薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)番外編 ―Red Tears―
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空虚な時間が流れる。僕がそうなるように仕向けたのだから何も言えない。真っ暗な部屋は誰もいないと淋しい。
「…千鶴ちゃんはもう寝たかな…?」
僕は2階の姉の部屋のドアを開けた。すると真っ暗な部屋から優しい寝息が聞こえてくる。疲れたのだろうか完全に熟睡していた。
僕は再び下に下りて暗いリビングに一人佇む。カーテンを開けると月が僕を照らす。部屋に入る一筋の白い線。僕はそれの行き先を追った。でも別に何もない。光の行き先は虚無。
「…………………………」
僕は無意識に棚の上の自分の写真に手を伸ばす。母の趣味で毎年僕の誕生日毎に増えていく僕の写真。
でもこれは僕じゃない。これは『沖田総司』と言う名を貰った器。
僕は僕。
僕は沖田総司。
僕は新選組一番組組長。
僕はこの写真の『彼』じゃない。
じゃあ『彼』は誰なんだろう。
彼は沖田総司。
彼は普通の人間。
彼は『僕』じゃない。
僕と彼の『違い』は考えれば考えるほど沢山出てきた。
僕は羅刹。彼は羅刹じゃない。
僕は強い。彼は強いか知らない。
僕は幾年の記憶がある。彼は数年の記憶しかない。
彼には未来がある。
でも……僕は未来が見えない……
「…………………………」
僕は写真の中の『彼』を指でなぞった。
「…………………………」
僕は未来なんかない。
ならどうして今ここにいるんだろう。生まれた時から死ぬ事が決まっている僕。
どうして僕なんだろう。どうして僕だったんだろう。
「………………僕は……」
違う。僕は若変水を自ら飲んだ。後悔してない。そう千鶴ちゃんにも説明した。
「……………後悔なんか………」
違う。
「………………自分で選んだんだから……」
違う。
「……自分で……」
違う。僕は沖田総司だ。誰でもない沖田総司。新選組の沖田総司じゃない。僕は新選組一番組組長の沖田総司の記憶はあるけど、魂も新選組一番組組長の沖田総司のものだけど、違う。
僕は沖田総司で母さんと父さんの息子として産まれて、普通の人間として普通に生活してた。
「……違う…………」
写真の『彼』にポタポタと涙が落ちた。水に『彼』の笑顔が歪む。
これも違う。僕は泣くほど弱くなんかない。だから今の僕は沖田総司じゃない。
でも僕は沖田総司で新選組一番組組長の沖田総司が転生した器。
どうして僕だったんだろう。どうしてあの時沖田総司は若変水を飲むことを選んだ?
「っく………」
涙が溢れて溢れて止まらない。僕が流す涙は一体なんなんだろう。とめどなく流れる涙は『彼』の全身を濡らす。
あぁ…もしこの涙が赤かったら『彼』は血まみれだ。でも涙は無色。よって『彼』は生暖かい雨に打たれているだけに過ぎない。
僕は僕。普通の高校生。普通の人間。
だけど僕は沖田総司。新選組一番組組長。未来のない羅刹。
あぁ…僕の全身は血まみれだ。誰の血に濡れているかわからないけれど…
僕と彼は違う運命。
落ちた涙が月光に反射して光輝く。それは虚しさ以外の何にでもない。

どうして僕?

どうして僕は普通の高校生じゃない?

誰がこんな運命を決めた?

僕は普通に生きて、普通に死ぬことも許されない?

僕の手に残るリアルな人を刺した感触。降り注ぐ血の暖かさ。冷たくなった身体の重さ。
僕は全部知ってる。

そうかこれは罰。
前世の罪を負って生まれた僕の贖罪のための人生。


そっか……
僕は贖罪のための命……
そっか……
そっか………
そっ…か………


「…………………………」

僕がこの世に生まれた理由。僕の沖田総司の贖罪の人生。そう考えれば納得出来る。
僕は『彼』だけど僕は『彼』じゃない。


『沖田さん!』

千鶴…ちゃん?
君はどうして僕に笑いかけてくれるの?

『沖田さんの傍に…』

傍にいたらダメだって何度も言ったのにそれでも僕の傍にいるの?僕は君を危険な目に合わせてばかりだ。

『沖田さんが無事でよかった』

僕は……
君を守るために生きた。君が僕の生きる糧。君が僕の唯一の光。沖田総司の唯一の希望。
「違う……」
違う。そうだ『彼』は彼女を知らない。僕は彼女を守って。戦って。
僕は千鶴ちゃんを守ってた。それは真実。それは僕。間違いなくそれは僕。
千鶴ちゃんを守ってるのが僕。千鶴ちゃんを知らないのが『彼』。でもどちらも沖田総司。
そっか……
どっちも沖田総司……それも紛れも無い真実。
「……僕は沖田総司……それは違わない……」
そっか…
なんか分かった…
分かった気がする……

でもどうしよう…千鶴ちゃん…せっかく僕が僕を分かったのに…自分が見えたのに…


――僕は自分の未来が見えないままだよ――
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