薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)H
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月が私達を照らす。
私達と言うのは私と沖田さんだけではない。後になって私は皆がいたのだと知った。研究施設までの道のりに羅刹がいなかったのも沖田さんと斎藤さん、そして平助くんが倒していたからだった。
そしてあの羅刹の群れに囲まれた私を助けようと施設の中には沖田さん以外にも土方さんや原田さん、永倉さんが参戦していて、たまたま沖田さんが私を最初に見つけたんだと知った。
場所は私の家の近くの公園。ここは砂場とベンチくらいしかなくて寂しい公園。そこで私は父様の目論みの説明をした。皆特に驚いた表情を見なかったことから聞いてもいたのだろう。
それから私はベンチに座らせられて、斎藤さんが治療してくれるのを大人しく見ていた。制服はボロボロで肩から平助くんのブレザーを羽織っている。
「…骨にも特に異常はない…表面の傷も特に無いな…」
斎藤さんはそう私に告げた。あるはずがない。私の治癒能力は人並み外れているのだから。
「……ごめん…なさい……」
私は両手を膝の上で握りしめた。
「……ごめん……なさい…」
誰も何も言わない。この沈黙が怖くて顔が上げられない。
私は結局皆に迷惑かけただけ。
羅刹の力を他の人も使ってしまったのかも怖くて聞けない。
私は泣きそうになるのをぐっと堪える。泣くのはズルイ。泣けば皆はきっと許してくれる。優しい人達だから。だからこそその優しさには絶対に甘えたくなかった。
「……羅刹の力は誰も使ってねぇはずだ…皆千鶴と約束したからな…」
土方さんの声に私は顔を上げた。すると皆が頷く光景が目に飛び込んできた。沖田さんも頷いていた。
「……良かった……」
「…何が『良かった』だ?!」
土方さんは怒っていた。怒鳴り声が静かな夜に響く。
「お前自分の状況わかってんのか?!お前は後少しのところで殺されるところだったんだぞ?!たまたま総司が間に合ったから良かったものの、偶然頼りの戦いなんか死にてぇやつがする戦い方なんだよ!!お前は死にてぇのかよ!?」
「まぁまぁ土方さん。彼女も反省してますし…」
「総司は黙ってろ!!」
「近所迷惑ですって…」
土方さんは沖田さんの言葉に渋々声を飲んだ。
再び来る沈黙の時間。
「…迷惑は…本当にごめんなさい……でも……なら私はどうすれば良かったんですか…?……皆さんに守ってくださいって言うんですか?それとも皆さんで研究施設を偵察しに行けって言えば良かったんですか?」
私の質問にしばらくの間誰も答えてくれなかった。たぶん土方さんが答えるのを皆待っているんだと思う。だから土方さんは私の質問に答える。
「そう頼まれれば…」
「でもそう言ったら皆羅刹の力を使うでしょう?!」
私は近所迷惑を省みず皆に向かって叫んだ。その反動で瞳から一粒だけ涙が零れ落ち、頬を伝う。
誰も否定しない。沖田さんの事実を知っていると、さっきの『使ってない』も嘘かもしれない。
「皆は絶対に羅刹の力を使う!!私や何かを守るために!!」
私は肩で息をしながら皆を見回した。沖田さんだけニコニコしている。
誰も反論しない辺り私の考えは…
「そうだね。」
沖田さんが肯定の答えを出した。やっぱりと言う気持ちで胸がいっぱいになる。
「……僕らは皆隊長格以上だからそれなりに守らなきゃいけないものが沢山ある。君もそう。新選組の命令なら死んでも従う必要があるんだよ……そのための強さが得られるならなんでもする。目的のために手段は選ばない。それが僕ら新選組のやり方………知ってるよね?」
「…………………………」
沖田さんの言ってることは分かってる。そして正しい。『羅刹の力を使わないで』なんて私の単なる我が儘だってことも重々承知の上。
「……ねぇ土方さん……ここは僕に任してくれませんか?……千鶴ちゃんちょっと興奮気味なので…僕ならちゃんと治めめられます。そうゆうの得意ですから。それに皆も疲れてるでしょう?次のために休んでおいて下さいよ!」
沖田さんの台詞には皆納得している様だった。沖田さんは人を自分の思い通りに動かすのに特に秀でている。だからの納得なのだろう。
「千鶴、お前の気持ちは嬉しいんだけどな…やっぱ俺らには無理なんだわ…ごめんな…」
原田さんはそう言って私に背を向けた。永倉さんはバツが悪そうにしながらも何も言わずに。土方さんは私と目が合ったが、何も言わずに足を進めた。
「……千鶴…約束…ごめんな…ほんとにゴメン!!」
