薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)F
1ページ/2ページ

――記憶の目覚めが運命の始まり――

複数の運命は一世紀の時空を越えて再び巡り会う

そう…それは必然。

神の悪戯ではなく、必然。

必然を拒むことなど出来ない。
例え人ではないものだとしても…




早朝の生徒会室。そこは一人の留年生のエリアと化している。何年留年してるか知るものもいない。
生徒が知っていること…それは『完璧な生徒会長』であるということだけだった。彼の名は風間千景。
「……今日も騒がしいな……さてはまた羅刹(まがいもの)どもが出たのか……」
彼は羅刹を偽物『まがいもの』と呼ぶ。その顔は恐ろしいほどに苛立っていた。
「…鬼の純血には敵わないものを……それでも俺達を狙うか……」
彼はそう言って窓ガラスに触れる。彼は自らを『鬼』と称してはいるが見た目はただの人。わからない。
何人ものの生徒が登校してくる様子を見ていた風間は急に口角をあげた。
「…雪村……千鶴……」
千鶴が慌てて校舎に入っていく様子。時計を見るが別に遅刻しそうな時間でもなんでもない。風間は彼女を知っている。彼女も鬼の純血。いわば同族とも言えよう。まだ一度も話したことはないが、風間の『記憶』は知っていた。




私は今日は早く来た。早目に来れば風紀委員は立ってないし、そもそも学年が違うから皆にも会わなくて済む。
休み時間は教室にはいないようにするつもりだ。図書室や理科室、コンピューター室とかもいいかもしれない。




