薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)G
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次の日、学校へ行くと、沖田さんが言った通り皆が記憶を取り戻していたことが分かった。それと風間さんが言っていた通り羅刹と戦っていたことも知った。
おそらくその戦いが記憶の引き金になってしまったのだろう。
本当は泣きたい位悔しくて仕方ないのだが、もう済んでしまったことにいつまでも胸を痛めている訳にはいかない。私に出来ることを何かしなくちゃ。
と思ってはいても出来る事が何かわからない。ただ時間だけが過ぎていく。
そんなうちにあっという間に昼休みになってしまった。
「千鶴!ちょっと来い!」
私の教室を尋ねてきたのは薫だった。何やら苛立っている様子。私は逆らわず薫について行った。




薫に連れてこられたのはコンピューター室。ここは昼休みと放課後は解放されており誰でも自由に使える。とは言え今は昼休みが始まったばかりで誰もいないのだが。
「…えっと…」
薫は入るや否や1番奥の席に座って何かを調べ始めた。私はとりあえずその様子を大人しく見ていた。
「はい。これ。どうせ何も調べてなさそうだから…」
そう言って薫は椅子を引いた。代わって私がパソコン画面を覗く。
「!!…父様…」
「そっ…調べてないだろう?」
「……なんでこんな協力みたいな真似……」
薫は私の事が嫌いだ。更に沖田さんの事も嫌いなはず。その薫が私達に力を貸すようなことがあるはずがない。
何か見返りを求められると思ったが、薫の解答は意外な答えだった。
「協力みたいって……協力してあげてるんだよ!『みたい』じゃなくて!」
「なんで?!」
「失礼な妹だな……可愛い妹を助けない兄が何処にいるんだい?」
私はじっと薫を見た。薫の言う『可愛い妹』だなんて嘘臭くて仕方ない。失礼かもしれないが、嘘っぽい。私がしばらくじっと見ているのに薫は苦笑した。そして意味ありげに目線を逸らす。
「………毎日毎日羅刹相手して…正直疲れてんだよ…さっさと元凶を始末して欲しい……俺が一人でって思ったんだけど…羅刹が余りに多過ぎて……」
――え?ちょっと今の台詞の意味って…
「待って待って待って待って!!!!状況が呑めない!!えっ?元凶って??羅刹が多過ぎてって?!薫は元凶がとか敵の居所分かってるの?!」
私は疑問を一気にぶつけた。そして目の前に現れたのは不機嫌全開の薫。明らかに怒ってる。だが薫は怒らず目を伏せた。
「……呆れた…ほんとに何も調べてなかったんだ……」
「……教えて……くれる?」
「やだね。」
「教えてよ!!」
「馬鹿な妹には教えたくない。」
「教えて!!」
私は薫の手首を掴んで真剣な眼差しで薫の目を見る。すると何故か薫は吹き出した。そして腹立たしい事に目の前で大爆笑している。
笑いが治まりかけたと思ったら今度はニヤッと口端を上げた。
「……いいよっ教えてあげる!」
「ありがとう!」
「ただし……」
やっぱり条件付きか…せっかくお礼を言ったのに取り消したい気分。それよりもどんな条件を突き付けられるかという恐怖の方が大きいかもしれない。
「…千鶴……キスしてよ…?」
「え?!」
「……小さい頃みたいにさ…頬にっ…」
私は薫の台詞を遮って、椅子に座る薫の肩を掴み薫の左頬にキスを落とした。一瞬だけ触れた私達。
顔を上げた私を薫は目を丸くして見ていた。口も開いていて、明らかに驚いている。私が素直に従ったのはそんなに意外なのだろうか。
「何やって…」
「何やってって…薫がキスすれば教えてくれるって言ったんじゃない!!」
「…まぁ…そうなんだけど……やっぱり千鶴馬鹿だね…誰かに見られたらどうするの?」
私は薫の言葉にハッとなって周りをキョロキョロと見渡した。そして安心の息を吐く。
「……誰もいなかったみたいだね!良かった!」
笑顔の私に薫は俯いたまま。そっちからしろって言ってきたのにこの落ち込み、意味が分からない。
「………体裁悪いだろう…?」
「ん?何?」
薫は何かそっと呟いた。その台詞は私には聞こえなかったけれど。



それから薫は色々な事を教えてくれた。時々罵られながらだったが、薫が私に嘘を付かずに教えてくれた事はとても嬉しかった。
内容は決して嬉しいものではなかったけれど。
薫が教えてくれたこと…
まずこの出来事の元凶は時期から父様の可能性が高いこと。
それから父様は既に廃墟となったこの街の研究施設にいる可能性が高いこと。
そして自分と風間さんが何度も調べに行っていたこと。
そのどれもが私には痛かった。何も出来ない私がここにいる。
「…でも肝心の目的がさっぱり分からないんだよね!あのおっさん何企んでるんだか……」
「…おっさんって……」
「なんだよ?お前にとっても今はただのハゲオヤジだろう?」
「……薫、言葉遣い悪いね…いつかの女装の時の口調は良かったのに……」
「…………こっちが地だ!それに言葉遣いが悪くても高1なんだから問題ないね。」
薫はそう言ってニッと笑った。そんな表情で言われると確かに男子高校生なら普通かと納得してしまう。きっと薫の言う通り普通なんだよね。ただの高校生だとしたら。
でもね薫…薫は間違ってる。父様は今だって特別な人なんだよ。私を育ててくれた大切な人。
「…何?そんな辛気臭い顔しないでよ。」
「ごめん…」
「辛気臭い辛気臭い辛気臭い!!もう…お前は笑ってろよ……馬鹿は笑ってるしかないだろう?」
薫の言葉はいちいち腹が立つが、それでも薫の言い分は半分くらいは正しいから。私が辛気臭かったら皆を不安にさせてしまう。
だから私は薫の言う通りニッコリ笑った。すると何故か薫は苦笑いで答えてくれた。
そしてそのまま私を残してコンピューター室を出て行った。薫がこの時何を思っていたか知る術など私には無い……



