薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)D 半共通ルート
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あれから斎藤さんは一言も言葉を発しなかった。家の前に着いて、斎藤さんにお礼を言っても彼は何も言わずに背を向けた。
無視されたのが悲しくてそのまま家の中に入ろうとした私に斎藤さんは話し始めた。
「お前は…何を知っている?………守れと言う指示がある以上、俺はお前を守ってやるが……何も知らないと言う事実は腹がたつ……」
「………言えないんです……だから…守らなくていいですよ?……斎藤…先輩の望む様にしてください!!」
私は斎藤さんの背中に笑いかけた。それと同時にやっぱりと言う気持ちと申し訳ない気持ちが私の胸に広がる。
斎藤さんは何も言わず私から離れていった。



部屋に入った。
私のために女の子らしい部屋を両親は用意してくれた。
両親は何も知らない。きっと私の転生とは関係ない人。私に兄弟はいなかったが、両親がいる毎日は退屈でも幸せな毎日だ。
私はベッドに俯せに倒れ込む。テレビやパソコンを見ると私が今生きている時代が分かる。
途端に涙が込み上げてきた。ベッドに俯せになって泣き声を押し殺す。
「……やだよぉ………助けて……」
仰向けになって消え入りそうな声で呟いてみた。勿論誰ひとりと答えてはくれない。
私の運命を変えた出会い。逃げる事は不可能だった出会い。今と同じ。
でも後悔はしてない。あの時出会った事で辛いこともあったけど楽しいこともたくさんあったから。
私は今生きている。皆が命を賭けて守ってくれたから。
私のせいで失われた命があることを私は知ってる。
…平助くんも…その一人だから…
浮かぶ平助くんの血まみれの姿にまた涙が溢れてくる。
もしかしたら…また私は皆に守られて、目の前で失われる命を目にするかもしれない…
携帯の着信音が鳴っている。出なきゃ。
でも私の身体は全く動かない。動かそうとしても身体が言うことを聞いてくれない。耳から着信音が確かに聞こえてくるのが分かるのに、伸ばさなきゃいけない手は目の前から動かない。
しばらくするとまた静寂と寂寥感だけが部屋に残る。
『………千鶴……』
誰かが私を呼んでる。
『……千鶴…』
私を呼ぶのは誰?
『…千鶴』
声がだんだん近付いてくる気がする。
やめて。私を呼ばないで。
私は……
「千鶴?」
私の視界から天井が消えた。
「……平……助…くん?」
「どした?なんかあったか?」
平助くんは心配そうな表情で私の顔を覗き込み、涙を指で拭ってくれた。
そして私の身体をぐっと引っ張って起こした。
その瞬間私の中に押し殺していたものが爆発する。
「うっわっ!?ちょっ!!」
私は平助くんに抱き着き、声をあげて泣いた。
「…………………………」
平助くんに構うことなく私はただひたすら泣いた。平助くんの手が躊躇いがちに私の髪を撫でていることに気が付くのには時間がかかった。
だんだん気持ちが落ち着いてきて、顔をあげると平助くんの泣きそうな顔で微笑む表情を見る。
「……ご…ごめんなさ……!!」
私は身体を離そうとしたのを拒む様に強く強く抱きしめられた。
突然の出来事に戸惑ってしまう。平助くんの息が耳にかかる。
「………ごめん……」
囁く様な平助くんの声を私は聞いた。
「……平助……くん?」
平助くんに謝られる理由なんて思い浮かばない。むしろ私のほうが謝らなきゃいけない事が沢山ある。
「………何もしてやれなくて…お前を助けてやれなくて……ごめん……」
平助くんの声に身体が熱くなる。それと同時にまた涙が込み上げてくる。
平助くんはそのまま聞いてと言うと抱きしめる力を少し弱めた。
「……俺さ…昨日襲い掛かってきたやつらが千鶴に向かっていくのに手も足も出なかった…自分のことでいっぱいいっぱいで……俺は…お前の幼なじみで…守ってやらなきゃいけねぇのに……なのにっ!!」
平助くんの気持ちは嬉しい。だけど間違ってる。あの状況で自分に精一杯なのは当たり前で非でもなんでもない。自分の身も自分で守れない私が全ての元凶なんだよ。
私は皆を守りたいのに…
しばらく何の音も無かった。ゆっくり離された身体は微妙に平助くんの体温が残っていた。
「……お前は……俺が守ってやるからっ!!」
真っ直ぐな視線を向けられた。平助くんらしいと本当に思う。
私は…
「守らないで!!」
平助くんから逃げる様に視線を伏せた。
平助くんがどんな表情しているかわからない。知りたく無かったと言うのが正しいかもしれない。せっかくの申し出を拒絶した私に怒ってそのまま見捨てて欲しい。
私がそのまま黙っていると平助くんは優しく髪を撫でた。
「………そうだよな……俺よりもっと頼れるやつがお前の傍にいるもんな……ごめん…でも…俺はお前が……幼なじみとして好きだから…それだけは拒まないでな……じゃあ……」
平助くんは俯く私にそう言って部屋を出て行った。
顔があげられない。
平助くんがお母さんと話しているのだろう声が聞こえる。
「……あ……」
私は平助くんが消えたドアに駆け寄りノズルに手を伸ばす。だがその手はドアを開ける事なく自身の顔を抑える。
「……違う……」
その場にペタンと座り込み涙で濡れた顔を拭う。
「……そうじゃない……」
平助くんに戦って欲しくないのは本当。もう二度とあんな光景はみたくない。

