薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)A 共通ルート
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私の中の記憶が目覚めても特に変わったことは起こらなかった。
平助くんもいつも通りで全然気にしてないみたいで良かった。でもそんな中この人だけは違った。
「千鶴ちゃん?」
沖田さんだ。
「千鶴ちゃんってばぁ〜」
いつも私に構ってくるけどあれからはそれに拍車が掛かったみたい。
「千っ鶴ちゃ〜ん〜♪」
1年生の教室にまで来て私を呼ぶ。帰りだって校門で待伏せてまで私を呼ぶ。私は沖田さんの横を素通りしてスタスタと歩いた。沖田さんは私の後ろにピタッとくっついてくる。
「千鶴ちゃん!!」
「…………………………」
「千鶴ちゃんってばぁ!!」
「もうなんですか?!」
もう何度無視したかわからないくらい後にようやく私は沖田さんに返事した。
沖田さんを無視したくてしてたわけじゃない。
「千鶴ちゃん?」

ただ…

「……………どうして泣いてるの…?」
「…っなんでもないです!!ほっといて下さい!!」
あなたの顔を見るとあなたの運命を悟ってしまうの…
血まみれのあなたが脳裏にこびりついてるの…
「なんでもないってことないでしょ?」
「なんでもないんです!!」
「ならなんで泣いてるの?」
「ただ目に…」
「『目にゴミが入りました』なんて言うべたな言い訳はやめてね?」
沖田さんはまるで私の思考を読んでいる様に私の台詞を遮った。その顔は困った様に苦笑いしている。
「…………そんなに言いたくない?」
「…………………………」
言える訳ない。
このままだと沖田さんは『また』血に狂い死んでいく。そんなこと言いたくない。伝えたくない。
「……………平助くんにも嫌?」
平助くん?
私は沖田さんから平助くんの名前が出たことに驚いた。そうか沖田さんは自分だから話さないんだと思ってるんだ。
違う。沖田さん『に』話さないんじゃない。沖田さん『にも』話せないの。
「…………………………」
私は暫く黙って小さく頷いた。
ここは平助くんなら大丈夫って言った方が心配かけなかったのかも知れない。でもこんなに心配してくれる沖田さんに嘘なんてつきたくなかっただけ。
私はまた沖田さんを不安にさせてしまう。ばれないようにしないといけないのに。
「……………言いたくない…んです…誰にも……」
「…………そっ…か…誰にも…か……」
沖田さんはまた困った様に笑う。私は沖田さんだけじゃなく皆に迷惑しかかけれない。
「……ごめん…なさい…」
私がそう言って頭を下げた時だった。急に静かになった空気と共に腕に感じた痛み。
「っ痛っ!!」
「なっ?!」
私達の目の前に現れた人――否。それはもう人とは呼べない。
「…血を……血を!!」
そうそれは…羅刹―…!!
「なっお前何っ…」
沖田さんは驚いた顔をしている。当たり前だ。この平和な御時世で刀持った人が私の腕を切り付けた。
しかしそれでも私を庇って前に立ってくれる。この人を守らなきゃいけない。私の中を支配する感情。
この人を守りたい!!
