薄桜鬼SSL 平助くんルート

□運命の転生(りんね)G 平助ルート
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次の日、学校へ行くと、平助くんが言った通り皆が記憶を取り戻していたことが分かった。それと風間さんが言っていた通り羅刹と戦っていたことも知った。
おそらくその戦いが記憶の引き金になってしまったのだろう。
本当は泣きたい位悔しくて仕方ないのだが、もう済んでしまったことにいつまでも胸を痛めている訳にはいかない。私に出来ることを何かしなくちゃ。
と思ってはいても出来る事が何かわからない。ただ時間だけが過ぎていく。
そんなうちにあっという間に昼休みになってしまった。
「千鶴ちゃん!生徒会長が御呼び立てしてる…まったく成人してるのに1年生の教室来ないで欲しいよね!……ってそう言っても戻らないから行ってやって?」
「………風間さんが?…………わかった…ありがとう。」
お千ちゃんは腰に手をあて口を尖らせていた。相変わらずなんと言うか…風間さんにそんなこと言えるお千ちゃんは凄いと思う。私は思ってても言えないままになっているから。私はお千ちゃんにお礼を述べ笑った。出来るだけ自然に見えるように。
「……千鶴ちゃん……辛かったら頼ってね……私…千鶴ちゃんが大好きだから!」
「…………うん!ありがとう!」
私はもう一度笑った。今度はさっきよりは自然に笑えたと思う。私は千ちゃんに手を振り足早に風間さんの元へ向かった。




