薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)@ 共通ルート
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……

…………

………………







失った人…大切な……


何かが足りない……


でも思い出せない……



私を呼ぶのは誰?


目覚めさせないで……あの人を血の呪縛に縛り付けないで……



羅刹の血はいずれ消えるはずでしょう?






ピピピピ……ピピピピ……
規則的な音が部屋に響いているのに気が付いた。
「ん……ん?何時?!」
私が慌てて手元の時計を見ると時計の針は二本とも7付近を指している。
「嘘!!7時半?!遅刻する!!」
私は急いで顔を洗い制服を着込んだ。
朝食も食べずに家の外に出ると、平助くんが珍しく待っていた。
「ごめん!!」
「千鶴が寝坊するなんて珍しいな!!」
平助くんはそう言ってニッと笑った。彼は私の幼なじみで藤堂平助くん。同じ学校の一つ上の先輩。
「走ってギリギリかな…」
「ほっほんとごめんなさい!!」
私が深々と頭を下げると、平助くんの慌てた声が降り注ぐ。
「ばっやめろよ!いつもは俺が寝坊してんだから!それより走るぞ!荷物持ってやるから全力で走れるか?」
そうだ。そんな話しをしてる暇はない。一秒でも早く、せめて校門はくぐらなければ。
「うん!!」
私と平助くんは走り始めた。平助くんは私に合わせて走ってくれる。
しかしある角を曲がると急に平助くんの足が速くなった気がするのは気のせいか。
「平助くんっちょっと……まっ……て…」
平助くんが私の手を握ってるため、スピードを弱めることは叶わない。なら言葉で訴えるしかなかった。
「わりぃ…でもあと少しだから我慢して走って!………じゃないと……この辺総司が出る……」
なるほど。そうゆう訳なんだ。確かに平助くんがここまで鉢合わせしたくない理由がわかる気がする。以前平助くんが私の手を握って走ってた時に沖田さんは平助くんの手を本気で手折ろうとした。……平助くんは折れてないと言ったもののあの時聞こえたポキッて音は気になってるんだけれども…
そんなことを考えているとあっという間に学校に着いた。
「今日は遅刻しなかったようだな。」
「は…はじめ…く…ん…」
「斎藤…先…輩……おはよう……ございます…」
息がきれて上手く話せなかった。それは平助くんも同じ様で、制服もすっかり乱れていた。
「まったく…あと30分早く起きれば走らなくていいものを…雪村まで巻き込むな…」
「あっ今日は私が!!」
私がそう言うと斎藤先輩は驚いた表情で私を見た。
「……私が……寝坊したんです……すみません…」
そして何か言おうとしたようだが、思い止まり口をつむんだ。
「へぇ…お前が寝坊って珍しいね。」
その声に私は自然と身体が強張った。正直聞きたくない声。
「……おはよう…」
「おはよう、千鶴。兄さんは今日もお前の顔が見れて嬉しいよ。」
軽い嫌みだ。風紀委員は遅刻を取り締まるもの故にリミットの5分から10分前からしか校門に立っていない。つまり毎日私が風紀委員と会ってるってことは遅刻ギリギリに駆け込んでると言うこと。
言い返そうと思っても本当のことだから、何も言えなかった。
「お前のクラスは文化祭の準備で早めに登校しろって言われてないわけ?」
「……私のクラスは喫茶店だから」
私がそう言うと薫は「楽でいいね。」と言って不機嫌全開の表情を私に向けた。
私達が通うこの薄桜学園は明日、明後日と文化祭が開かれる。だから大抵の人は早くに登校して準備している。薫のクラスも例外なく当てはまっていて、朝っぱらから仕事させられたせいか機嫌が悪いことこの上なかった。
「さっ斎藤先輩のクラスはなにやるんですか?」
私は薫にこれ以上関わると危険な気がしたので、そばで何かにチェックを付けていた斎藤先輩に話を振った。
「僕らのクラスは定番のお化け屋敷だよ。」
目の前の斎藤先輩に聞いたはずなのに何故か私の後ろから答えが返ってきた。
「沖田先輩!!」
私は慌てて沖田先輩に向き直る。すると沖田先輩はニッコリ笑って「おはよう。」と言った。
そんな気ままな沖田先輩を見て斎藤先輩は深いため息をついている。
「総司…お前はもう少し協調性を持て……お前以外は早くに来て準備している。」
斎藤先輩がそう言っても沖田先輩は何にも気にすることなく、平助くんを見てニッと笑った。
「ちなみに隣の平助くんのクラスと共同!」
平助くんは沖田先輩の台詞にハッとなって、あからさまに慌てだした。
「ヤベッそうだよ!!俺も朝早く来いって言われてたんだ!」
本当に忘れてたのかどうかは分からないけど、平助くんはわりぃと言って校舎に入って行った。
「……あれ絶対忘れて無かったよね…」
「…だよね…」
「珍しく南雲と意見が合った!」
「…僕だって合いたくなかったさ。」
わざと忘れてたっぽいってのは私も同感だ。平助くんは朝が極端に苦手なんだから。起きるのが苦痛で仕方ないはず。
何故か平助くんがいなくなってから急に沖田先輩も機嫌が悪くなった気がして怖い。
なぜだろうと考えていると、沖田先輩が私に声をかけた。
「千鶴ちゃんのクラスはなにやるの?」
「私ですか?私は幕末喫茶です。」
「何それ。」
「普通にあの時代の服来て喫茶店やるんですよ。」
「あんなぞろぞろした格好するの?」
「そうゆうのを着る子もいますけど、私は動きやすいほうが良いんで袴です。」
「……じゃあ僕今日見に行くね!」
沖田先輩はふぅんと言ったかと思ったら急に思い付いたみたいに私に提案してきた。
いやこの場合私が拒否しても無駄だから提案とは言わないかな。
「じゃあ楽しみにしてるから!」
私の返事を待たずに沖田先輩はさっさと校舎の中に入っていった。こうゆう姿を見ると沖田先輩はほんと羨ましいと思う。
「今日来てもしょうがないと思うのにな…」
「雪村……」
私の呟きを無視するように斎藤先輩が声をかけてきた。
「はい?」
「いいのか?もう…」
斎藤先輩はそう言って時計を見た。それにつられて私も時計を見ると、もう完全にアウトな時間を指している。
「あぁ!!!!!」
薫は気がついていたのかクスクスと笑っていた。薫は私があわてふためくのを見ていつも面白がってる。沖田先輩よりもたちが悪いと思うのは私だけじゃないはず。
「すみません!失礼します!!」
私は一礼して一目散に教室に向かったが、結果は…やっぱりダメだった。土方先生に放課後の呼び出しをくらってしまった。






