薄桜鬼小説
□願い
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お前は俺が死んだら後を追うか?
やめてくれよ。そんなこと。そんなことしようとしたら俺は地獄からだろうと這い戻ってでも止めるから。
『願い』
暖かい陽射しが俺の瞳に入っても俺の身体は拒絶を表さなくなった。陽射しが全く辛くないかって聞かれたら黙るかもしれないけど。お前といるときは楽しくて忘れてしまうけど、俺は羅刹なんだ…人間としてはもう死んだ存在…
心地好い風が俺の髪を揺らし、辺りの草木が奏でる音を目を瞑ってきいた。
ごろんと横になると眩しくて手を翳したくなる。
「平助くん?ご飯出来たから一緒に食べよう?」
その声は愛しいお前の声。目を開けなければいけないよな。
「平助くん?」
返事をしない俺を心配したのかお前の影が太陽と重なった。
やっぱり俺は人間じゃないな…そうやってお前が影を作っていたほうがずっと心地好い。
「……あぁ……」
「寝てたんだ?」
「結構気持ちいいぜ?お前も一緒に寝るか?」
寝ていた訳じゃないけど、違うと言ってじゃあ何をしていたのかと問われれば困るのは俺だ。
そんなことを考えていると柔らかい感触を腕が感じた。
みると俺の腕にお前が顔をあて寝転がっていた。
「ほんとだ……気持ち良い……寝ちゃいそう……」
「……………だろ?」
「でも!そんなこと言ってたらご飯冷めちゃうよ!!」
お前はそう言ってニッコリと微笑みをくれる。そんな些細なお前の表情の変化が俺に幸せを感じさせる。
でも……
「平助くん?……どうしたの?」
「……えっ?」
「まだ……眠い?」
心配そうな瞳を向けられた。俺は今どんな表情(かお)をしている?
「なんで?」
「元気ないよ?」
元気……か………
だそうと思ってる。やっぱり人生楽しいのが良いに決まってるし、お前といると楽しいのも本当。
だけど、その裏でいっつも考えていることがある。
―羅刹の俺はいつまでもつのだろうか―
もうきっとこの世にいる羅刹は俺だけ。しかも俺は誰より早く羅刹となった。なるしかなかった。だから……俺がお前より先に死ぬのは動かせない事実で、それがいつ来るかわからない。
「…………お前は……」
俺がそっと頬に触れると、ピクッとお前の身体が反応したのがわかった。
「平助くん?」
「お前は…………俺が……」
…死んだらどうする?……
言えない。別にお前の平手打ちが怖いとかじゃないけど、言いたくない。言ったら……本当に死んじゃう気がして…
「私は……平助くんが……好きだよ?」
「え?」
その笑みは不意打ちだな。困惑する一方で嬉しくて仕方ない自分がいる。俺はお前が好きなんだって思い知らされる。だからこそ………やっぱり死が怖い…怖くてしょうがない。俺はまだ生きたい。死にたくない。お前一人残して死ねるかよ……
「俺もお前が好きだ…」
「ありがとう……ご飯食べよう?」
そう言い終わるとお前は速足で俺から離れていく。嫌だ。待てよ。俺から離れていくな。
「平助くん……」
お前の声に伸ばしかけた腕が止まる。
「…生きたいって気持ちがあるなら……絶対に生きられるよ……」
声が震えているのが分かった。泣いている…のか…?
「私を守ってくれるんでしょう?」
『鬼だろうが人だろうが俺はお前を守る』
俺は確かにそう言った。嘘なんかじゃない。守りたい。お前を守って、一緒に生きたい。
「急に…何を……」
「だって……平助くん…元気ないときは大抵羅刹の自分のことを考えてる……」
やられた。すっかり見破られてたのか…俺はお前の性別すら見破れなかったのに。
「俺は死なないよ…お前残して死ねないだろ!」
俺が笑ってみせるとお前の熱が近づき唇に触れる。
そんな不意打ちではなかったのに初めてのお前からの口づけに驚いてしまった。
「絶対守ってね!!約束だよ!!」
真剣な瞳で俺を怒鳴ってくれる。俺のために怒ってくれる。それだけで俺は幸せを感じて止まない。
「俺は……嘘付かないよ……嘘付けるほど器用じゃねぇしな!」
「信じてるから…」
「…あぁ…お前が信じてくれるなら出来る気がする……」
俺はお前の唇に何度も自分の唇を重ねた。頭を支え、身体を支え、全身でお前の熱を感じると生きてるって感じがするんだ。
唇を、お前を離したくないけどもうそろそろ離してやらないとな。
ゆっくり身体を離すとお前の真っ赤な顔が視界に映る。
「ご飯!食べよう?冷めちゃってるかもしれないけど!」
照れ隠しか、お前は俺から再び離れていく。でも不思議と怖くない。
『もし…俺が死んだらどうする?』
……あの時言いかけた言葉にお前は冗談でごまかしたけど…冗談じゃないならどう答えてくれる?
俺は………お前には生きて欲しい。出来れば笑って。俺はお前の笑顔に何度も助けられたんだ。
だからお前は生きて。笑ってくれよ。たとえ俺がいなくなっても……
でも………ただでさえ運命を捩曲げて生きてる俺なんかの願いを聞いてくれるとは思わないけど……だけど……願わくば俺の傍で笑ってて………
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