――平助くんが大切だから――


その日私は食欲も湧かずそのまま眠りに着いた。







その日の夜。真っ暗な部屋の中で沖田の携帯が鳴った。
「はーい?…………えっ??僕は構わないけどぉ…やっぱめんどくさいからヤダ。……怒らないって逆に怖いよ……はいはい、やりますよー………………で?僕が頼んどいた件は?今日やってくれたんでしょっ?………うん………ふーん…………まぁ予想の範囲内かなぁ……そう。流石でしょ?僕。………えっ?!今の嫌味だったの?……なら頼むなって言ってもね〜予想は予想だからさぁ……君だって僕の予測で動くのは嫌いだと思うんだけど?…………はははっ……笑うところでしょ?今の。でも残念ながらハズレ。僕、結構真面目にやってるよ。なにしろ命かかってるんだからね〜…………まぁね…それを言われたら言い返せないんだけど…………分かってる分かってる、だからそんなに何度も言わないでよ。はいはいはいはい。分かったから。明日は学校あるんでしょ?犯人がいないこと知ってる僕が言うのも変だけど、今日1日休みにしても意味無かったよね…どうせならずっと犯人捕まるまで休みにすればいいのに。………否定はしないよ。どうせ学校行っても寝てるし。………うん……じゃあね……」
会話が終わり、沖田は携帯をパタンと折り畳む。その表情は先程の電話をしていた沖田とは思えない様に険しく、そして悲しさが混じっていた。
カーテンの隙間から空を見上げる。
もうすぐ満月になる。
そのせいか部屋は薄暗いくらいにしかならない。
沖田は腕を組み、壁に寄り掛かって月を見上げる。
「………皮肉なもんだよね……世の中は上手く出来てるよ…ホント…」
沖田はそう言って嘲笑を浮かべた。






次の日は雨だった。私は億劫な身体を無理矢理起こす。鏡に映った自分を虚ろな目でみつめる。
「……やっぱりちょっと赤いかなぁ……」
私は本当はダメだけど、目の周りに化粧を施してばれない様にした。
「……………大丈夫……」
鏡と睨めっこしていると携帯が鳴った。
開いて確認すると平助くんからのメールだった。