「遅い。」
私の顔を見るや否や、不機嫌な顔を向けられた。そんなに待たせた覚えはないんですが…
「……すみません…」
とりあえず謝っておく。その方が話が先に進む。顔を上げて風間さんを見るとやっぱり満足そうな顔。たぶん機嫌は治ったんだと思う。
「……それで…その…」
「来い!」
「えっ?!ちょっ!!風間さん!」
私は彼に手を取られ、ほぼ無理矢理教室から遠ざかっていく。怒っている様には見えないけれど一体何があるんだろう。全く予想がつかないだけに怖い。
「風間さん!!私逃げませんから!手を!!」
きつく、強く握られていて少し痛みを感じる。しかし風間さんは私の抗議を完全に無視してどんどん廊下を進む。そして2年生の階まで下りてきた所で土方さんを見かけた。土方さんも私に気が付いた様で今の引きずられている状態に顔をしかめた。
「ちづ…雪村!」
土方さんは風間さんに握られている手の腕を掴んだ。それには流石の風間さんも止まる。
「………まがいものに構ってやる時間はない。」
「ならその手を離せ。」
「…………………………」
「…………………………」
私の目の前で繰り広げられる睨み合い。今太刀を持っていたら間違いなく二人とも斬り合いになったんだと思う。現代だからこその回避。私は現代の法律に感謝した。
しかしここは学校で今は昼休み。こんな皆がいる様な所でいつまでも険悪な睨み合いをしてる訳にはいかない。それは二人とも当然心得ていると思う。
「……………貴様にこいつが守れるならば離してやる。昨日今日思い出した寝ぼけた身体で何が出来る?貴様は状況すら出来てない様だが?」
この睨み合いに終止符を打ったのは風間さんの方だった。
ニヤリと嘲笑を浮かべ土方さんを見る。風間さんは確信してるんだ。土方さんはこの台詞に言い返せないと。だけど土方さんだって負けてない。
「……………確かに状況はまだ把握しきれてねぇ…だが千鶴を守れるか守れないかはそんなの関係ねぇんだよ!!」
「……ほぅ……面白い…ならばその証見せてもらおうか…」
土方さんの言葉に風間さんは余裕の笑みを浮かべたまま。自分が負けるとは微塵にも思っていない表情。
「風間さん!!止めて下さい!!皆に危害を加えるのだけは…っお願いします!!」
「「………っ?!」」
私は自由だった方の手で風間さんの制服を掴み訴えた。風間さんなら本気で刺客を差し向けかねない。これ以上皆を戦わせてはいけない。私はそう思ったから。廊下に私の声が響き渡る。
「…な〜に話してるんですか?こんな所で…」
聞こえた声に振り返ると呆れ顔の沖田さんと平助くんが立っていた。やっぱり平助くんは元気が無い。
「そーゆー話はこんな所でする話じゃないでしょ?場所変えなよ。」
沖田さんの台詞に周りを見渡すと明らかに私達は注目されていた。当たり前と言えば当たり前だ。内容がどうとか言う問題の前に声の大きさ、この状態、それと土方さんと風間さんと言う存在が皆の注目を集めたのだろう。
どうしよう…
この注目から逃げたいのだけれど二人に掴まれていたんじゃそんなの叶うはずはない。
私がオロオロしていると痛いくらい握られていた風間さんの手が離れた。
「……ちっ………おい、雪村千鶴……」
「……はい…」
「………お前が知りたがりそうな話が入った。聞きたければ放課後俺の所に来い。いいな。」
風間さんはそれだけ言うと私の返事を待たずにすたすたと廊下を歩いていった。
風間さんの台詞に私は首を傾げる。
私が知りたがりそうな話?一体なんだろう…
「……行くのか?」
土方さんが厳しい目を向けて尋ねてきた。行こうか…正直迷う。話の内容はとても気になる。だけど相手が風間さんだけに用心しないのもどうかと思う。
考えた末私は自分の考えを告げた。
「………もしかしたら私達に必要な情報なんじゃないかなって思うんです………だから私行きます!!」
真っ直ぐ土方さんの瞳を見た。私の本気を分かって欲しい。
「相手があいつでもか?」
「……風間さんは私には危害を加えないんです…だから私は風間さんを信じて行ってみようと思います!」
私はずっと真っ直ぐ土方さんの目を見て告げる。すると土方さんは腕を前で組み、短く溜息をつく。そして間もなく土方さんは目を伏せ、ばつが悪そうにした。
「…………なら…止めて悪かったな……」
「あっいえ!!私もさっきまで何されるか不安だったので!!………ありがとうございました。」
私は土方さんに深々と頭を下げた。すると土方さんは「そうか。」と言って笑いかけてくれた。その顔を沖田さんがからかったのは言うまでもない。
「……千鶴…」
突然平助くんに呼ばれた。私は平助くんと向き合いその瞳を見つめる。
「………あ……」
あれ?
「千鶴!今日さ……その話終わったら俺と出掛けねぇ?」
平助くんはいつもの平助くんでニコニコとしている。いきなりの変化に驚いて私は思わず声が漏れてしまった。
「「…………………………」」
土方さんも沖田さんも何も言わない。ただ私達をいつもの新選組の彼らの表情で見つめていた。
「……私は別にいいけど…」
「良かった!!サンキューな?じゃあ放課後!」
「あっ…」
平助くんはそう言うとニッコリ笑ってそのまま教室に走り去ってしまった。
急にどうしたんだろう…
元気になったのは嬉しいけれど何かが引っ掛かる。最近色んなことがあってうたぐり深くなっているだけなのだろうか。
「……………どうゆう心境の変化でしょうね…」
「…あぁ…」
「どうゆう意味ですか?!」
私は沖田さんの呟きが耳に入り、思うままに尋ねてみた。
すると沖田さんは苦笑して土方さんを見た。どうやら私に言ってもいいか案じているみたい。土方さんは黙ったまま頷いた。それを合図に沖田さんが苦笑いが濃くなる。
「……………平助くんね……クラスで誰とも口聞いてないみたいなんだ…」
「……部活にもずっと来ねぇ…」
「………え?」
私は信じられない言葉を聞いた。平助くんはどんなに辛くても他の人を巻き込まない様にいつも笑ってる。誰とも口を聞かないなんて…
……でも今の辛さなら頷けるかもしれない。だから私が驚いた原因のほとんどは沖田さんの台詞じゃない。
「部活を休んでる…?」
「あぁ…一昨日の放課後からか…一度も来ねぇ!…ったく…」
そんな訳ない。だって…だって…昨日の朝…

