薄桜鬼SSL 平助くんルート

□運命の転生(りんね)B 共通ルート
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………


どうして…


…………………


誰が私を呼ぶの……


赤い雫がピチョンと落ちている………
世界が赤く染まる………
この世界からもう抜け出せない…


私達が持つ血の輪廻から逃れることは不可能……


誰も助けてくれない……


世界は斬り裂かれ鮮血を噴き出す……



…………

……

…むら…

…雪村…

「雪村!!」
「…っ!!」
ここは…何処?
「俺の授業中に居眠りかぁ?」
見上げた先には飽きれ顔の原田さん。
「……はぁ…完全意識とばしていやがったな…まぁ…いいや、雪村放課後待ってるからさっ?なっ?」
放…課後…?
「授業中?!」
思わず叫んでしまった。周りがクスクス笑ってるのが分かった。顔がぼぉっと熱くなる。
「そうだな、授業中だ。でも心配すんなぁ!俺は眠ってたやつに問題解けなんて酷いことは言わねぇからっ!放課後ちょっと来てくれればいいぜ!」
原田さんはそう言ってニッと笑った。その様子に新選組の服を着た原田さんが嫌でも重なる。
「やだっ!」

………………………………

………………………………

……………………………………………………………今声に!!!???

静まり返る教室。
驚いた表情で目をぱちぱちとしている原田さん。
冷や汗がどんどん溢れてくる。
「……………どうやら昨日入った風呂の水がまだ耳ん中に残ってるらしいな…」
「すすすすすみません!!!原田さ…じゃなくて原田先ぱっ…先生は正常です!!」
焦りすぎて呂律が回らない。しかし焦る私とは裏腹に教室はなんか微妙な空気が流れている。隣の千ちゃんを見ると『やっちゃった』って表情で首を横に振った。
焦りすぎて墓穴を掘った…。
「雪村…放課後は俺と楽しいトーキングタイムだな?」
「………………はい……」
私が了承すると、原田さんはニッコリ笑って授業を再開させた。




放課後になった。私は職員室へ足を運んでいた。今思えば呼び出しをくらったのは好都合かもしれない。今日も毎時間沖田さんが教室を尋ねてきた。
でも昨日のことには一切触れない。
部活がどうとか駅前に新しい店がオープンしたとかそんな話をしてくる。だが沖田さんの目を見ると寒気が走った。「僕からは逃げられないよ。」そんな台詞が聞こえる様な視線。
――昔『初めて』沖田さんに出会ったあの時の目。
勿論現代で殺そうとはしないと思う。人殺しは犯罪だなんて幼稚園児でも知ってる。
でも…沖田さんだから逃がしてはくれない。
「雪村?」
考え事をしながら歩いていると後ろから誰かに声をかけられた。
「……総司から逃げられたのか?」
「斎藤…先輩…」
斎藤さんはバツが悪そうにしながら尋ねてきた。
「…逃げる…と言いますか…ちょっと呼び出しくらっちゃって…」
「!?……土方先生にか?」
「……い…いえ…」
流石に斎藤さんに居眠りで呼び出されましたとは言いづらい。言っても怒りはしないと思うけど、間違いなく溜息つかれる気がする。
「雪村!!おせぇぞ!!」
職員室のドアから身体半分出した原田さんに手招きされた。
「…すっすみません!!私はこれで!!」
私が速足で斎藤さんから離れていくと斎藤さんは後ろから私の名前を呼んだ。
「……お前が言いたくないと言うならば俺は何も聞かない。……だからそんなにびくつくな…」
私が振り返った時はもう斎藤さんは歩き出していた。私は小さく謝礼を述べ職員室へ向かった。




「千っ鶴ちゃ〜ん!!」
千鶴の予感した通り教室には沖田の姿があった。
「千鶴ちゃんはもう帰りましたよ。」
千は咄嗟の機転で嘘を付いた。
「…そうなんだ。」
「千鶴ちゃんに何かご用ですか?」
「んー駅前のカフェに一緒に行こうかと思ったんだけど仕方ないね!今日は諦めるよ!」
千は諦めると言って笑った沖田の背中を見送った。そう背中を。
だから沖田が浮かべる冷笑を見ることはなかった。



