思イ付キ短編小説

□あまおと
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 通学路は人通りが少なく、雨が降っている所為か余計に物寂しい雰囲気が漂っていた。目の前にあるのは電柱とかガードレールとか、そんなものだけ。たまに不法投棄のように放置されている自転車なんかもあったりするが、それ以外は何の変哲もない普通の道路だ。毎日同じ、自転車があったりなかったりするが、いつもと変わらない通学路だ。

 否、いつもと変わらないはずだった。

 ガードレールのすぐ脇に佇む一人の少女。セーラー服と赤いスカーフからして、自分と同じ学校の生徒だという事は分かった。長い黒髪を腰まで伸ばし、黒いソックス、ローファーをはいている。パッと見普通の女子高生だが、今日の天気から考えてみると、彼女は『異様』だった。
 傘を差していないのである。これだけ雨が降る中、普通なら傘を差しているが、傘がないにしても雨宿りくらいするはずだろう。しかし、彼女は激しい雨の中、その雫に打たれ続けているのだった。
 おかしいとは思ったが、ここで雨に打たれ続ける女子を通り過ぎるのは男として、人としてどうかと自分に問いかける太晴である。そして、答えはすぐに出た。
「あの、何してるの?」
 怪しまれないように――向こうの方こそ怪しい事この上ないのだが――声を掛けると、彼女はゆっくりと顔を上げた。大きな黒い瞳に、長い睫が女の子らしくて可愛らしい。しかし、それは一先ず置いておくとする。
 彼女はというと、声を掛けられた事に驚いたのか、キョトンとしてこちらを見つめていた。
「え、私?」
 他にはガードレールと電柱しかいないのだから、そう返されて驚いたのは太晴だった。
「他に誰かいるか?」
「……いないわね」
 彼女も納得したようで、何かしら? とこちらに尋ねてくる。
「何って、それはこっちのセリフだ。何で雨の日に傘も差さずガードレールの脇に立ってんだよ。しかもここ人通り少ないし、得する事なんか何もないだろ」
 そう言いつつ、とりあえずは彼女を傘に入れてやった。傘を差す男と雨に濡れる女が向かい合っている……確実に非難を浴びる立ち位置にいるのは自分だ。バッグが濡れるとか言ってられない、相手は全身ずぶ濡れだろう。
 当の彼女はそんな事を気にしている様子はないのだが。
「何と言われても、特に何もないわ。ただ、ここにいるだけ」
「待ち合わせとか?」
「いいえ、特に何もないんだもの」
 彼女は好き好んで雨に打たれているという事だろうか? 太晴はだんだんと訳が分からなくなってきた。加えて雨で不機嫌な為、少しイライラしつつある。しかし、ここでさようならと言って再び雨の中に女子一人を置いていくには忍びない。
「アレだったら、家まで送っていこうか? どうせ誰かが迎えに来る訳でもないんだろ」
 そう言うと、彼女は少し考える素振りを見せる。ここに考える要素はないと思うのだが。
「それじゃあお言葉に甘えて、傘を半分お貸し願いましょうかしら?」
 しばらく悩んだ末、彼女はニコリと笑みを見せて向き直った。太晴がどうぞ、と答えると、失礼しまーすと言って彼の隣に並んで傘に入った。
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