宝物庫
□恐怖(うしおととら)
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とらが帰ってくると、そこには知らぬ妖怪の気が充満していた。
激しく戦った形跡はないが、うしおがいないところを見ると、この妖気の主に連れ去られたのだろう。
「ちっ!わしがいねぇときに限って!」
とらはうしおを置いて出かけたことを後悔した。
辺りを見回すと、赤い布が巻かれた獣の槍が落ちていた。うしおと妖怪が戦ったという決定打である。
充満している妖気はとらを誘うかのように何処かへ続いている。
「…わしに来いって言ってんのか……?」
挑発されているようで気にくわなかったが、行かないわけにはいけない。
とらは獣の槍を持って妖気を辿り、一歩一歩進んで行った。
とらが妖怪のねぐらに近づいてきているころ、うしおは目を覚ました。
「ここは……?」
ゆっくりと周りを見るが、そこには木があるばかり。おそらく山の中なのだろう。
「お目覚めか?」
そこには気絶する寸前に見た妖怪の姿があった。
恐ろしいほどの赤い瞳。真っ黒な肢体がその瞳を際立たせる。手にはとらと同じく鋭い爪がついており、獣の槍がない今、あの爪にやられたらひとたまりもないことは容易に想像できた。
「…殺さねぇのか」
うしおが妖怪を睨みつけながら言う。
妖怪はそんな気丈な態度をとるうしおを見て、含み笑いをした。
「何だよ?」
「いえ、あなた達は二人そろってないと意味がないのですよ」
「二人……とらが来るのか?」
うしおの瞳がほんの少し安堵の色を見せた。
「きますよ」
妖怪が来ると言えば、安堵の色はさらに濃くなる。その安堵の色を見て、妖怪は嫉妬のような思いを感じた。
うしおは、妖怪の眉間にしわが寄るのを見て何故か身体中が警報をならした。
逃げなければいけない。
頭で考えるより先に身体が動いていた。妖怪に背を向けて、何処にあるのかもわからない家に向かおう
とした。手を握り締めて、始めて獣の槍がないことに気がついたが、探している暇はなかった。
三歩ほど足を動かすと、後ろの襟を妖怪が引っ張った。
力と力が反発し合い、服のボタンが二つ闇へ消える。
ボタンのことを気にする前に、うしおは妖怪の懐に収まってしまった。抱きしめられるようなその態勢は、とら以外にされると吐き気がするほど嫌なものであった。
「や……やめろ!」
どうにかして抜け出そうとするが、妖怪の力には勝てない。
「暴れないでくださいよ」
無駄だとわかっていても暴れるうしおに嫌気がさしたのか、妖怪はうしおを地面に叩きつけた。