平助くんはそう言って私から逃げる様に走って行った。そして沖田さんは手を振って見送っていた。
静かな公園に残された私と沖田さん。
動く度に砂が靴と擦れて音を奏でる。
沖田さんは無表情で私の前に立って私を見下ろす。
風がザァァァァと吹き、髪を揺らす。月も無表情で私達を照らしていた。
「…さて………気分は落ち着いた?」
「……………………はい……ごめんなさい…」
私がそう言うと沖田さんの溜め息が降ってきた。
「………あのね……千鶴ちゃんは僕らのためにって行動してるよね?」
「…………………………」
「……千鶴ちゃんは優しい子だしそうだと思う……けどね…僕らは優しさだけで力を誰かの為で使ってるんじゃない…使える力を使うのは僕らにとって当然。………でも千鶴ちゃんにとってはそれが重いんだと思う……」
「………はい……」
「けどね……僕らだってそれは同じ。力を使う義務があるのに禁止される…その優しさは重いの…分かるよね?」
沖田さんはまるで幼い子に言い聞かせる様に私に説明してくれた。でもそれは全部分かってる。分かってはいるけど納得したくない。命を減らす義務なんて認めたくない。
「……記憶がある以上僕らはその関係に従う…」
「……転生してもですか…?」
「うん…そうだね……」
風が優しく私達の周りを駆け抜ける。
「……私嫌なんです……もう…繰り返したくないんです!!」
「千鶴ちゃん……」
「ならどうして私を守るんですか?現代で私を守る理由なんて何もないのに!!それなのに命かけて…おかしいですよ!!どうして私が生きてるの?!」
「…………………………」
「どうして?!私は転生なんかしないでそのまま死んでれば良かったの…」
パアァァン
「…に……」
皮膚と皮膚がぶつかる音がした。それと無音。しばらくして風の音。
ザァァァァと吹いた風が私達の髪を揺らす。
そしてキュッと沖田さんに抱きしめられる感覚。
「……沖田…さん…?」
「……落ち着いた?」
張り詰めていた気持ちがフッと抜けた気がした。ギュッと力いっぱい抱きしめられると生きてるってことを実感する。沖田さんの体温がボロボロの制服を通して伝わってくる。
「…僕らは血に飢え散っていく儚い生き物だ……僕は少なくともあの時…君に救われた…君が君の血を差し出してくれたから……知ってる?羅刹ってオールウェイズ血に飢えてんだよ……だから……」
「っ痛っ?!」
「……ごめんね…」
何か鋭利な刃物の様なもので首を切られた気がする。そう思ったのもつかの間――
「ひゃあっ?!」
首に生暖かい感触が走った。
「ん……やぁ……沖田…さん…」
沖田さんは傷にそって私の首筋を舐める。その度に身体がビクビクなって、恥ずかしい。身体の力がだんだん抜けていく。ズルリと身体のバランスが崩れ、仰向けで寝る私の上で沖田さんが私の首に顔を埋める様な体勢になってしまった。それでも沖田さんは舐めるのを止めない。
「……んあ…ちょっ……沖田さん!…っ…」
ようやく沖田さんは私から顔を少し上げた。口元に付いた血が何をやっていたかを物語っている。沖田さんは私の顔の横に手を付き身体を支える。するとちょうど月明かりの影になって沖田さんがどんな表情で私を見ているのかわからない。私の顔は赤いと思う。
「……君は必要な人間だよ……だから…転生して正しい……僕は君の血が必要なんだから……」
そう言って沖田さんは私を起こしてくれた。ようやく見えた沖田さんはニコニコといつもの沖田さんだった。
「…ねっ?」
沖田さんは優しい。だから自分が嫌な事も私のためにしてくれた。
私の意志を殺さずに守ってくれる。沖田さんは器用だからこなせる。沖田さんだから出来る。
「……沖田さんは優しいですね…」
「今更気が付いたの?酷いなぁ」
沖田さんはそう言ってクスクスと笑った。
私は空を見上げる。月が満月に近い。リミットが近い。ここでくよくよしてたってしょうがないんだよね。分かっていたはずなのに、気持ちが分かっていなかった。だから焦って焦って空回りしてた。皆自分のすべきことがある。だから私も自分がすべきことをそれだけをしっかりやればいい気がする。
「……沖田さん……ありがとうございました…」
「……どう致しまして……頬…ごめんね…」
「いえ……もう皆に強制はしません……私は私のことをしっかりやります…」
「………………………………まぁいっか……見とけば…」
「え?」
『いっか』の後が聞こえなかった。でも沖田さんが教えてくれるわけないので聞かなかった。
優しい風が流れる。
満月まで後2日――








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