『今日は朝練で一緒にいけない』

いつもみたいに絵文字があるメールでは無かった。
ただ用件だけが一文書かれたメール。
胸がチクりと痛んだ。
私は平助くんを傷付けた。

『分かった。頑張ってね。』

絵文字は付けなかった。付けられなかった。
私は携帯をぎゅっと握りしめた。




授業中。頭に先生の会話が入ってこない。
「……千鶴ちゃん!」
ひそひそと千ちゃんが話し掛けてきたのは分かった。
「雪村!!」
バンッと机を叩かれた。叩いた手を腕を伝って見上げると、怒っているのだろう土方さんがいた。私は土方さんをじっと見つめた。自然と瞳が水っぽくなってくる。
「……………聞いとけ…」
土方さんは溜め息をついて、そう言うと授業に戻った。クラス中がざわついている。土方さんが怒らなかったからかな。
でも違う。私は土方さんの優しさを知ってるから。
「………………っ…雪村来いっ!お前らは自習してろ!!」
土方さんは有無を言わさず私の腕をグッと引っ張って教室の外に連れ出した。教室のざわつきが聞こえる。
私は逆らう意味もないので大人しくついていくことにした。
授業中なため廊下は静かだ。
「…………授業……ごめんなさい……」
「……………雪村……お前…何があった?最近急にお前が変わったって斎藤や総司も言ってる……平助はいつも通りだって言いやがるけどな…………その平助も今日は元気ねぇしな……俺が知らない何かがある。話せとは強要しない。………もし俺に関係ないことならな……」
土方さんは厳しい目を私に向ける。
私は誰にも話さない。そう決めた。これは私が解決しなきゃいけない問題。
「あっれ〜?二人でサボりですかぁ?」
この声…
「………お前授業は……?」
「やだなぁ。授業も何も今来たんですよ。」
沖田さんは悪びれもせず飄々と言ってのける。土方さんが怒るのも時間の問題…と言うよりもう怒っていそう。
「お前は!!………………今お前に構ってる暇はねぇ……雪村……」
「……千鶴ちゃん!!」
土方さんは沖田さんへの怒りを押し殺し、私をまた誘導するが土方さんの隣から沖田さんは私を自分に引き寄せた。
「なっ?!」
「土方せんせ悪いけど僕が先約だから!!もう千鶴ちゃんも先生付きじゃダメだよ!」
「えっ?…えぇっ?!?!」
抱き寄せられたのと台詞と二重の驚きが私を襲った。一体何を言っているんだろう。
『…合わせて…』
耳元で囁かれた声にビクッとなると沖田さんがクスッと笑った気がした。
「……はい……」
「…ほらねっ!……どうしてもって言うなら土方せんせもどうぞ。…屋上行きますんで…」
沖田さんはそう言ってスタスタと歩き始める。いつもより速度が速い気がする。土方さんは黙っていたが、大人しく沖田さんにのってきたのが意外以外の何でもなかった。




屋上への階段を登っていく。誰も何も言わない。
屋上の扉を開けられ、出る様に促された。
「どうぞ?」
「ありがとう…ございます……」
外は相変わらずの雨だった。手を伸ばすと手先が濡れる。こんなところに連れてこられて一体何をすればいいんだろう。
「…あっちの屋根がある所だよ…」
真っ直ぐ指指された場所までは5メートル程ある。目を凝らすと強い雨に紛れていくつもの人影が見える。
「……どうしても…ですか?」
「拒否権はないよ。もう授業抜けちゃったんだからっ!」
――拒否権はない――
私に拒否権が与えられる事は少ない。拒否出来ない状況に追い込むのが沖田さんは得意だから。
私は仕方なく一歩ずつそこに向かっていく。本当は走って濡れない様にしたい所だが今は走る気力が沸いて来ない。

「……まさか土方『さん』が彼女を連れ出してくれるとは思いませんでしたよ…」
「じゃあお前はどうするつもりだったんだよ…」
「僕ならなんとでも出来ますよ」
「ほざけ」
「…ほら僕らも行きましょう?土方…『副長』?…」
二人が何か話しているのは分かったが私には聞き取れない。
気にならないと言ったら盛大な嘘になる。
近付けば近付く程人影の輪郭は正確になっていく。
「…っ!!」
そして私の足はピタッと止まってしまう。
雨が私の頬を伝う。
どうして…
「ほらっ濡れちゃうよ!!」
私は沖田さんに押されて雨よけの範囲内に入る。雨の中から見た影は変わってくれない。
「……どうし…て……」
そこにいる人物…私の右側から…
土方さん
斎藤さん
平助くん
原田さん
永倉さん
そして、沖田さん
「…一くんもサボれたんだね?良かった」
「…………………………」
「あー斎藤は俺の授業だから。」
「じゃあ左之さんの口添えで来たって訳ね。」
今…なんて…?
私は沖田さんの顔を見上げた。やっぱり沖田さんはニコニコして意図が読めない。私はそのまま驚愕の表情のまま。
「……そっ…か…やっぱり…」
沖田さんの表情が哀愁を帯びる。皆口数が少ない。皆が何を思っているのか分からない。
「千鶴ちゃん……僕ら甘く見たらダメだよ?」
沖田さんはそう言ってニッコリ笑った。
雨の音が私の不安をえぐる様に降り注いでいる。







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