薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)N
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私達の目的は一つ。父様の計画を止めること。全てを賭けて…
「千鶴ちゃん!大丈夫?!」
「はい!!」
沖田さんは襲い来る羅刹を刀で切り裂きながらも私のことを常に気にかけてくれた。私は平気。羅刹は薫が殆ど倒してくれて、零れ羅刹は沖田さんが倒してくれるから、私はほぼ走っているだけ。
開かれる赤の道を私達は走る。例の扉まであと少し。私達は勢いはそのままに中へと飛び込んだ。



部屋の中は異質だった。明らかに空気が違う。淀みきっている。独特の機械音が耳の奥まで届く。それは耳鳴りに近いくらい酷い。
この部屋だけ少し明るい気がした。見上げると天井が一部抜けていて、そこから僅かに欠けた月が見えた。
「………父様!!」
私の声は幾重にもこだましてやがて消えた。反応はない。
でも父様はこの部屋にいる。私の血がそう言っている。
「……千鶴ちゃん……」
やがて闇の中から現れる一つの影。沖田さんはすかさず刀を構えようとしたけれど、私はそれを手と瞳でやめて下さいと訴えた。その直後は何か言いたげだった沖田さんだけれど私の意思を察してくれたのか刀を下ろしてくれた。
だんだんはっきり見えてくる父様。
「……千鶴……やっぱりお前は私の計画を認めてはくれないのか……」
父様は私達から少し離れたところで足を止めた。そして悲しそうに微笑んだ。
「……認められません。父様がやろうとしてることは間違ってます!羅刹はこの世にあってはいけないんです!!」
「………そうか………なら千鶴……お前は隣にいる沖田を殺せるかい?」
「え?」
「彼だって羅刹だ。それも限りなくオリジナルに近い……」
父様はそう言って笑った。別に忘れていた訳じゃない。沖田さんは確かに羅刹。私の言うのが正しいならば…
私は沖田さんを見た。すると沖田さんはニッコリ笑い返してくれた。
「……僕は……いいよ?君に殺されるならそれもまぁいいかなって思う。」
「……沖田さん…」
「……だそうだ…千鶴……お前は目の前の沖田を殺せるかい?」
私は腰の刀に手を添える。でも私は沖田さんを殺すつもりなんか全く無い。沖田さんはいつもと変わらずニコニコとしている。
「…さぁ千鶴……」
父様の声が脳に響く。殺せと父様は何度も言う。
「……千鶴ちゃん……」
私と沖田さんは見つめ合う。沖田さんのエメラルドに輝く瞳に私が映る。沖田さんは一体今何を思っているんだろう。沖田さんは約束を破るような人じゃないから、間違っても殺される事を望んでいるはずがない。だから沖田さんはきっと何かを持っている。私はそう確信していた。
沖田さんのエメラルドの瞳の中の私は悩んでいた。羅刹の瞳に映る私はいつも涙を堪えていた。血を浴び血に飢え、羅刹に苦しむ沖田さんを前にして。沖田さんの瞳の中の私はいつも…
「……!!」
私の変化に気が付いた沖田さんの口端が上がったのが分かった。
私達はここに来るまで散々血を浴びてきた。なら何故沖田さんは血を求めないでいられる?あれだけ浴びれば嫌でも身体が血の香り感触を覚えてしまう。
