思イ付キ短編小説

□あまおと
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 彼女の家は太晴の住む町の隣町だという。学校からもあまり遠くないし、ちょうど学校の行き帰りに通る場所だ。
「そういや、あんた名前は?」
「水堂美雨(みずたかみう)よ。君は?」
「火宮太晴」
「太晴か。小学生の頃、同じ名前の男子がクラスにいたわ」
「へぇ、まあいるだろうな」
 それからもお互いに質問したり何だりとして、他愛のない話は絶えなかった。本当にとりとめもない話で、彼女について分かった事といえば同じ学校の二年生だという事くらいだ。
 美雨が住む町が近くなると、人通りは増えコンビニやらガソリンスタンドなんかも目に入ってくる。こうしてみると、やはりあの人通りの少ない場所に女子が一人でいるのはどうなのだろうかと思った。
「あ、ここでいいわ。ちょっと買い物したいの」
 美雨はコンビニの前でそう言って、傘から抜け出した。
「いいのかよ、家まで送っていくけど」
「もうすぐ近くだし、大丈夫よ。傘もここで買うから。じゃあね!」
 彼女は元気よく手を振ると、丁度ドアを開けた男性と一緒にコンビニに入っていった。
 太晴は彼女を見送ると、自分もさっさと家に帰ろうと足を急がせた。美雨と話をしていた時は話に夢中であまり気にも留めていなかったが、やはり雨は好きではない。どうやら自分は、この体にまとわりつくような湿気や、衣服に吸い付く水滴を好きにはなれないようだ。靴はもうずぶ濡れだし、バッグも半分ほど雨を浴びている。早く帰って乾かさなければならないようだ。
 しかし、彼女は一体何者だったのだろう? どこか浮世離れしたような不思議な雰囲気を持っていた。しかし、分からない。そこで太晴は思考を停止させ、歩く事に専念し始めたのだった。
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