宝物庫

□輝く橙色の光
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                輝く橙色の光



         
        「君の名前は……?」
    

        「くろさきいちご」




         


        「いちご……?かわいい名前ですねぇ」
        思わず言ってしまった浦原。だが小さくても男の子、そんなことを
        言っても良かったのだろうか。いや、よくない。案の定、
        小さな死神?を怒らせてしまった。



        「うるせぇ!!苺じゃねぇ!!一等賞の一に、守護神の護だ!
         かわいくなんかねぇ!!」
        あまりの剣幕に、浦原はつい、「すいませ〜ん」と謝っていた。
        後に判明することだが、一護は己の名前をからかわれるのが
        大嫌いで、名前に関してのみ、性格と言葉遣いが豹変する。
        それ以外は、幼さと礼儀正しさが合わさった性格なのだが。




        「す、すいませんでした。まさかそんなに怒るとは思わなかったんスよ」
        改めて謝罪する。するとずっと黙っていた夜一が口を開いた。
        「喜助、おぬしは本当にデリカシーのない男じゃな!」
        とどめを刺された浦原はその場にゃがみこむ。
        「夜一サンに言われなくてもわかってるっスよ」




        「名前のことはともかく……君はどうしてここに?」
        立ち直った浦原が一護と名乗る少年に問う。
        「なんでって……虚の気配を感じたからだよ」
        「そうですか……。君は本当に死神なんスか?」
        「うん。お兄ちゃん達も死神なんでしょ?戸魂界にすんでるの?」
        「はい。……って、なんで戸魂界の事知ってるんスか?黒崎サン
         ……君、戸魂界に住んでませんよね?まさか、此処に住んでる
         んスか?」
        「うん。此処に住んでる。戸魂界へ行くための穿界門?
         がわからないから。」
        おかしい。普通、死んだ魂魄はすぐに戸魂界へ行くか、
        死神に魂送されるか……虚に喰われるかの3つ以外にはないはずだ。
        そして、現世にいる死神は、任務か、戸魂界を追われた者だけ。
        なのに、この子供は穿界門の開き方がわからないという。
        なにかがおかしい。考えられる可能性は一つだけ。だがそれは
        ありえない。聞いた事もない。真相は本人に聞くしかない。
        「君……どうやって死神になったんです?」




        「どうやってって言われても…。皆おんなじじゃないの?」
        「えぇ。普通は同じです。私たちは死んだ後に戸魂界へ行って、
         それで死神になりました。」
        「あれ……?俺とちょっと違うな!人それぞれってやつか!?
         この言葉、初めて使うぞ!なんかおもしろいな!」
        いつのまにやら、一護の初めて体験語りになっている。
        これはこれで和むが、やはり聞いておかないと。
        「じゃあ、君はどうやって死神になったんスか?」
        本来の話をやっと始めるころには、喋りすぎた一護がうとうとし始める
        時間になっていた。
        「う〜んとねぇ………(こっくりこっくり)」
        眠そうに語り始めた一護は文句なしに天使だ。だが、話の内容は
        浦原と夜一の予想を遥かに上回る内容だった。





        「うんとね、俺、死んだときに、因果の鎖?ってやつが切れちゃって、
         一回虚になりかけてね、そしたらねぇ、縦と横がでたらめな世界に
         いてね、そこに斬月がいて、私を探せって言われてぇ、見つけたら死神
         になれたんだよ。」
        浦原と夜一は絶句した。戸魂界へ行かず、自力で死神となったと言うのか。
        この小さな子供が。しかも、一度虚になりかけたとは。どうゆうことだ。
        確かに、極限状態ならば可能かもしれない。しかし、確立はゼロに等しい。
        それをなしえたのか。末恐ろしい子供だ……。浦原と夜一は戦慄する。
        気になることはもう一つ、斬月とは一体誰だ。
        一護が話終わるのを待っていた夜一は、話が終わるのと同時に声をかける。
        「一護、ではそなたは死んですぐに死神になったのじゃな?」
        「うん。そうだよ。斬月のおかげなんだ。」
        「一度も戸魂界へ行ったことがないかの?」
        「だって……戸魂界への行き方がわかんなかったんだもん。」
        顔を歪める一護。責められたと思っているようだ。もちろん夜一にはそんな
        つもりは一切ない。
        「あぁ〜、夜一サンが黒崎さんを苛めてる〜。」
        そうだ。いたのだ、この男が。このうざい変態男を拳で黙らせると、
        夜一は一護に再び向き直る。
        「一護、すまんかったのう。そなたを責めているつもりはあらなんだ。
         ただ、少しばかり驚いていただけなのじゃ。」
        「ううん。俺こそごめんね。えーっと、よるいちさん?」
        初めて夜一のことを名前で呼んだ一護。あまりの愛らしさに
        身体が勝手に動く。
        「愛いやつじゃ〜。ほんにそなたは可愛いのう。」
        夜一の豊満な胸に押し付けられた一護はきょとん、とした表情で
        夜一と浦原を見比べる。浦原は、
        「あぁ〜、ずるいっスよ、夜一サン。」
        などとぶつぶつ言っていた。
        しばらく一護を抱っこしていた夜一は、満足したのか一護を降ろす。
        「一護……気になっていたのじゃが、斬月とは誰じゃ?」
        「斬月はねぇ〜、俺の父さんみたいなんだよ!!出て来て、斬月!」
        誰もいない場所に呼びかける一護。それが、更に浦原達を驚かすことに
        なるとは、一護は思ってもみなかった。