そう考えれば答えは一つ。でもとても信じられないこと。私は私の予感を信じられない。私はもう一度沖田さんを見た。
「……僕は千鶴ちゃんに任せるよ……」
沖田さんはニッコリ笑いかけてくれた。
だから決まった。
「さぁ千鶴、殺すんだ…」
「…………私は……」
「さぁ……」
「私は沖田さんを殺しません!!」
「………何言ってるんだい?お前は自分の発言にも責任を負えないのかい?」
父様の眉が動く。私が沖田さんを殺さなかったことが相当腹立たしかったのだろう。父様から怒りのオーラを感じる。でもそんなことで怖じけづく訳にはいかない。
「発言を撤回するつもりもありません。羅刹はこの世にいてはいけない!!」
「なら!!」
「……私は羅刹以外に傷を負わせる気はないです…!」
「なっ?!」
父様の表情は明らかに驚いていた。対する沖田さんは笑っている。
「な…何を言っているんだい?千鶴…こいつは……」
「残念だけど綱道さん……僕は羅刹じゃないよ?」
沖田さんははっきりそう言った。これで私の推測は推測の枠を越えた。沖田さんは羅刹ではない。
そう思ったのは初めてじゃない。かと言ってだいぶ前と言うわけでもないけれど。思い当たることは沢山あったから。
「そそそんなはずは無い!!お前は新選組の時から!!」
「あははは!驚いてるね!!……でも一番驚いたのは僕なんだけどね!」
沖田さんはそう言ってケラケラ笑った。一見するとどっちが悪かわからない。それ程に沖田さんの笑いは悪魔的。
「だから葬られるべきは綱道さん。あなたの方だよ。」
沖田さんは太刀で父様を指し示した。私も太刀を構える。
「父様!間違いを認めては下さい!!」
「……くっ………………」
父様は悔しそうに眉をひそめた。これで終われば良いと思うのはムシがいいだろうか。そうなれば誰も傷付かずに済むのに。
だが現実は上手くいかない。
「はははは!!!」
「「…………………………」」
父様は高らかに笑った。私の望みは儚く散った。私はやり場のない悲しみから刀を強く握りしめた。
「…やな感じな笑いだね…」
沖田さんも警戒している様で構えた刀が輝きを増した気がした。父様は笑うのを止めない。闇が一層濃くなる。やっと笑うのを止めた父様は怖いくらい微笑んでいた。
「…そうか……ならばそれはそれでいい……ただの人間の沖田に羅刹の私は倒せまい…」
「……間違いは認めてはくれないんですね……私は父様とは戦いたくなかったのに……」
「……羅刹の沖田には負ける気がしていたが……ただの人間ならば…羅刹の私が有利……そうか…羅刹の効力はないか……沖田…お前は記憶も完全ではないだろう?」
「…………………………」
え?記憶が完全ではない?一体父様の言葉はどういう意味なのだろう。沖田さんは黙ったまま微笑んでいる。
「……ならば千鶴もか………」
「…私は完全に自分を分かっています!」
「ならばお前達は自分達の最期を知っているかい?」
父様の台詞に私は思わず考え込む。そう言えば私は一体130年前にどうしたのだろう。沖田さんと薫が戦って、父様はその時私を庇って死んだ。それで薫もその時沖田さんが…
「千鶴ちゃん…」
それでその後は?私は故郷に帰った?病気の沖田さんを置いて?
