薄桜鬼小説

□アニメ4話で沖田さんの出番が少なすぎて悲しかったのでか(←)いてみた。
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僕はここに残るのにどうして君は同行できるんだろうね…




『孤影を映す刃』




屯所からほとんどの隊士がいなくなった。残ったのは負傷した隊士と平助くんと山南さんと僕。

本当ならば僕も戦場に赴きたいところだけれど、副長命令とあらば我慢するしかないよね。

だけどこの退屈でしかないこの時間をどうしようか。稽古をつけようにもその肝心な隊士がいないし。僕だけで太刀の練習してても相手がいなくちゃつまらないし。平助くんじゃ相手にならないし。

まぁたとえ平助くんが相手してくれるって言ったとしても山南さんのいる前でそんな無粋な真似するほど僕は能天気でもない。

「暇。」

なんだろうこの暇加減。何もすることがない。

そういえば土方さんに手薄になった屯所を頼むって言われたけどさ。正直言ってこんな真夏の真昼間から敵の本拠地に挑む馬鹿が何処にいるのさ。

夜中は護衛するよ。それが僕に与えられた仕事みたいだから。昼間はどうすんの?暇なんだけど。

僕は苛立つ気持ちを落ちつけようと酒に手を伸ばす。

「総司こんな昼間から酒かよ…肝心な時にふらふらになんぞ?」

僕が酒瓶に触れた途端に制止を促す様な台詞。置いてきぼりを言い渡された時には駄々こねてた子供が、もうすっかり立ち直ってる。虫唾が走る。

「…………………………………」

「………なんだよ…」

「いや?」

「なんか俺に言いたいことあんだろ?顔がそう言ってるじゃん!」

言いたいこと?そんなの決まってるでしょ。

腹が立つ。それだけ。

「……別に?顔が話すわけないでしょ?」

「そ…そうゆう意味じゃないことくらいわかってんだろ!」

今日は嫌に引っ掛かるな。いつもならそろそろ僕には付き合ってらんないとかなんとか言って早々と……

そっか…早々と左之さんか新八さんのところに行くけど二人ともいないから行く場所なしって訳ね。

「暇なの?」

僕がそう問いかけると平助くんは一瞬ぎょっとした瞳を見せた。なんだ…図星か。

「僕も暇でさ…」

「そ…そう思って声かけたんだけどさ…」

「何?」

「太刀奮いたくねぇ?」

「僕に挑もうってこと?…やめといた方がいいよ。傷増やしたくないんでしょ?」

「なっなんだよ!人を馬鹿にしやがって!俺だって総司と対等に刀交えるくらいになってるっつうの!」

馬鹿。

本当に君は空気が読めないんだね。それともこの屯所に刀が持てない人間がいること忘れてるのかな。

それに僕と対等に?冗談だとしても笑うのきついよ。僕を楽しませてくれる人間は限られてる。威勢ばっかいいやつは駄目なやつだって覚えておいた方が良いと思うな、僕は。

「………………………」

…………はは…自分で言った言葉なのに自分に刺さってる…あの時の僕に当てはまってるよね…

――あの男――

…僕に勝ったあいつ…あいつのせいで僕は…

………………………………………………

「総司?」

「……ん?」

「稽古…しないのか?」

「…うん…やめておくよ。」

「なんで?」

「………ほんと平助くんって馬鹿だよね。もし刀奮ってる姿を土方さんにでも報告されたら…どうなるかくらい分かるでしょ?」

僕は嘲笑混じりの笑みを平助くんに向けてあげた。途端にそうかと慌てる平助くん。なんでここまで慌てられるのかさっぱりわからない。

…誰が幹部の素行を副長に報告するのさ。そんなことしたら間違いなく殺されるってどんなに馬鹿だろうが天然だろうがわかるって…山南さんは直接怒るだろうし。…平助くんって本当に……止めた。馬鹿らしい。

