思イ付キ短編小説

□あまおと
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 昇降口で靴を履き替え外に出ると、目の前に見えるグラウンドは大きな水溜まりでいっぱいになっていた。この様子では、たとえ明日晴れでもグラウンドは使えそうにない。
 太晴たちは傘を差すと、雨の中に入っていった。今日はそれほど酷い雨ではないが、雫の粒が大きい。傘に当たる感触が分かるほどだった。
 グラウンドを迂回して正門から出ると、そこは緩やかな坂になっている。地面に落ちた雨は重力に従って坂を滑り落ちていった。
「明日何があったっけ?」
「現文、数学、生物、世界史。昼からまた数学で古典。あと英語の課外もあったと思う」
「うへぇ、辛すぎんだろそれ……嫌がらせか?」
「僕はそうでもないかな。数学二つはきついけど」
「俺、生物以外どうにもならねぇんだけど……」
 巳雷と嵐志が明日の日課について憂鬱になっている最中も、太晴は沈黙を保っていた。しかし、これは特に口を挟む事がなかったからである。太晴は明日の日課に特に苦手なものはない。逆を言えば、特に得意な教科もなのであるが。
 学校の坂を下りたところで、別れ道になる。巳雷と嵐志は同じ方向だが、太晴だけは別方向だ。
「あ、じゃあ太晴、また明日なー」
 そう言って、二人は太晴に手を振る。
「うん、じゃあな」
 太晴も手を振り返すと、バッグを掛け直して一人家に向かった。
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