あいのうた

□甘いあなたの味
1ページ/1ページ

応接室のテーブルで書類に目を通していれば、ガチャンと荒々しい音を立てて目の前に出されるカップ。
「………」
「………」
書類から目を離し不機嫌な顔を見上げる。
「ねぇ、もうちょっと丁寧に出来ないの?」
「………」
ふぅん、無視する気。まぁ良いけどね。
とりあえず出された紅茶を一口飲んでみる。
「不味い、やり直し」
言ってカップを突き返すと隼人が吠え出した。
「何回目だと思ってんだ!いいかげんにしろっ!」
「本当に君は何回やっても覚えないね。いいかげんにしたら?」
「クソッ…もーやってらんねぇ!」
悪態をついて応接室を出て行こうとする隼人の腕を掴み引き止める。
「痛い、離せッ」
今日はバレンタインだというのに隼人が僕に何も用意してないから、美味しい紅茶を淹れてくれれば許すと、譲歩したのに…
「紅茶のひとつも満足に入れられないなんて…」
はぁ…と大きな溜め息をついてみせる。
「淹れてやってるだろ!」
「そうだね。不味い紅茶を何度も淹れてくれてるね」
ありがとう、と嫌味たっぷりに言って見せるとますます不機嫌になるのが明らかに分かる。
僕もかなり機嫌が悪かった。だって何も無いってどういう事なのさ。
けど、まぁケンカをしたい訳じゃない。
テーブルの引き出しから綺麗に包装された箱を取り出し隼人に手渡す。
「…なんだよ」
「プレゼント」
「……」
怪訝そうな顔をしながらも隼人はそれを受け取りソファに腰を下ろすと箱を開け始めた。
中には粉砂糖のたっぷりかかったトリュフが入っていて箱を開けるとふわりと甘い香りが舞った。
「…うまそう…ありがと…」
隼人が照れたように言う。先ほどまでの不機嫌さは何処かへ行ったみたい。
「食って良い?」
「もちろん。隼人のために用意したんだから。」
隼人はトリュフを一粒手に取るとそれを口へ運ぶ。
「っ!!すごっ…うまい!!」
「そう、良かった」
「雲雀も食えよ!」
「僕はいいよ、それは君にあげたんだから」
箱を僕の目の前に差し出して食え!と言ってくるのを断ると隼人は少しムスっとしてまた一粒手に取り口に運ぶ。
そんな隼人の様子をじっと見ていると不意に顔を両手で挟まれる。
「え?」
次の瞬間には唇が触れて、口の中に甘い隼人の舌とトリュフが入ってくる。
「ん…」
僕の口にトリュフを押し込むと隼人はすぐに唇を離した。
「隼人…?」
僕と目を合わそうとせず顔を赤くしたまま口を開く。
「紅茶は…美味く淹れらんないから…それ…で、」
「何?」
無理矢理目を合わせて言葉の続きを促すと照れ隠しのように隼人が声を大きくして言った。
「っ…プレゼント!」

その姿がすごく可愛いから…今年はこれで許してやるか。
「もっとちょうだい?」
そう言ってもう一度深く口付けをした。








甘いあなたの








◇◇◇
甘いあなたの味=(メロン記念日)
甘〜甘〜。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]