「沖田さんこっち!!」
私は沖田さんの手を引っ張って羅刹がいない方向に走り出した。
行き先は学校。学校なら今の時間大会が近い剣道部員しかいないはず。剣道場は保健室とは離れているからきっと大丈夫。
学校はここからだったら結構距離はある。でも走らないとこのまま殺される。そんなことさせない。学校に戻ればもしかしたら山南さんがなんとかしてくれるかもしれない。彼の手にあったのはやっぱり若変水だと思うから。
「千鶴ちゃん!?」
「学校に戻ります!!走って下さい!!」
「でも千鶴ちゃん手に怪我!!」
そうだ。切り付けられた手。見ると赤い鮮血が制服を染め上げていた。
「……平気です!………こんなの…すぐに治りますから!!」
「千鶴ちゃん?!」
嘘は言ってない。私は鬼の血を引く子。こんな傷一瞬で塞がる。実際もう痛みもないし、多分血も止まって傷口も塞がり始めているはず。
「……ごめんなさい……」
私は小さく呟いた。当然沖田さんには聞こえない。
いつの間にか沖田さんが私を引っ張る形になっていることに気が付いた。
最初こそ慌てている様に見えた沖田さんだったが今は平然として携帯を弄りながら走っている。そんな姿をみるとやっぱり沖田さんなんだと思ってしまった。

そろそろ学校に着く。羅刹は疲れた様子もなく私達を追い続けていた。
「…千鶴ちゃんどうする?」
「保健室に行きます!」
「…保健室…ね……やっぱり怪我痛む?」
「そうじゃ……なく…て!」
息がきれて上手く喋れない。学校の門まであとちょっと、もう見えてる。
「じゃあ保健室に行くのは止めようね。」
「…えっ?!なんで?!」
沖田さんは笑ってる。まるで追いかけっこをしてる様にこの状態を楽しんでる。
「それはね…」
「総司!!」
「遅いよ!!土方せんせっ!!」
声がした方向を見ると土方さんが沖田さんに何かを投げ渡した。
何か…それは…
「こんなんじゃみねうち位しか出来ないけどね…土方せんせ手ぇ出さないでね…」
それは竹刀だった。
「……お前が殺されそうになるまではな…」
「…生徒を見捨てる訳にはいきませんもんねっ」
土方さんも沖田さんも笑っていた。真剣振り回す相手目の前にして楽しそうだった。
「やっ沖田さん止めてください!!相手は真剣なんですよ?!竹刀なんかじゃ殺されちゃいます!!」
「違うよ千鶴ちゃん。」
沖田さんは相変わらず笑っていた。羅刹との距離が違う。私はこの余裕の笑みを何度も見ている。不敵な笑み。竹刀を渡した土方さんは黙って見ている。相手が真剣を持っていること位分かるはずだ。なのに何故?
「真剣だったら僕…人殺しになっちゃうよ?」
沖田さんが一歩前に出るが瞬間。羅刹の動きが止まった。竹刀で羅刹の足を打ったからのようだ。
「沖田さん!!危ない!それは何度だって蘇る!!」
「…そんな気がしてたよ!」
沖田さんは的確に相手の動きを封じる様に痛手を入れていく。息も乱さず。淡々と。
それでもまだ羅刹は立ち上がり襲ってくる。
「もうしつこいなぁ!」
ガッと腹部に竹刀が食い込んだのが見えた。
「内臓やっちゃったかもしれないけど……」
それでも羅刹は起き上がる。
「…関係なかったね。…どうしようかな………きりが無いよね…軽いし…真剣使いたいなぁ…」
沖田さんと羅刹の戦い…いやもう沖田さんが一方的過ぎて戦いとは言えない。
「……ちっ…しつこいよ!!」
沖田さんの竹刀が思いっきり羅刹の腕を打つ。バキッという音が聞こえた。間違いなく骨が折れたはず。しかしその折れた腕をだらーんと垂らし羅刹は襲い掛かってくる。
「……ここまでだともうホラーの域だね…」
沖田さんはニッと笑った。楽しんでる。沖田さんはこの殺されるか分からない状態にも関わらず楽しんでいた。でもこの調子だと間違いなく殺されるのは沖田さんじゃない…羅刹のほうだ。