時は流れて放課後。計画通りの行動で私は誰にも会うことなく過ごせた。授業で会ったが授業中に私用を済ませる様な人じゃない。だから私は安心出来た。
放課後はずっと自習室の端にいた。ここは外から覗いた位じゃ見えないし、中で騒ぐわけにもいかないから好都合。だが高校には完全下校時間が定まっている。6時には学校を出る必要があった。
自習室なのでとりあえず自習するが、頭に入って来ないし、周りは3年生ばかりで正直居心地が悪い。私は堪らず自習室を出た。
とぼとぼと廊下を歩く。これから何処へ行こうかを考えていた時だった。
「きゃっ!!」
私は誰かとぶつかった。衝撃に我を取り戻す。そして慌てて頭を深々と下げる。
「す…すみません!!私よそ見していて!!」
「雪村千鶴……?」
私はその声に身体をビクッとさせた。この声の主に関わってもろくなことにならない。私の本能が記憶が告げていた。
「…風間さん……」
「……なんだその嫌そうな顔は………まぁいい…新選組の奴らは今どうしている?」
――…いきなりなんなんですか…?
私は風間さんがそう尋ねてきたことに対して驚かなかった。なんか逆に記憶がないほうが驚く気がする。
私が答えないでいると風間さんは意味ありげな笑みを浮かべた。
「最近頻出している羅刹どもを殺して回ってるのは新選組の奴らだろう?こっちの手間が省けて感謝しているんだ。」
「……殺すなんて表現やめて下さい!」
私が睨みつけても風間さんの表情は変わらない。むしろ面倒臭そうな感じ。その表情から『感謝』なんて死んでも結び付かない。
「皆は殺してなんていません!!太刀は持ってるみたいですけど……」
「はぁ?お前知らないのか?」
風間さんの表情が初めて変わった。目を丸くして私をまじまじと見つめる。
「……何をですか?」
「……どうやら本当に知らないみたいだな……南雲から羅刹の滅ぼし方は教わっただろう?」
今度は私が驚いた。風間さんの口から薫の名前が出るなんて。
「…なんだ…その顔は…あぁ何故南雲から聞いたのを知っているかってことか?それならその答えは極めて単純明快。その情報ソースは俺だからな。」
「えっ?!風間さんが?!」
「情報を交換したんだ。南雲と。お前はどうせそっちも無償で教わっただろう?」
「いえ……知らないです…」
風間さんは私の台詞に訝しげにした。これは内容も聞いてもいいのだろうか…
聞いたら聞いたで薫以上の条件を突き付けられそう。
「…俺も嫌われたものだな……そんな顔するな…」
「……でも……その……嫌い…ではないんですケド……」
風間さんは私がしどろもどろになっている様子を見ると大きな溜め息をついた。
「……教えてやる……」
「はい?」
「教えてやると言ったんだ。二度は言わん。……見返りは……そうだな……この情報を調べろ。それでいい……」
「……本当ですか?……見返りに妻になれとかないですか?」
「時代が時代だからな…やむを得ん……」
風間さんはそう言って口端を上げた。
教えてくれるのは嬉しいんだけど、一体何を調べろと言うのだろう。不安が胸に込み上げてくる。
なんだろうこの嫌な緊張感。
「……ショックを受けるな…綱道の死を知っているか?」
――え?
私は突如見知る人の名を聞き言葉が詰まった。父様もこの時代に…?!
「……直接の接点はないからか…あまりショックは受けてないな…好都合だ。結論から言おう。この最悪な状態は綱道の死から始まっている。」
「え?じゃあ……父様が……?」
「…それはわからない…だから調べろと言っている…俺が調べた範囲の事を話してやると…綱道は大変優秀な医療研究者だったらしい……だがある時点から忽然と情報がない。」
父様は医者だった。だから医療研究者という職業はしっくりくる。
「……研究内容は?」
「ガンとその治療法。を10年前まではしていた。そこから綱道は表舞台に出ていない。」
「父様は羅刹の生みの親です……だからやっぱり……」
「……十分考えられる…っ雪村千鶴……来い…」
話しの途中で急に風間さんの表情が変わった。何がなんだかさっぱりわからないまま私は風間さんの後ろに隠される。
がすぐに溜め息と共に私を庇う様な手を緩めた。
「……沖田……何の用だ?」
「………さっすがだなぁ…鬼の勘?」
陰から出てきたのはにこやかな沖田さんだった。その表情とは裏腹に空気は張り詰めて痛い。
しかし、私は沖田さんのある変化に気が付いた。私にも気が付く事に風間さんが気が付かないはずがない。
「……まがいものめ……」
羅刹の瞳を持つ沖田さんが目の前にいる。だがその色は安定していない感じがする。たぶん普通の人間にはわからないくらい。
「……なんで……?!」
私はやっと言えた言葉。
どうして?
なんで?
どうして沖田さんが羅刹化してるの?
「……風間さん……彼と二人で話しをさせて下さい…」
「…本気で言っているのか?……殺されてもいいと言っている様なもんだぞ…」
「……本気です…」
私は静かに落ち着いた声で答えた。殺されたい訳じゃない。ただ…沖田さんと話がしたい。
風間さんはだいぶ渋っていた様だが、やがて勝手にしろと言い放って何処かへ行ってしまった。
風間さんはきっと心配してくれたんだと思う。けれど私は今は逃げられない。
私は沖田さんと一緒に学校を出ることにした。





二人共黙って歩く。何から話をすればいいのかわからなかった。そんな中口火を切ったのは沖田さん。
「…僕だけじゃないよ?きっと土方さんも平助くんも皆もう思い出してる……自分の立場も…羅刹の脅威も……」
身体がビクッとなる。それと同時に無力な自分への苛立ちが沸々と沸き上がる。
私が俯いていると急に沖田さんは足を止めた。私は驚いて沖田さんを振り返る。沖田さんは苦笑していた。なんだか切なそうに。
「……千鶴ちゃん……ごめんね……」
「……沖田……さん…?」
「……君は一生懸命僕らを遠ざけ様としてくれたのに……自分で死ぬ運命選んでたなんてね…ほんと呆れて笑える……ごめんね……」
沖田さんの言葉に涙が溢れ様としていた。だがそれを私はぐっと耐える。耐えて耐えて耐える。唇に血が滲むくらい。
「死ぬ運命なんて止めて下さい!!沖田さんは生きる運命です!!」
私はドンッと沖田さんの胸を両手で拳を作り叩いた。
死なせない…
死なせたくない…
「…千鶴ちゃん………ありがとう………でもね…」
沖田さんがそう呟いた刹那――
何かを切り裂く音と水分…ううん…もう分かってる…血の飛び散る音が聞こえる。
目の前に転がる羅刹の亡きがら。そして返り血に濡れた私達。
「…僕はこうゆう世界でしか生きられないみたい……」
「…………………………」
話している暇を与えてくれない程の大量の羅刹が次々に沖田さんを襲ってくる。
斬っては現れ、消えては現れる羅刹。だが沖田さんは全然堪えている様子など見えない。私を庇って、それでも尚余裕がある。