違う。それだけじゃない。その前も断片的に記憶が途切れてる。私は沖田さんに諦めるなら殺すと言われた。それから……
やっぱり記憶がない。確かにその後沖田さんと何かあった。でも思い出せない。なんか新選組から離れた後からどうしても記憶が斑だ。
「どうして……?」
「記憶と過去の力の目覚めは等しい……私はそう気が付いた…」
父様に言われて初めて気が付いた。記憶の大部分が目覚めてから世界が忙しく周り始めたから気が付かなかった。
「あんたを倒せるだけの力があれば別に構わないよ。それに羅刹じゃなくなったのは記憶が原因じゃないよ。それは間違いない……」
沖田さんはまるで私に語りかけるかの様に言った。確かにそうだ。130年前の記憶とか別に今更変わらないしあっても仕方ないと言えば仕方ない。私には今世界を救えるだけの力がある。私はそう思い、刀を構え直した直後だった。
「千鶴………甘いな!!!」
父様はいきなり私に向かって太刀を振り下ろす。それをすかさず沖田さんが受け止める。
「沖田さん!!私自分で戦います!!」
「違う!!君にはやるべき事があるよ!!」
沖田さんは父様と太刀を交えながら私と視線を合わせた。よそ見しながらでも父様と互角に戦える沖田さんはやっぱり強い。
「あの羅刹化させる機械を壊す必要がある!!千鶴ちゃんはそっちを!!」
「はっはい!!」
私は沖田さんに言われた通り機械へと身体の向きを変える。
「させるか!!」
「僕のこと無視するなんてね…甘いよ!!」
沖田さんは父様の背中に一太刀入れた。血の飛び散る音に振り向けば、私と沖田さんとの間に赤い液体が舞う。
普通の人間ならば間違いなく致命傷とも成り得る傷だっただろう。しかし父様は羅刹。そんな傷はまるで無かったかの様に体勢を立て直した。
「…沖田…お前がこんな甘いとは思わなかったな……」
「負け惜し……?!」
父様は私が見ている目の前でその姿を消した。そしてすぐに沖田さんの背後に現れた。
沖田さんの表情が急変する。あまり先程の余裕は感じられない。
「…くっ…」
切り裂かれる寸前の所で沖田さんは身をかわした。だが完全には避けきれず、切れた袖から赤い鮮血が滲み出す。
「……っ………もう御高齢なのに随分と速いですねぇ…」
「羅刹にとっては普通だよ…」
父様は笑っている。自分が負けるとは絶対に思っていない笑みだ。
「千鶴ちゃんは早く機械の方を!!時間がない!!」
「っでも!!」
「平気!僕一人でも充分だよ!」
沖田さんはそう言っていつもの様に笑った。
これ以上この場にいても私は沖田さんの足枷になるだけ。沖田さんのことはもの凄く心配だけれど私は再び機械に向かって走り出した。機械は上。私は一番近くの階段から駆け上がる。
「追い掛けないの?」
「お前一人片付ける時間などほんの少しの時間で済む…」
「……ナメられてるねぇ…」
「羅刹じゃないお前に何が出来る?」
「さぁ?少なくとも長生きは出来るよ。」
「減らず口を!!」
キイィィィンと言う金属音が部屋に響き渡った。上りかけの階段から下を見下ろすと沖田さんと父様の太刀が交差している。沖田さんは笑っていた。私はそれを確認すると再び階段を駆ける。階段は鉄製なため私が走る度にカンカンと言う音が響いた。
「僕は羅刹なんかじゃなくても充分過ぎるくらい強いんだよ。」
「なっ?!」
「さっきは油断したけど…あ〜あ油断とか…土方さんに怒られちゃうなぁ…」
「羅刹の私と互角に力押しが出来るなど有り得ない!!」
「はははは!!出来てるでしょ?……綱道さん……忘れてない?僕……新選組一番組組長……沖田総司だよ!!」
沖田さんの声と共にグサッと肉が切り裂かれる音が聞こえた気がした。私はようやく辿り着いた機械の前で下を見下ろす。
私が見た光景。それは父様の胸に沖田さんの太刀が貫通している光景。
「……馬鹿……な……羅刹が人間に負ける……と……?」
「僕じゃなかったら勝てたかもね…」
沖田さんが勝った。私の内は安堵でいっぱいになる。
沖田さんが太刀を抜くと父様はそのまま床に崩れ落ちた。父様はそのまま動かない様だ。沖田さんも倒れた父様を見下ろして動かない。一体どうしたんだろう。何か喋っている様だけれど、沖田さんは下向いてるし父様の声は小さすぎて聞こえない。