羅刹…そういえばこの時代に羅刹が存在する理由が分からない。…山南さんが飲ましている以外。でもそうするとわざわざ私を襲いにきた理由が分からない。偶然と考えるべきか。山南さんに殺される理由もないはず。そもそもこの羅刹は誰?もしこの羅刹が人間なら殺せない。でもここまで堕ちた以上殺さないと被害者が増える可能性の方が高い。そう考えているうちに羅刹の折れた腕が治っていた。
「…化け物みたいだね……」
沖田さんはだんだん苛立ち始めていた。倒しても倒しても立ち上がる。エンドレスの試合。
「はぁぁぁあ!!!」
沖田さんの竹刀が羅刹の心臓を思いっきり突いた。羅刹はそのまま倒れて動かない。
「トドメ…」
「そこまでにしとけ。」
土方さんが手をパンッと叩いた。その音を聞いて沖田さんは振り上げた竹刀を下ろし一歩ずつ後ろに下がる。そして私達の隣に並ぶ。
「………蘇る前に何か策をたてなきゃマズイんじゃないですか?」
沖田さんは苛立ちつつニッと笑っている。
「……様子を見ろ…」
「…………………………」
沖田さんは土方さんの言う通り黙って羅刹を見つめる。やっぱり動かない。おかしい。真剣で殺すのでさえも骨が折れる羅刹が竹刀なんかで殺せるはずがない。死んでなんかない。じゃあ何故起き上がらないんだろう。私は一歩一歩ゆっくり羅刹に近づいた。何故か分からないけれど近付いても大丈夫な気がする。
「千鶴ちゃ…」
「待て…」
一歩ずつゆっくり…怖くないのが逆に怖い。
「………っ…」
羅刹が少し動いて身体がびくついた。
「千鶴ちゃん!!」
「待てっつってんだ!!」
「っっっ!!」
背中から沖田さんの叫び声が聞こえる。
このまま近付いたら斬り殺されるかもしれない。そうしたら誰が皆を守ってくれるかな。私しか守れないのに。
だから私は死ねない。
大丈夫。
私は死なない。
私は…死なないよ。
「……大丈夫…ですか?」
恐る恐る羅刹に声をかけた。返事は…すぐは返ってこない。
良く見ると羅刹が来ていた制服は薄桜学園の制服のものだった。
羅刹はこの学園の生徒。
「……っ痛っ!?」
「大丈夫ですか?!……!!」
目覚めた羅刹…私は知っている。狂気してる時は全然気が付かなかったのに。今は、もう狂気してない普段の…私の…クラスメート。私は咄嗟に彼の手から真剣を取り上げ沖田さん達に向かって投げ渡した。刀はキンッと金属音を響き渡らせた。
「……あれ?雪村さん?」
「……こ…こんな所に倒れて…ど…どうしたの?」
動揺したらダメ。
羅刹が普通に戻った事に動揺している私に追い撃ちをかけられた様な事実。
動揺してはいけない。
「……倒れ…?……おかしいな…俺家で寝てたはずなのに……?」
「…こ…ここに倒れてて私びっくりしたよ!」
「……んー気のせいなのかなぁ?………っつ…胸痛っ!!」
「大丈夫!?病院に!!」
私は彼の背中をさすってやった。本当に痛そうにしている。
「俺が連れていこう…」
「土方さ…先生!」
「………………雪村…お前はもう帰れ…」
「でも!!」
土方さんは私がそう叫ぶと肩をよせ耳に口を近づけた。
「…総司にさっきの刀を片付けさせてる…あいつが戻って来る前に急いで帰れ……」
囁く様な小さな声で告げた。
確かにこの後間違いなく沖田さんに問い詰められる。きっと話すまで帰してくれないだろう。
「斎藤!!」
「……はい。」
「悪いがこいつ送ってくれないか?」
「……分かりました。」
斎藤さん…。
「他の部員には筋トレを言い渡していたので誰も外に注意を払ったものはいません。」
「分かったサンキュー。」
「いえ。」
剣道部のエースで新部長である斎藤さん。三番隊隊長だった斎藤さんにピッタリだと思う。
「…雪村……行くぞ…」
「…はい…」
ここは大人しく土方さんの好意に甘えるのが得策なんだと思う。
でもきっと、沖田さんだけじゃなく土方さんも…もしかしたら斎藤さんも聞きたいのを堪えてるかもしれない。いや絶対に堪えてる。
いつまで黙していられるのかと言う不安を抱えて私は斎藤さんの隣を歩いた。

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