昼も過ぎた頃。
「本当に来たんですか…」
「約束だしね。」
「自分のクラスのほうはいいんですか?」
「ん?どうなんだろうね〜…僕知らない。」
知らないって…この人はクラスで何やってるんだろうと思いつつ私は衣装合わせを始めた。
「袴の下にジャージ着るんだ。」
「そのほうが着替えが楽なんですよ。」
「全部脱ぐのが本当なのに。」
沖田先輩はサラッと爆弾発言を言う。それは脱げと言う意味ですか?とは怖くて聞けない。
私は沖田先輩の台詞をスルーして袴に着替えはじめる。
……沖田先輩の視線が……恥ずかしい。出来れば見ないで欲しいと思っても無駄だろうとすぐさま諦めた。
私は馴れた手つきで袴を着込んでゆく。
すると妙に沖田先輩が私の手元に注目しているのに気がついた。
「……どうしたんですか?」
「いや……千鶴ちゃん袴着たことあるの?」
「あるわけないですよ!」
「だよね……」
「沖田先輩?」
私が首を傾げると原田先生が沖田先輩の髪をくしゃくしゃと撫でながら割って入ってきた。
「お前の着方が妙に馴れてるからだろ?」
「髪……止めて下さいよ…」
「誰かから教わったのか?」
……そういえば……私はどうして袴の着方なんか知っているんだろう…袴って言えば男が着る服で、女の私なんか一切も関わりがないはずなのに。
「……千鶴ちゃん?」
「………っつ…!?」
「千鶴ちゃん?!」
こめかみがズキズキと痛む。頭の中身をぐちゃぐちゃに掻き回されてる感じがした。そう思っていると不意に力が抜け、私の記憶が途切れた。
「千鶴ちゃん!!」


沖田さんの声がする……


ん?………沖田『さん』……?


沖田先輩?……違う……私はこの声の主を『沖田さん』って呼んでいた気がする……



ここは……何処…?



私は………


「千鶴が倒れたって?!」
「静かにしろ……ここは保健室だ……」
「そうですよ……藤堂くん……」
「授業中さえも煩い平助に静かには難しいかもな…」
「それ土方先生の授業がつまんないからじゃないんですかぁ?」
「黙れ総司!」



知っている声………誰?



