薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)E 半共通ルート
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『僕ら甘く見たらダメだよ…』


沖田さんが私の顎をクイッと上げて微笑んだ。
「………私は…甘く見てなんか…」
「ない?」
沖田さんは目を細めた。沖田さんは怒ってるんだと思う。
「……そう……それは良かった…」
この笑顔…冷笑としか言いようがない笑顔。背筋がゾクッと寒気が走った。
「あの……私……」
「ん?」
沖田さんはそのまま黙っていた。どうやら私の言葉を待ってくれているらしい。周りの皆もじっと私のことを見ている。これは助けてくれる様な雰囲気じゃないけれど。
「……私は決めたんです…」
誰も何も言わない。今にも殺されそうな空気に目眩がする。
「……誰にも言わずに私が解決して…」
「馬鹿じゃないの?」
沖田さんが口を割るように言った。目は笑ってるのに笑ってない…そんな気がする。
そして金属音がしたかと思うと、首に冷たい感覚を感じた。
「……教えてよ……ね?」
怖い。沖田さんは確実に私の首に太刀を添えている。そして、きっと本気。
「おい総司!!何やってんだよ!!」
「……平助くんは黙っててよ…」
沖田さんの視線が私から外れた。その隙を狙ってか原田さんが私の身体を引き寄せる。咄嗟の事にバランスが崩れた身体を原田さんはいとも普通に抱き留めた。
「ったく…お前は何考えてんだ……殺しちゃ何にもなんないだろ……大体今平成……」
「そんなこと…平助くんや新八さんも知ってると思うケド…?」
沖田さんはまるで獲物を横取りされた獣の様に不機嫌だった。平助くんと永倉さんの怒鳴り声も聞こえないふりなのか、本当に聞こえてないのか、あっさり流した。
更に二人は無視するなと怒鳴っているのだが、それもあっさり無視する。
「…分かってんならいいんだけどさ……だとしてもそんなすごむなよ…怯えさせてどうすんだ…」
「優しく言ってダメなんだからしょうがないじゃんっ」
沖田さんは不機嫌全開で原田さんに対応する。原田さんはそれに普通に対応しているのは大人の余裕なのか。私には考えられない。
「……総司…早く本題に入れ…」
ずっと大人しく様子を見ていた斎藤さんが口を開いた。最初こそ気が付かなかったが、こっちはこっちで機嫌が悪い。
「…あっそ…一くんも左之さんの肩を持つわけね……心配しなくても僕は真面目だって何回も言ったじゃん!!一くんは堅いんだよ!」
「…………………………」
「シカト…そう…シカトね……つまんないの…」
斎藤さんは寡黙に腕を組み待っている。全身で早くしろと言っているのが分かった。
私にも分かるのだから沖田さんにわからない訳はない。この平常な沖田さんは本当に強者だと思う。
「……さて…一くんも煩いし…ねぇ千鶴ちゃん?」
「な…なんですか?」
沖田さんに話し掛けられると無意識に身体が強張り、声が裏返った。皆がいる訳だし殺されることはないと分かっていてもやっぱり沖田さんの笑顔は怖い。沖田さんもそんな私の様子に気が付いたのか苦笑を浮かべた。
「そんな怯えないで、殺したりしないから…」
「す…すみません…」
謝る私に沖田さんは溜め息を付くと、少し私に近付いてニッコリ笑った。
「…千鶴ちゃん……新選組って知ってる…?」
『新選組』
その言葉が出た途端心臓が跳ねたのが分かった。
「……少しは……」
落ち着いて答えたつもりだがまだドキドキいっている。まるで全身の血が逆流しそうな緊張感。
私が新選組を知らない訳ない。きっとこの時代の誰よりも詳しいと思う。それも当たり前…私は実物と暮らしていた記憶を持ってここに存在しているのだから。
「……実はね…昨日一くんに頼んでちょっと調べてもらったんだっ!!」
「…どうして新選組を?」
「やだなぁ〜分かってるくせに〜!!」
沖田さんは冗談っぽくニコニコと笑いながら私に話し掛けてくる。その微笑みは私の考える時間を尽く奪っていく。
「分かりません。」
「…へぇ…僕昨日一くんに君と会ったって聞いたんだけど……」
「…確かに会いましたけど…」
「君も歴史の棚…新選組を調べに来たんだと思ったのは僕の勘違い?」
――逃げられない――
私はそう思った。そもそも私が沖田さんをかわそうだなんて不可能だと最初から決まっていたかもしれない。
私は沖田さんから視線を外した。
会話から察するに皆の記憶は戻っている。ただ…そう考えると引っ掛かることが1つだけある。何故沖田さんが私の口から真実を聞きたがっているか…
記憶が戻っているのならもう全て知ってる訳でわざわざ授業を抜け出してまで私を問い詰める必要があるのか…
「……私は…その……」
どうしよう…
持久戦に持ち込むのもありかもしれないが、それでも沖田さんには勝てない。逆に怒らせるだけかも。
私が口ごもっていると沖田さんは溜め息をついて私に尋ねた。
「『羅刹』って……知ってるよね?」
「……知りま…」
「知ってるよね?」
沖田さんはきっと微笑を浮かべてるに違いない。
怖い…
どうしよう……
私の思考がこの二つでいっぱいになった時、ガタッと音がした。
それは平助くんが椅子から立ち上がったからだった。
「……総司もうやめろ…これじゃただの尋問だろ?女の子相手に何やってんだよ…」
いつもより元気がない声で私と沖田さんの間に入ってくれた。
「……ふぅん……じゃあ平助くんが代わりに聞いてくれるのかな?」
「はぁ?大体おまえら何考えてんの?!あの襲ってきたやつが千鶴に関係あるかなんかわかんないだろ?!」
――え…?
私に関係あるかわからないって……
記憶は戻って…ないってこと…?――
平助くんの言ったことが本当ならやっぱり記憶は戻ってないとしか考えられない。私と羅刹の関係なんて…あるに決まってるのだから。
「…………………………………平助くん……」
「なんだよ?」
「…………後ろには気をつけて?」
沖田さんはそう言うと雨の中に消えた。辺りを見渡すと皆厳しい顔をしている。
「……土方先生……俺…意味わからないんだけど……なんかいきなり先生をさん付けしろとかさ…授業中抜け出して来いとか……」
平助くんは悔しそうな表情をしていた。平助くんはきっと言われるがままにここに来たんだと分かった。
土方さんは平助くんの台詞を聞くと、平助くんの頭をぽんぽんと叩いた。
「……あぁ……そうだな…悪かった…」
「…一体総司は何がしたかったんだよ?!……土方先生も総司も……………千鶴も…………意味わかんねぇよ………」
私の名前を呼ばれた瞬間心臓がチクリと痛んだ。平助くんにとっては私も意味のわからない言動をする一人。間違っていないから、私は何も言えなかった。
「……授業戻るかぁ!!平助!!」
「……永倉先生…重い…」
永倉さんは平助くんの肩にずしっとのしかかって平助くんを屋上の入口に促した。その際に原田さんと土方さんとアイコンタクトをしていたことに私は気がついた。二人とも頷いていたが、何を意味していたかはわからなかった。

