜ぶ。
「一護隊長、漸く会う事が出来これ以上の事はありません。空鶴は元より岩鷲がご迷惑をお掛け致しました」
「久しぶりだな海燕、二人とも良くやってくれたさ。勿論お前達も良くやってくれてる、只タイミングを合わせるのに味方を増やしたくてな」
手に触れて忠義を示すと、海燕は一護の言葉に深々と頭を下げた。
「どういう事だ…?海燕……」
呆然と問いかける浮竹に対し、平然と一護の斜め前に立ち海燕は口を開く。
「俺は元々この方の部下だったんですよ、浮竹隊長。十三番隊に入る前の俺の所属は零番、その中でも特別な『近衛隊』第四席官。ちなみに夜一は第三席官だったので隠密のイロハはみっちりと叩き込まれましたよ」
「空鶴の兄とて容赦なんぞする気はなかったしの、流石に白哉坊より鍛え甲斐があったぞ」
口元に笑みを描く海燕と夜一に浮竹達が愕然とした。
ふ、と肩を竦めると苦笑しつつ一護は三人を見遣る。
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