――思い出そうよ……――


――止めて……思い出させないで……――



突如見覚えのない映像が次々と浮かんできた。


『逃げるな…逃げるなら斬る』

『ほら、殺しちゃいましょうよ。』

『あんたの言動は女のものだ』

『藤堂さんなんて他人行儀なのやめようぜ?』

『殺すのは勿体ない気もするしな』




誰?土方先生?違う……沖田先輩だけど沖田先輩じゃない……
斎藤先輩も何か違う…
私藤堂さんなんて呼んだことない…
殺すって…私を……?




――私には果たすべきことがある…――


それは……何?


チクッとした痛みが首、手の平、耳、腕そして鎖骨にした。



――鬼の血は羅刹の狂気を止められるかもしれない――


鬼の………血……?


――思い出す時が来た――


――時空を越えて再び巡り会う――


――……それが………運命……――



「っ!?」
ガバッという音と共に私の身体は完全に目が覚めた。
「雪村気が付いたか?!」
息が荒い。
「……どうしたの…何処か痛い?」
涙が止まらない。
「うなされていた様だが…」
全身汗でべとついている。
「目覚めてよかったぁ〜」
私は何かに起こされた。
「平気か?」
私の中の何かに…
「……ここ……」
私は辺りをキョロキョロと見回してみる。どうやら保健室の様だ。
「急に僕に倒れ掛かってきたからビックリしちゃったよ。」
沖田先輩はニヤニヤしながら私の顔を覗き込んだ。
「えっ?!お前総司に倒れ込んだのかよ?!」
「……嘘だ平助……」
原田先生が苦笑混じりに言うと沖田先輩はつまらなそうな顔をして私の隣に腰掛けた。
「で?何にうなされてたの?」
「…………私……」
「…あっ!!もしかして土方先生に襲われる夢とか?!ありえそうで怖いよね〜」
沖田先輩がクスクス笑いながら言ってるのに対して土方先生の顔は怒りで真っ赤になっていた。
「…総司………あとで職員室に来い……」
「覚えてたら行きますね。」
「総司!!」
怒られてるのをなんとも思っていない沖田先輩を見ると何にも変わっていないように思える。
「……あの………血……」
「血?」
黙っていた斎藤先輩が怪訝そうな顔で聞き返してきた。
「あっ!!いえ!!……何でも……ないです……」
私は腕をそっとみる。何にも変わっていないのを見て、ホッとしたのもつかの間だった。
「山南先生!!」
私の視界にある色が目に入ったのだ。
「…なんですか…雪村くん…」
私の急な大声に周りは驚いていた様だったがこの人だけは平然としている。その手中に真っ赤なものを握りながら。
「…それ………なんですか?」
「これですか?」
山南先生は赤い液体の入ったビンを眺めてニッコリ笑った。
「ただの貧血用の飲み薬ですが……」
「…薬品名は?」
「新薬ですよ。」
山南先生は答えてはくれなかった。もしかしたらと思い私は勇気を振り絞り尋ねてみる。
「若変水……って知ってますか?」
「……新たな薬ですか?」
山南先生はなんともない様に思えたが、僅かに眉が動いた気がした。それを見てしまった私は愕然とするのを隠せないでいた。
「千鶴?」

―…思い出させろ…―

キィィンと刀と刀が合わさる様な耳なりがした。
「やっ?!」
「千鶴!?」

―…全員目覚める時が来た…―

「止めて!!」

平助くんが何か言ってる。けど耳なりが酷くて聞き取れない。

―…今目覚めなければ皆死んでしまう…―

「死んでっ…?!」

私の普通ではない台詞にあの沖田さんまでも真面目な表情を表しているのが分かった。

―…若変水の効果は何年たとうが消えることはない…―

その台詞を最後に耳なりは嘘のように消えた。
私の瞳からポタポタと涙が落ち、布団に染み込んだ。
「……若変水の効果は……消えない……」
若変水の効果……私はそれを知っている。尋常じゃない回復力。人並み外れた能力。―…代償として短くなる寿命…。
「…私が……」
守らなくてはいけない。あんな呪縛に皆なを縛り付けたくない。そして何より死んで欲しくない。
「やらなきゃ……」
私は周りを見渡し一人一人視線を合わせる。だれもが心配そうに私を見ていた。
130年の時を越えて再び巡り会った。
あの時私は守られてばかりだった。だから今度は私が皆を助けなくてはならない。
私が……

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