私は職員室で土方さんの椅子に座らされていた。原田さんは一度ここに座るように言ってから何処かに言ってしまって姿が見当たらない。手が変な汗でベトベトしている。
「待たせたな雪村!」
「は……?!」
私が返事をするのよりも先に驚愕が襲った。
原田さんの奥に立っていた人物…土方さんの姿を見たからに違いない。
「…いやっ待て!!そんな構えんな!!」
「……私は昨日の事は誰にも言うつもりありません…」
「…………………………」
土方さんは私の台詞に次の出方に困っている様だった。
「………雪村……お前……平助見てないか?」
「?!……見てませんけどどうかしたんですか?!」
「………その慌て方……平助も関係あるな?」
しまった!動揺が思わず顔に出てしまう。
「引っ掛けたんですか?」
私は睨む様にして土方さんを見た。何がなんだか分からないと言った顔をした原田さんが目に入る。
「…おいっ!?何の話だ?」
「……原田はどうだ…?」
「…………………………」
私は咄嗟の質問に黙ってしまった。嘘を付くのには考える時間が私には必要だった。
「………そうか。」
「関係ないです!!原田さんは関係ない!!」
「原田…『さん』か…」
「…あ………」
ダメだ。このままだと全部感づかれてしまう。そもそも土方さんに私が勝てるはずなかった。力は勿論言葉でも土方さんのほうが勝る。
「……私は用事があるんでもう失礼します!!」
私は席から急いで離れた。だが逃げられるはずもない。
「待て!!」
これ以上は言葉を紡げない。それは私なりの賢い解答。
土方さんが止めるのを無視しようとした私が聞いた台詞は私の思考を停止させた。
「平助が6時間目の古典にいなかった!!」
「……え?」
「クラスのヤツに聞いても誰ひとりと知らなかった。だからそのことでお前ならと思っただけだ。」
その声はまるで昨日の事を聞くつもりなんかないと言っている。しかし私の脳にはもうその台詞は届いていなかった。
――平助くん!
私は職員室にも関わらず携帯を出し平助くんに着信を入れる。妙な胸騒ぎがする。
プルルル…プルルル…
呼び出し音がいつもより長く感じる。
――平助くんっ!!!
祈る様に携帯電話を握りしめる。目の前の二人は厳しい表情で私を見ていた。それは決して私を咎めようとする表情ではない。
――お願い出てっ!!
『なんだよ?』
願いが通じたのか平助くんは私の呼び出しに答えてくれた。
しかしそううかうかとしてもいられない。嫌な胸騒ぎも治まってはくれない。
「今何処?!」
『はぁ?何処って……駅前から帰って来るところだけど……?』
「今から行くから大人しくしてて!!」
私はそう言うや否や携帯の通話を切った。
「雪村?!」
「原田さんすみません、話は後日ちゃんと受けます!!」
私は一目散に昇降口に向かった。もしかしたら先生に廊下は走るなと怒られたかもしれない。だがそんなもの今の私には聞こえない。
さっきから胸騒ぎが止まらない。
違う。
この胸騒ぎは昨日からしてた。
何故?
どうして?
だって昨日は羅刹に襲われて…沖田さんが戦ってくれて…
沖田さんが…
「!!…っ私は狙われてはなかったっ!!」
そうだ。私は最初の一刀こそ私を切り裂いたが、その後羅刹は私に見向きもしてなかった。
ただひたすら『沖田さん』に向かって太刀を操っていた。
私は走りながら考えをまとめる。
狙いは私じゃない。羅刹の狂気した血を引いた皆――!!
「平助くん!!」
平助くんの姿を見て私は叫んだ。周りには誰もいない。静かな空気に私の声が反響する。
「千鶴?っお前なんだよ?!いきなり電話してきたと思ったらいきなり来るって!俺帰るに帰れな…」
平助くんの後ろに見える黒い影。
「!!平…」
「平助後ろだ!!」
私よりも早く発せられた声。その声に反応した平助くんはすかさず後ろを振り返り、間一髪のところで羅刹の放つ一刀をかわした。しかし平助が持っていた手荷物は真っ二つに切り裂かれた。
「なっ?!」
「原田さん!?」
「なんなんだあいつは?!」
「昨日総司と戦っていた奴と同じだな…」
後から土方さんもやって来た。昨日の今日で多少の余裕があるのか土方さんは二人ほど驚いている様子は見えない。
「……いや…奴『ら』…か…」
土方さんはそう言うと微笑を浮かべた。土方さんが言う通り先に平助くんに切り掛かった羅刹の後ろには少なくとも10人は同じ羅刹がいた。
「ここここいつらなんだよ!!??この切れ味ってマジ?!」
「あぁ平助マジだ!………原田…いけるか?」
「愚問だな…」
原田さんもそう言って微笑を浮かべる。その手には竹刀を持って。
「はあぁぁぁあ!!」
原田さんが打ち込んだ竹刀は羅刹の太刀を持つ腕にクリーンヒットした。
「平助!!今のうちにあっち行ってろ!!」
原田さんが打った竹刀は相当な力だったと思う。
だけどそんな力も羅刹にとっては無意味なものに過ぎない。
「…っ!!」
「平助…お前もやるか?嫌だったり怖いならここにいろ。」
土方さんがそう言うと平助は冗談と言うように笑った。ゆっくりエナメルバックを地に下ろす。
「俺を甘く見んなよ?」
「……減らず口が…」
土方さんは持ってきた竹刀を平助くんに手渡した。
「…待って!!」
私はようやく口を挟む。
「なんだよ?…大丈夫!!俺だって一応剣道部のエースだ、簡単に殺されてたまるかよ!…お前は俺が守ってやるよ…」
そう言うが瞬間的に羅刹を打ちに走っていく。
「はあぁぁぁああ!!!」
平助くんの竹刀も羅刹の腹部に食い込む様に命中するが、やはり羅刹は動じない。
「見るからに普通じゃないけど、これで倒れないんだ?」
平助くんもニッと悪役の様に笑った。
襲ってくる羅刹は総勢12人――そして皆薄桜学園の生徒―その内の一人は昨日のクラスメートだった。
3人とも笑っていても無限に蘇る羅刹に苦戦しているようだった。3人の体力だけがだんだん削られていく。
「っくそ!!なんなんだよこいつら!!」
「きりねぇな!!」
きりがないに決まってる。相手は羅刹だ。普通の人間とは違う。脳か心臓をたたかない限り朽ちることはない。
………………これは3人に集中し、自分の身の危険に気が付かなかった私のミスだ。
ゆらりと私の影に被さる二つの影。
「!!」
「千鶴!!」
気が付いた時はもう遅い。
私は目をぎゅっと瞑った。

