薄桜鬼SSL 沖田さんルート

□運命の転生(りんね)H
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夜中。
ただでさえ静かな街は冷えきっていた。私は一人研究施設に向かう。誰も傍にはいない。心細くないと言ったら嘘になる。本当は誰か傍にいて欲しい。でも私が決めたことだから。
私は拳をギュッと握りしめた。
「……よしっ!!」
月明かりで私の進むべき道は明るく、私の足はぐいぐい前に進んだ。



結局、研究施設の入口までは驚く程妨害が無かった。でも薫の話によると中は羅刹でいっぱいなはず。私は太刀を抜いて構えて進む。
中は真っ暗だったので私はゆっくり一歩一歩確実に進んで行った。
だが私は拍子抜けしてしまう。
「?…全然羅刹なんていなくない…?」
なんで?私がまた薫に騙された?
ううん…違う…
薫は絶対に嘘をついてない…
「帰ろう…」
私は悲しくなって後悔した。
……皆に計画を話した事を……
平助くん辺りが私の前に羅刹を倒したんではないかと言う予感が嫌でもする。平助くんは反対していたし、濃厚だ。でもそれじゃ全然意味がない。逆に危険だ。
そう思って、私が180度身体の向きを変えた時だった。
「帰るのかい?千鶴…?」
この声で私の進みかけた足が止まる。私が今1番聞きたく無かった声。
私は一度目を瞑り、一気に振り返り太刀を構える。
「おやおや…」
「父様…」
どうしてと言う悲しみとやっぱりと言う諦めが交差する。だがそれらは全て驚愕へと変化した。
私の周りには360度全てに羅刹がぎっちりと円を作っていたからだ。
だが襲い掛かっては来なかった。
「千鶴…」
父様は重々しい口調で私の名を呼ぶ。優しい声で130年前と変わらぬ声で。
「……やっぱり今の羅刹は…父様が原因なんですか?」
「……あぁそうだよ…」
父様は微笑んでいる。こんなに優しい笑みなのに怖い。
「…っ…どうして!!」
本当は『否』と言って欲しかった。最後の最後まで違うって信じてた。信じたかった。でもそれも叶わない。
「…どうして…か…」
父様は悲しそうにした。そして表情を変えず私に話す。
「…千鶴…私は死にたく無かったのだよ……だが例え鬼の血を持っていようと寿命はくる……だから私は考えた。そして思い付いた。死んでからは羅刹として生きればいいのだと!そしてこの街を舞台に実験を繰り返した!!そして私の長年の研究は実ったのだよ!!」
父様がそう言うと私を囲んでいた羅刹達が離れて行った。数人の羅刹以外…
「!!」
私は驚愕で言葉を失った。
目の前にいたのは前に私と戦い自殺した薄桜学園の生徒だった。彼等に間違いない。
確か薫が言っていた1番ややこしいパターン。
「見ろ…ちゃんと彼等は生き返った…周りにいる新選組の霊ではなくてね!!私もそう!蘇ったのだよ!!」
「父様は間違っています!!」
「私は間違ってなどいない!!私の研究は素晴らしいのだよ!!」
父様はそう言って高らかに笑った。周りの羅刹が再びじりじり近付いてくる。
「…さて…千鶴…お前が生き延びる方法を提案してあげよう……羅刹になりなさい…私の様に永遠の命が得られる……」
父様はゆっくり私に近付いてくる。私に手を差し延べながら。私は後ずさりしたくても羅刹に囲まれているため下手に動けない。父様の手も拒めない。
どうしよう…
考えている時間なんてない。もう父様はそこまで迫っている。
考えも出ない内に父様との距離が僅かとなり、伸ばした手が目の前に来る。
「…さぁ…千鶴……」
私は生唾をゴクンと飲み込んだ。冷や汗がじわりと額に滲む。
「………次の満月には皆が仲間になる……」
「……どういう意味ですか…?」
「この研究施設から特殊な電波を発生させる。電波は満月の光によって、より強固な電波となり全ての水を若変水へと変える…どうだ?素晴らしいだろう?」
「…水を若変水に……」
そんなことされたらもう全ての終わりになってしまう。せっかく重大なことを聞き出したのに生きて帰らなければ意味がない。
……………………………………
沈黙がどれ程続いたのだろう。今となってはわからない。私の答えは一つしかない。
「お断りします。」
凛と告げた。私は羅刹にはならない。
「……そうか……残念だよ…」
父様の声が静寂に変わった途端、羅刹の殺気が一層強くなった。でも私は死ぬ気もない。
私は鬼。人間ではない。心臓さえ気をつければそれ以外は構わない。
私は太刀を構えて戦いへ望む覚悟を決めた。
刹那――
羅刹の群れが私を襲った。
だが私は一体一体確実に倒す。私の身体からは赤い血が滴り落ちているのが見なくても分かった。
腕も足も腹部にも切り込みが入る。あまりに痛すぎて痛みがわからない。
だがその痛みは一瞬。傷口もすぐに回復した。
流石に腹部は止めて欲しいなとは思っても叫ぶ余裕もない。専ら考える余裕もあまりないのだが。
羅刹が多過ぎて足がなかなか進まない。
体力もそろそろ限界が見えてくる。
「っ痛!」
だが元新選組だけあってちょっとでも気を抜くとすぐに切り付けられる。
「……はぁ…はぁ…」
体力が……持たない…
一瞬途切れる意識。
やっぱり無謀だったのかなぁ…
その一瞬の隙をついて羅刹が私の背後で太刀を振り上げた。
「っ!!」
これは防げない。私は死を覚悟した。
「千鶴っ!!」
声と同時に私は誰かに引っ張られのその誰か胸に収まった。無音の世界が広がる。
しばらくしてびちゃびちゃと床に落ちる血の音が聞こえる。これは私のじゃない。だって身体のどこも痛くないし、冷たい太刀の感触もない。
「……大丈夫?」
優しく声をかけられた。私は顔を上げてその人を確認する。
「……沖田……さん?」
私を抱いているのは紛れも無く沖田さんだった。そして沖田さんの太刀は血に濡れて黒光りしている。
「ゴメン…余りに羅刹が多過ぎて君のとこに来るまで時間がかかった…体力少しは残ってる?出口までは走れそう?」
「はい!大丈夫です!」
沖田さんは私と話している間も羅刹を切り刻む。
沖田さんは私の耳元で「逃げるよ」と囁くと私の顔を見て苦笑した。
「…それと……もう一つゴメン……力…使わせて?」
「え…」
ダメだと私が言う前に沖田さんは私の手を握り、出口に向かって走り出した。
もの凄いスピードに私は必死に連れていかれるだけ。たまに見える沖田さんの目は血色に光っていた。
間違いなく羅刹の力を使っているのだと分かった。傷を負ってもみるみる回復する。身体能力も普段の沖田さんの何倍もの力を発揮している。
私はそれを見ているだけだった。
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