そして襲い来る羅刹がいなくなった頃は既に日も落ちていた。
「……僕は死に値する事をしてきてる……代償なんだよ……僕の……」
私は台詞を聞きながら、沖田さんの背中を見る。
「……虚しいね……生まれる前から未来が決まってたなんて……逃れることは許されないことはあるんだね……ほんと虚しい……ねぇ千鶴ちゃん……僕を守ってくれてありがとう………ムダにしちゃってごめんね……それから…これからは千鶴ちゃんには近付かない様にするから安心っっっ?!」
突然沖田さんの身体が崩れ落ちる。
「沖田さん!」
「来るな!!」
駆け寄ろうとした私を沖田さんは一言で制止する。
沖田さんは苦しそうに肩で息をしている。
「…うん……はぁ…いい…子だね……来ちゃダメだよ…」
この尋常じゃない苦しみはきっと私の悪い予感を的中させてくれると思う。

――羅刹――

私はそれが分かってしまったから…
だからこそ沖田さんに近付き隣に身体を下ろした。
「っなんで…来ちゃダメって……言ったよね?僕………はぁ……ほら…早く逃げなよ…逃げてよ!!」
「嫌です!!」
私はそう言うや否や沖田さんが落とした太刀で腕に傷を入れる。すると時を待たず血がじわっと溢れ出す。そして私はその手を沖田さんに差し出す。
「どうぞ……」
「千鶴ちゃんって……結構馬鹿だよね……嫌だよ…僕は要らない!!」
「馬鹿でもなんでもいいです!!……私は沖田さんに苦しんで欲しくないだけなんですから……だから!私のためなんです!!……だから…飲んで下さい…」
私の声に沖田さんは驚いていた。そして震える手で私の腕をそっと取る。
「……千鶴ちゃんってズルイよね……ごめん……」
沖田さんの舌が私の傷を行き交う。生暖かい感触に身体が反応する。
そして溢れ出した涙。それはポタポタと垂れ、腕を伝った。そしてそれは血と混じる。沖田さんは気付いているのに気が付かないふりをしてくれているのか、それとも何か別の理由があるのか、何も言わなかった。
どうして皆ごこんな目に合わなければいけないのだろう。神は転生して尚彼らに苦しめと言うのか。



それから沖田さんは何事も無かったこの様に立ち上がり、私を家まで送ってくれた。
その間は無音だった気がする。私は涙に枕を濡らした。





夜。街にある研究機関。現在は使われていない研究機関。
そこに薫の姿があった。
「…誰もいないか……まぁ当然…か…」
音は薫の歩く音以外にも沢山あった。
ザクッと薫は次々と襲い来る羅刹を捩じ伏せる。
「…生きてる普通の人間はいないの?」
薫は闇に紛れ一人研究機関の奥へ奥へと進んで行く。
「…なんでこんなに羅刹が……あーもう!!ウザい!!」
薫がどんなに太刀を奮っても羅刹は蟻のようにうじゃうじゃと湧いて出る。
時代錯誤な服装がこう何十人といると自分の格好の方が時代錯誤だと思ってしまう程だ。
薫はどんどん奥に進む。そしてあるドアに行き着いたところで大量の羅刹に出くわす。
「っち…人件費の無駄遣いだよ!」
この量は流石の薫でも無理な量。ここは撤退するしか選択肢は無かった。
不思議な事に撤退する間に襲って来る羅刹は行きの10分の1にも満たなかった。
外に出た薫は冷たい空気の中空を仰ぎ見た。
「…満月まであと3日くらいか?明るいな……」
薫の呟きは月に薄れた星の様に小さかった。






NEXT あとがき
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