「じゃあ、僕もう行くよ。」

「えっ?何するんだよ?」

「僕はちょっとやらなきゃいけないことを思い出したから…まぁ頑張って暇潰しなよ。」

僕は煩く絡んでくる平助くんを無理やり解いて自分の部屋に戻った。










静まり返る部屋に僕一人。僕は隊服をまとい、はちがねもしっかり額に装着する。刀も普段通りに腰にさしたまま正座し、手を膝の上に置く。そしてそっと目を閉じた。

もう二度とあんな負け方は御免だ。今ここにいるのはあいつのせいでもなんでもない。

僕の弱さが原因だ。

僕には負けることは許されない。弱い僕なんて近藤さんの傍にいる必要ない。

………………………………………………

強く。

………………………………………………

もっと強く。

………………………………………………

今度こそ僕は勝つ。



………………………………………………

……………………………………

………………………

……………



黄昏が時の経過を告げる。瞼に映る程よい赤が黒ずんできたところで僕はゆっくり目を開けた。

立ち上がり襖を開けて、空を見上げる。もう陽が沈む寸前。僅かな緋色が僕に別れを告げ、代わりに弱かった月光が存在を主張し始める。

僕は負けない。

僕が腰の刀に手を添えた途端ばたばたと足音が聞こえた。

「………来たんだ…」

僕はすっと鞘から刃を抜く。ずっと出番を待っていた僕の太刀。月光を反射し煌びやかに光る刃。

「総司!!屯所にっ!」

「わかった…すぐ行くよ。」

平助くんの話によると人数が多いだけの雑魚らしい。ただ塵も積もればなんとやら。それなりの歯ごたえは期待できる。

「…行こうか…」

僕は出来る限りの早さで屯所の門まで走った。見るとざっと20人はいる。

平助くんは裏に回ってる。だからこの20人は僕が処理する必要がある。

屯所の中には動けない隊士。中に踏み込ませるわけにはいかない。

「死にたいやつからかかってきなよ!」

僕は20人全員に聞こえる様に叫んでやった。その刹那、刀を振り回して僕に向かってくるやつら。

「そんなに死にたいならお望み通り殺してあげるよ!!」

僕の奮った刀はどんどんやつらの身体に飲み込まれていく。敵の身体を斬り裂くたびに赤い鮮血が僕に噴きかかった。

「うおぉぉぉお!!」

「弱いよ!」

僕は戦える。役立たずなんかじゃない。

「相手は一人だ!ひるむな殺せ!」

今度は前からと後ろから襲い掛ってくる。だけどそんなせこい真似も無意味。僕は前からきたやつを一太刀で絶命させ、さっとその身をかわす。

その時僅かに刃が頬をかすめた。ゆっくり頬から僕の血が流れ落ちる。

「……うざいよ!!」

僕はまた一人と命の灯を吹き消していく。僕に傷を負わせたやつは心の臓を貫いてやった。

たった一筋かすめただけなのに何満足してんの?

だから殺されるんだよ。

20人もいたのにもう数人。それも立ち向かう勇気もなさそうな腰抜け。

さて…ここは逃がしてあげようか。どうしようか。

「う…うおぉぉぉぉぉ!!」

「はぁ…」

せっかく人が慈悲をかけてあげようかと思ったのに。

でも気が変わった。全員僕が殺してあげる。もう新選組に近づこうと思わないくらい残虐に殺してあげるよ。

再び血飛沫が空を舞った。

「…………はぁ……」

終わった。始まってしまえば一瞬で終わる。

闇の中、月が僕を照らす。血に濡れた刃はそれを吸収して反射しようとしない。

あーあ…全身が血まみれだよ。




僕は僅かに笑みを浮かべてから刀に付いた血を振り払った。

「こんな馬鹿な真似しなかったら殺さなかったのに…」

真夏だからか額から汗が落ちた。それが風に当たって気持ち涼しい。

「………こほっ…ごほっ!」

……おかしいな。あの男に食らった傷はそろそろ癒えるはずなんだけど。

「こほ…ごほっごほっ!!」

風邪でも引いたかな。そういえば隊士の中でも熱出してたのがいたっけ。でもあれって傷から来る発熱かと思ってたけど…風邪なのかな…

……まぁいいか。ほっといても風邪ならすぐに治るだろうし。

「………………………………………………」

こんな雑魚じゃなくて僕も戦場に行きたかったなぁ。

「………………………………………………」

千鶴ちゃん…どうして君はそこにいるのに僕はここにいなくちゃ駄目なのかなぁ…

君なんかより僕の方が断然闘えるのに…

「…そういえば僕はどうしてあの時君を守ったんだろう…」

僕が君の問いに答えなかったのはきっと僕自身も分からなかったから。僕が聞きたいくらいだよ。僕が守ってあげなかったら君は今そこにいないのにね。

千鶴ちゃん…逆に君に聞いてみるよ…

――なんで僕は君を守ったのかな?――

僕が問うてもその答えはきっと永遠に返ってこないと思うのは何故なんだろう……








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