放課後になり、私は薫から聞いた事を皆に話した。予想はしていたが皆この世の終わりの様に暗かった。
だからこそ私は出来る限りの笑顔を努めた。取り方によっては『お前は気楽でいいよな』みたいに取られてしまうかもしれないが、私が落ち込んでいても泣いても状況は変わらない。もし私が落ち込んで皆の羅刹の血が無くなるならとことん落ち込んでやる。もし私が泣き叫んでこの出来事が終わるなら涙が涸れ果てるまで泣き叫んでやる。
でもそんなことは絶対に有り得ないから。だから私は笑うの。
そして皆に言わなければいけないこと。
「……それから絶対に戦わないで下さい!!」
私の言葉に皆が驚いたのは言うまでもない。
「戦うなって…千鶴、本気で言ってんのか?」
平助くんが俯いていた顔を上げて私を見た。
「本気。私が調べて、けりを付ける。だから戦ったらダメ。血を流すなんて絶対にダメ。」
私は冗談など一言も言っていない。全部本気。
大丈夫。
出来る。
だって…
「……私は生まれた瞬間から人間じゃないから平気…」
私は心臓か脳をやられない限り死なない。痛くても絶対に死なない。皆よりロウリスクだから。
私がそう言っても誰も賛成しない。それも予測済み。
だから酷でも言わなきゃいけない。
「だって……」
言わないときっと誰も賛成してくれない。例え皆を傷付ける事になったとしてもこの言葉は皆を賛成へ導くはず。言わなきゃ。
「いいんじゃない?」
急に響いた口ごもる私を助けてくれる声。
「沖田さん!」
「総司!!」
その声と共に土方さんと平助くんが立ち上がった。
「だってよく考えてよ土方さん。僕ら戦う度に寿命縮むんだよ?でも千鶴ちゃんは違うじゃん?」
沖田さんは私の隣に立って、立ち上がった土方さんと平助くんを宥める様に説明した。
「何より彼女がやるって言ってるんだから彼女の意見を尊重してあげるべきだよ。」
「………確かにそうかもな…」
「左之さん!!」
今まで一言も発しなかった原田さんが落ち着いた声でそう言った。それにつられてか斎藤さんも頷いてくれた。
「新ぱっつあん!なんとか言ってやってよ!!」
平助くんは歩が悪いと判断したのか永倉さんに意見を求めた。しかし永倉さんの答えは平助くんを助けるものにはならなかった。
「確かに悪くねぇ案だな…」
「でしょでしょ?」
「なんだよ新ぱっつあんまで!!土方さん!どうしよう!!」
平助くんは自分と一緒に立ち上がった土方さんの袖を掴んだ。だが土方さんは何も言わない。
「総司……」
「はい?なんですか?土方さん。」
沖田さんは相変わらず思考が読めない笑みを絶やさないでいる。じっと二人が睨み合っているのが分かる。
そしてその睨み合いの勝者は沖田さんだった。
「…分かった…俺も千鶴の考えにのってやる…」
「そう来なくっちゃ!」
「えぇ?!なんで?!土方さん?!」
土方さんの溜め息が辺りを包み込んだ。これで納得していないのは平助くんだけ。どうやっても勝ち目などない。それが分かった平助くんは悔しそうに許可してくれた。
平助くんの気持ちは嬉しいけれど私は皆の役に立ちたいから…ごめんね…そしてありがとう。
賛成してもらい私は今日の夜、情報の研究施設に行くことを告げて帰ることにした。





快晴の風が沖田の髪を揺らす。場所は3階、2年5組教室。沖田は誰もいない教室の誰もいないベランダで外を見ていた。
「総司!」
「……土方さんと一くん……何の用?」
二人もベランダに出て沖田の隣に立つ。
「……賛成したこと、後悔してませんよ?」
「…後悔するような事にならなきゃいいんだけどな…」
土方はそう呟いた。斎藤は何も言わないところを見ると後悔しているんだと沖田は思った。
「…後悔なんかしませんよ……絶対に…」
「千鶴が殺されたとしてもか?」
「…一くん…千鶴ちゃんは私は死にませんって言ったじゃん…」
「そんなことは一言も言っていない。」
斎藤は厳しく沖田に告げた。対する沖田はキョトンとしたかと思うと笑った。
「そうだっけ?……そうだったかもね……」
「総司!」
「斎藤……」
土方は怒鳴る斎藤と飄々とした態度の沖田の間に入り、首を横に振った。
「しかし!副長!!」
「斎藤!」
土方は再度斎藤を怒鳴り付けた。斎藤は常に土方のやることは正しいと信じているが、沖田のことは信じられない。だからこそ自分の撒いた種なのに平然としている沖田に虫酸が走った。
「…風が気持ちいい…」
「「…………………………」」
吹いた風は3人の髪を仰ぐ。グランドから部活の声が聞こえる。
「……大丈夫……後悔なんてしませんよ……」
沖田はそう言って目を閉じた。









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