キイィィィン…


静寂を絶つ金属音が轟き、私はゆっくりと目を開けた。
「よそ見はダメだなぁ!千鶴ちゃんっ」
「お、沖田さん!!」
「総司…千鶴!無事か?!」
「危ない危ない…うん大丈夫だよ!!だから平助くんはそいつらに殺されない様にね!!」
沖田さんがその手中に持つもの…それは紛れも無い真剣だった。
「総司てめぇ!無いと思ったらやっぱりてめぇが持っていやがったか!!」
土方さんが羅刹と太刀を交えながら話し掛けてくる。対する沖田さんはその刃を鞘に収め、ニコニコと笑っている。
「やだなぁ〜僕がこんな面白い物大人しく片付けるはずないじゃないですか!!利用出来る物は使わせて貰いますよっ!!」
鞘に入れたままとはいえ、沖田さんが持つ太刀は振り回すと風を切るような音がする。
「ところで土方せんせどうします?このままじゃ疲れるだけですよ?」
「…っんなこったー分かって…る!!」
4人は可能な限りの力で羅刹の太刀を捩じ伏せていく。
また私は迷惑をかけている。守るはずが守られてしまっている。
何か私に…
何か私に出来ることは…
見渡すと沖田さんが持ってきた竹刀が転がっている。
どうする…
私は幼い頃から剣道を習っていたと言っても、こんな戦い方知らない。
しゃしゃり出ても殺されるのがオチかもしれない。
でも…!!
私は考えるより先に身体が動いていた。側にあった竹刀を構える。
「来なさい!!私が相手するから!!」
「「「「なっ?!」」」」