『今日は朝練で一緒にいけない』

確かにメールにそう書いてあった。部活に行ってないなんてありえない。
私はその場で考えこんでしまう。
土方さんが言ったことが本当なら平助くんは嘘を付いてる。しかも部活を使うなんてばれる可能性が高い嘘……
勿論嘘を付いたこと自体を責めている訳じゃない。私だって散々平助くんを欺いてきたんだから。
「………………千鶴?」
「あっすみません!!…私お昼まだなんです!すみません戻りますね。失礼します。」
私は逃げる様に二人から早足に遠ざかる。メールのことを二人に話せば何か案をくれるかもしれない。だけど、平助くんのことは私だけでなんとかしてみよう。そう思う。
平助くんの嘘はわかりやすい。平助くんはいつでも正直で真っ直ぐで。だから平助くんが嘘をつかなきゃいけない理由が知りたい。あんなに楽しそうにしてる部活を休んでる理由が知りたい。
どうか私に教えて…




放課後、私は約束通り風間さんのいる生徒会室に向かった。
軽くノックをすると中から「入れ」と言う声が聞こえた。私は静かにドアを開け中に入る。
風間さんは窓辺で静かに佇み外を眺めていた。部屋が薄暗いせいもあって、なんだか哀愁漂う空気だ。
「………電気……つけますね?」
「いや……いい…」
「……暗くありません?」
「十分顔は見える明るさだ……勉強するわけでもない…必要ないだろう…」
「…節約家ですね!」
私がそう言うと風間さんはふっと笑った。
私は風間さんに促されて椅子に腰掛ける。そして風間さんと目が合った。
「………お前は……綱道をどう思ってる?」
風間さんは私に尋ねた。最初はいきなりそんな質問をするなんて私で遊んでるのかと思った。だけれど風間さんの顔は真面目。だから私も真面目に考える。
どう…と聞かれても父様は父様だし。現代で接点がなくとも大切な父様に変わりはない。
「……血が繋がっていなくとも大切か?」
「勿論です!」
「……そうか……そういうものか……なら…雪村千鶴…これをやる。」
風間さんは私にA4大の封筒を手渡した。中は外から見る限り薄く、そんなに量は入ってない。
「これ……なんですか?」
「見るか見ないかはお前の自由だ………お前に任せる。」
「え?」
「もう帰れ……行きたいところがあるのだろう?お前の顔に書いてある。」
風間さんはそう言うと真面目な顔を崩し、馬鹿にした様な笑みを向けた。
本当は言い返そうかと思った。だって私は今封筒に夢中でそんなこと考えてなかったんだから。
風間さんは私を呼び付けておいて、私を追い返そうとしている。でも私に行きたい所があるのは事実。だから私はお礼を告げて廊下に出る。
「……………………失礼しました。……風間さん…私……父様は大切だけど…新選組の皆大切なんです……まがいものだなんて言わないで下さい…」
それだけは分かって欲しいって思ったから私はドアを閉める間際、彼に告げた。この台詞を彼がどう思ったかはわからない。




同じく放課後の校門前。これから下校するであろう生徒で溢れている地に一人平助は立っていた。彼の瞳に行き交う人が映る。
平助のいつものエナメルバックに教科書は入っていない。全部教室に置いてきた。代わりに普段は入っていないものが入っている。平助はエナメルバックの紐を握りしめた。
その拍子に制服のポケットに入っていたものがクシャッと言う音を立てる。
「やべっ!………千鶴いつ来るかなぁ……」
平助の心は複雑に絡み合ったまま千鶴を待ち続ける――







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