屋上からだんだん人が消えていく。土方さんは何も言わずにたぶん教室に戻った。機転の利く土方さんだから私は保健室扱いになったんだと思う。
最終的に残ったは斎藤さんと私だけ。真っ先に帰りそうな斎藤さんだっただけに物凄く驚いたが、私はとにかく皆との接触時間を短くしたい。
私は斎藤さんに一礼して、雨が滴る地に行こうとした時。
「……羅刹の血は転生する…だからお前は黙秘を貫いている………間違っているか?」
斎藤さんの台詞が私の足をピタッと止めた。足が何故かガタガタと震えて上手く歩けない。
――え…?今の…は…?
斎藤さんが言ってる事がわからないんじゃない。斎藤さんが言ってるとゆう事実がわからない。
――え?
頭の中がこんがらがってくる。思考が…何を考えているのかがわからない。
「…おい……千鶴?聞いているのか?」
「…………斎藤……さん……ですか?」
そう尋ねてから私はハッとなる。斎藤さんですか?なんて質問の答はYESに決まってる。
「……お前の言う『斎藤さん』は……俺か…それとも新選組3番組組長の斎藤一か……?」
「…………………………」
「………どっちだと言われても答えは変わらないが……千鶴?」
斎藤さんの台詞の意味を私は瞬時に理解出来た。意味だけは。理解なんか…したくなかったけれど…
だから…
「……泣いて…いるのか…?」
涙が溢れてくる。もう羅刹の呪いに誰も巻き込みたくなかったのに…
私は涙をぐっと堪えてそのまま斎藤さんに背を向けて話すことにした。
「……どうして羅刹の血は残るって思うんですか…?」
「お前の態度から簡単に予想できる。」
「………そう……ですね…さすが斎藤さんです……」
「………否定はしないんだな……」
「…否定…しても『記憶』がある斎藤さんをごまかせるとは思いませんもんっ!」
「……お前の態度から考えるにお前の記憶は俺より早く甦った……違うか?」
斎藤さんは否定してくれなかった。最後の糸が切れたような感覚。もう斎藤さんは記憶を持ってる。おそらく全部。
「……そうです……文化祭の前に倒れた時があったじゃないですか?あの時です……そして南雲薫…彼もおそらくその辺りで記憶が甦ったんだと思います……」
「南雲?風紀委員のか?」
「あ…そっか…彼をあの時代で見たのは沖田さんと平助くんだけだから……彼…実は私の双子の兄なんですよ……正確にはだったですけど……」
「っ?!」
斎藤さんは驚いている様だった。表情が見えなくとも声の調子とかでわかる。それだけ私達は長く一緒にいたから。この時代ではまだそんなに経ってないのにね…
「私も聞いていいですか?」
「……あぁ……だが…人と話すときは背を向けるな。」
私は斎藤さんに言われ、やっぱり失礼だったなと反省する。とは言えこのまま向き直ると泣いていることがばれてしまうので、あまり擦らないようにしつつ涙を拭った。
私が振り返ってニッコリ笑うと、斎藤さんは逆に悲しそうな顔をしたのが気にかかった。やっぱり泣いてたのがばれていたんだと思う。
「すみません。あの…斎藤さんはいつ記憶が戻ったんですか?」
「…昨日の夜……お前と別れてすぐに。」
「全部戻ってますか?」
「おそらく。」
「……試す様なんですが…あの時代で私が新選組にお世話になった理由…わかりますよね?」
「お前が俺と総司が羅刹を始末してるところを見たから。」
「………はい……そうです……記憶が戻ってるのは斎藤さんだけですか?平助くんや沖田さんが戻ってるようには見えないんですけど……」
私がそう尋ねると斎藤さんは少し考える仕草を見せた。確かに新選組のメンバーはくせ者が多いから記憶が戻っていたとしても隠してる可能性もあるし、わからなくて仕方ない。私は申し訳なく思ったが斎藤さんの返答を待ってみる。