正直怖い。
皆もこんな戦いはしたことないに決まってる。でもおそらく本能がこうすれば死なないって分かってるから戦える。
でも本能も完全じゃないはずだから。
だから…
私が守る!!
大丈夫。私は戦える。
私の掛け声と共に数人の羅刹が私に向かってくる。
「千鶴っ!!」
グサッと言う音がした。
「っってぇ!!!」
「平助くん!!」
私の切れた集中を狙って羅刹達が刀を振るってくる。
「馬鹿っ!!」
土方さんと沖田さんが私に向かってきた羅刹の前に立ち心臓付近に思いっきり刀を食い込ませる。
その一刀が決まった羅刹はバタッと音をたてて倒れ起き上がる気配を見せなかった。
「「……っ?!」」
拍子抜けした様に二人は倒れた羅刹を見下ろした。
やっぱり動かない。
「…疲れちゃったのかな?」
「そんなわけねぇだろ…」
二人は後ろから来る羅刹の脚目掛けて打つが、今度は折れた脚を引きずってまで立ち上がり襲い掛かる。
「…っなんなんだよ!!」
「雪村は何もすんな!!邪魔だ!!」
ズキンと心が痛んだ。
私はやっぱり皆に迷惑しかかけれない。
落ち込み戦いを眺めていた私は羅刹の変化に気が付いた。
――平助くんに向かってる羅刹が多い…
私は羅刹に関する最も大切なことを思い出した。
――血を…平助くんの血に惹かれてる!!
羅刹はもともと血に狂気した人間。
負傷した片腕を押さえながら戦っている平助くんに集まるに決まっている。
平助くんの腕から流れる鮮血は色鮮やかで竹刀を振る度にポタポタと地面に落ちる。
平助くんが危険に犯されている中にも関わらず私は平助くんの血がまだ羅刹に目覚めていないことに安堵する。
「…っつ……なんで俺ばっかり!!」
血が。血が羅刹を呼ぶ。
どうすれば。考えても考えても名案は浮かんで来ない。
ふと目に入る倒れた羅刹達。今だに動き出す気配はない。
――どうしてこの2体だけ…
私はあの時の様子を鮮明に思い出す。
土方さんと沖田さんは力いっぱい羅刹に打ち込んだ。力いっぱいなら原田さんも平助くんもやってるし、動かないのはこの2体だけ…この2体と他の羅刹との相違点があるはず。
昨日の羅刹だって沖田さんが胸に竹刀を打ち込むまで立ち上がり続けた。
胸…

『胸が痛っ!!』

二人がこの2体に打ち込んだ場所は…
私は目を閉じてもう一度その時の光景を瞼に映す。
!!そうか!!
「心臓です!!心臓に打ち込めば羅刹はもう動きません!!」
私の言葉が届いたのか4人ともニッと笑い羅刹の一点を狙って打ち込む。
正確に的確に羅刹はバタバタと倒れていく。
「あと1体っ!!」
最後は平助くんの一刀が見事に決まった。
「………終わった……」
そう……私達は思った。
皆安堵して羅刹の変化に気が付くのが遅れたんだと思う。
倒れた羅刹達は倒れた順番関係なく上半身を起こした。そして太刀を手にする。
それに気が付いた私達は竹刀を構えた。
しかし……………

ざくっっっっ………

バタッ………


え…………?
突如目の前に広がった赤の世界。むせ返るような血の臭い。
私達の思考が動き出した時、既に羅刹達は自分達の心臓を一突きし絶命していた。
辺りは先程とは比べものにならない位静まりかえっていた。
そんな中私達はただ呆然と目の前に転がる亡きがらを眺めていた。

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