                  ・ ・
        「黒崎サン……それは誰っスか……?」
        長身痩躯にサングラス。コートを纏った人影
        浦原が目を見開いて一護に聞く。         
        一護は自分の保護者的存在が
        姿を現してくれたのがご満悦のようだ。
        「おれのざんぱくとうの斬月だぞ!なぁ、斬月!」
        斬月は何も言わなかった。
        その代わりのように一護を抱き上げる。
        「わぁい!斬月の抱っこ大好き!」
        その瞬間、斬月の無表情だった顔が、僅かに綻ぶ。
        「よるいちさん、うらはらさん、おれのざんぱくとう、斬月だよ。」
        「斬魄刀……具象化できたんスか…」
        信じられない。しかも、具象化した状態で他人と話すなんて、
        護廷隊の隊長格でも不可能に近い。
        一護は斬月の腕に抱かれて安心したのか、眠りについてしまった。
        主が眠った=意識がなくなった状態なのに、一護の斬魄刀、斬月は
        刀も本体も開放状態、具象化が解けない。
        なぜかと二人が思案していると、斬月が初めて口を開いた。
        「僅かな時間だが、主が世話になった。礼を言う。」
        死神の意識がない状態で話す斬魄刀など聞いたことがない。
        研究者である浦原はこのことに興味が湧いたのか、積極的に話しかける。
        「礼には及ばないっス。それより斬月サン。いろいろ聞きたい事があるっス。」
        斬月は眉をほんの少し上げる。しばしの沈黙。
        「……私に答えられることなら、お答えしよう。」




        「ではまず一つめ。なぜ黒崎サンは死神になれたんスか?
         戸魂界にも行かずに。」
        「一護はもともと死神の力をもっていた。生前からな。
         時期が早かっただけだ。」
        「そうですか……詳しいことはあとで聞くして……二つめ。
         主ある黒崎サンの意識がないにも関わらず、何故あなたは解放状態、
         及び具象化状態が解けないんスか?」
        「一護の斬魄刀、つまり私は常時開放型だ。一護の霊力が高すぎて、
         封印できない。」
        まさか、常時開放型だとは。戸魂界でも常時開放型なのは更木しかいない。
        「そうっスか。道理で。先ほど見た限り、黒崎サンはかなり腕がたちそうですが」
        「一護は私達が稽古をつけた。斬拳走鬼はマスター済みだ。
         そこらの隊長格よりかはずっと上だ。」
        小さい子供なのに、隊長格と渡り合うほどの力。それを、年端も
        行かない子供に叩き込むとは……。逆に怖い。
        「あなたが稽古をつけたんですか!?具象化した状態で更に稽古なんて
         ……。黒崎サンの霊力、底なしですねぇ…。」
        ここで、浦原の脳裏にある可能性が生まれる。いやでもまさか、
        いくらなんでもそこまではないだろう。と打ち消す。
        だけどやっぱり気になり、聞いてみる。
        「あの〜、黒崎サン、まさか卍解までいってるとかは……
         ないっスよね。」
        答えはあっさり出る。
        「一護は卍解まで習得済みだ(本当は虚化までできるのだが……
         言う必要もないだろう)」
        これには、驚きを通り越して悲しくなった。こんな小さな子供が
        卍解を習得するまで鍛錬しているのに、護廷の連中は何をやっているのだと。
        



       浦原と夜一、そして斬月が話し初めて数十分。一護が目を覚ました。
       「起きたか、一護」
       「うん。斬月、うらはらさんたちとお話してたの?」
       「あぁ。起こしてしまったか?」
       「ううん、だいじょうぶだよ。」
       寝起きだからか、一護の口調はなんだか頼りない。またそこが可愛いのだ、
       と後に夜一は語る。
       しばらく二人で話したあと、一護は浦原達に向き直る。
       「うらはらさん、よるいちさん、お話の途中で寝ちゃってごめんなさい。」
       「いえいえ〜お気になさらず」
       「そのようなこと、気にしておらんからのう、安心せい」
       「それより……さっき夜一サンと話したんっスけど……」
       「儂らと一緒に戸魂界へ行かんか?一護」



       「うらはらさんと、よるいちさんと一緒に……?行きたい!
        ねぇ斬月、おれ行きたい!うらはらさん達といっしょに戸魂界行きたい!」
       「私はお前の力だ。一護、お前にどこまでもついていく。(異論はないな、
        心護)
       『へっ、しゃあねぇな』
       「一護、私も心護も異論は無い。」
       「うん!ありがとう!斬月、心護!」
       「そうゆうことだ。お二人、よろしく頼む。」
       「お任せくだサイ!ところで、心護サンて誰です?」
       「いずれわかるだろう。」
       「やったぁ!これで一緒にいられるんだね、うらはらさん、よるいちさん!」
       か、か、可愛い………!!!
       「はい、ずっと一緒ですよん♪」
       「喜助、おぬしが言うと変態の戯言じゃ。……一護、よろしくのう。」
       「うん、よろしくね!よるいちさん、うらはらさん!」




       「では、行きますか♪」
       瀞霊廷のアイドルが誕生するまで、あと少し!


        
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