「そうだな…俺だけだ。」
意外な事に斎藤さんは言い切った。それは皆知ってるふりをしていただけだと見破っての解答なのか、それともそう信じたいのか。
「…俺はお前の様な巻き込みたくない精神は持ち得てない。判断材料は口数だな…」
「……口数…ですか?」
思考が読まれていたことに驚かなかった訳ではないが、斎藤さんのことだ。私の性格を辿って表情と組み合わせて出したんだろう。そういえば沖田さんにも私はわかりやすいと言われたことがあるし。
私はあくまで平常心を装って聞き返した。
「…あぁ…俺意外あまりしゃべらなかっただろう?…副長は…静かなほうだったが……お前もわかると思うが、本当とは異なることは続かない。それを隠すためには黙っているのが最良の方法だ。」
「そうですね…」
「どうする?」
私は斎藤さんの質問にキョトンとしてしまう。一体斎藤さんは私にどんな答を求めているのだろう。
「…お前は俺に黙秘して欲しいのだろう?」
「……してくれますか?」
「お前がそう言うのなら断る理由はないが…俺が黙秘をしていても何も変わらないと思うが……何か考えはあるのか?」
「…え……いえ……特には……」
斎藤さんは深い深い溜め息をついた。そうあからさまに呆れられるとちょっと傷付く。お世辞とか斎藤さんは似合わないけど。
とは言え私には本当に何も考えはない。でも何もしない訳にもいかない。こうしてる間にも羅刹の血は…
「斎藤さん!!羅刹の血は大丈夫なんですか?!」
私は咄嗟に大声で言ってしまった。幸い授業中だし、大雨で声が漏れる心配はないけれど。
「……今のところは問題無いな……だがいつまでもつか……いや心配無い。」
顔色を変えなかった斎藤さんの表情が変わった。
私は『今のところは問題無い』と言う台詞にとりあえず安心してしまう。未来の事は誰にもわからない。でももし羅刹の血が発現したら私はどうしよう。
「あの……」
「…なんだ?」
「私…皆のために出来ることしますから……その……言ってくださいね!!」
私はニッコリ笑った。皆が普通に生きられればそれでいい。だから…
私は私に出来る全てをしたい。
「……じゃあ…私行きますね?」
私はペこりとお辞儀をした。雨に濡れない様に駆け足で屋上の入り口に向かった。後ろを振り返っても斎藤さんが来る様子はなかった。
正直言って一人嘘をちかなきゃいけない人が減ったのは嬉しい。だから私は斎藤さんのために血を捧げてもいいと思ってる。皆に血を捧げられるかはわからないけど…




雨が降り止まない。
「……130年経っても千鶴はお人よしなんだな……」
斎藤は雨が降る場所へ出た。自分に襲い掛かる雨を顔で受ける。それが頬を伝って涙の様に見える。
灰色の空が世界を包む。同時に斎藤は自分の未来が灰色に染まった気がした。
「…運命は変えられないから運命と言うしな……」
冷たい雨は容赦なく斎藤の身体を濡らす。誰もいない屋上でただひとり佇む。
いくら冷静な斎藤でも、今ここにいる斎藤は記憶こそ新選組の頃のものがあるが、それ以外は普通の高校生となんら変わりない。
「……俺は……あとどのくらい人間でいられるだろうか…」
人間でいられなくなる運命。それは高校生には重く闇色の運命だった。世界は灰色に包まれる。




その夜。
自宅で眠りつく千鶴に羅刹は待ってくれない。
しかしその羅刹達はその夜のうちに消えた。そして傍らには血に濡れた新選組組員達が太刀を握りしめていた。
もちろん千鶴はそんなこと知らない。









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