「……は……はは……」
「何がおかしい…」
「…わた…しは何度だって…甦る…あの装置は…一度動き出したら……止まりは…しないっ!」
「…………………………」
「あの…装置は……満月と共に…発動する……もう誰にも止められは……しな…………」
父様の口が動かなくなった。沖田さんは勝ったはずなのに何故か俯いたままだ。
そんな私の疑問が通じたのか沖田さんは私を見上げた。
「千鶴ちゃん!!まだ終わってない!!」
そう沖田さんが叫んだ刹那――
足元が小さく揺らぐ。
「え?何?!……きゃあ!」
そして部屋中の機械が一斉に動き出した。機械音が耳の奥まで侵食してくる。足元が大きく揺らいで普通に立っているのでさえ恐怖を感じる。
「今からそっちに行くから待ってて!!」
沖田さんはそう叫ぶと同時に階段を駆け上がる。激しい機械の音に沖田さんが階段を上がる音が全く聞こえない。
私は沖田さんが来るまでに出来るだけのことをしようと思い、しがみついていた手摺りを離し、機械の中枢を調べる。
この機械の中枢は高さ2メール、直径1メール程の巨大な透明な円柱型の装置に多数のボタンがあるコントロールパネルが付いていた。透明な円柱の中には小瓶に何か赤い…おそらく若変水が入っている。
これは私の完全な予想だが、前に父様が電波がどうのって言っていたからおそらくこの若変水さえ取り除けばなんとかなるはず。私は円柱の周りをペタペタ触れながら開かないか調べて見る。だが開ける方法は全く分からなかった。
「千鶴ちゃん!!」
「沖田さん!あの若変水を外に出せばきっと大丈夫です!」
私がそう伝えると沖田さんは装置を一通り見る。
「そうだね。」
「でも開かないんです!!」
「壊して開けよう!」
沖田さんはそう言って太刀を振り下ろした。しかし装置はまるで嘲笑うかの様に弾き返した。
「ちっ…」
私達は色々な方法を試してみるも全く成果が得られなかった。コントロールパネルを弄ろうと思っても全く分からない。沖田さんはしばらくじっとコントロールパネルを見ていた。私は外的な力を加え続けるがびくともしない。そんな中で父様の台詞が頭を過(よ)ぎる。
「………やっぱり記憶が全部ないから……」
「……それはないよ……僕は君との記憶を全部持ってる……」
「え?」
「僕の記憶は完全だよ。」
「教えて下さい!!」
私はそう叫んだ。地響きが酷くて自分の声さえも聞き取りにくくなっていた。
「……………分かった…こっちにおいで!」
私は言われた通り沖田さんの隣に並ぶ。途端にキスされた。
「なっ?沖田さん?!」
「僕は君との口づけが全てのきっかけだった!そしておそらく羅刹の無効化は千鶴ちゃんの血……」
沖田さんは笑ってはいない。もの凄く真剣な顔。それでコントロールパネルを食い入る様に見ている。私は沖田さんの言っている通りにはならない。記憶は全く甦って来ない。私の記憶だけが戻らないのはどうして?
「ダメ?」
「……はい……」
「……いい?今から簡単に話す。二度は言わない。」
「はい!」
「……130年前…僕と君は夫婦だった!でも僕は羅刹が原因か肺炎が原因か分からないけれど君よりも早く死んだ。」
「え……」
どうしてだろう。聞いてもあんまり実感が湧かない。
「これか?!」
沖田さんはコントロールパネルの一つのボタンを押した。沖田さんは周りをキョロキョロと見る。沖田さんの視線が止まったところで私も沖田さんが見るものを見た。するとここから1番離れた装置の電灯が消えた。
「止め方わかったんですか?!」
「全部じゃないよ!…それに止めるよりも開けるのを探す!!……12時…10分前…間に合うか?!」
沖田さんは一つ一つ装置の起動を止めていく。しかしボタンも装置も無数にある。リミットは刻一刻と迫る。
残り5分をきった。
ゆっくりと中央の円柱が光り始めた。そしてその光は円柱の内部を占めていく。
「……ちっ…数が多すぎるっ!!」
月は沖田さんの努力虚しく満ちる。
「お願い!後少し待って!!」
私は月に叫んだ。
私の願いは届かず、チッチッと時計の秒針は無惨にも0時を示す……










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