思イ付キ短編小説

□あまおと
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 その日からの数日は晴れが続いた。やっと顔を見せた太陽は、今まで出せなかったエネルギーを一気に放出するかのように地上を照らす。お陰で、体育の時間はみんな汗だくになってサッカーをするはめになったのだった。
 しかし、そんな中で一番活き活きとしていたのは太晴だった。雨の日は不機嫌極まりないのだが、晴れとなれば話は別である。テンションは高いし、人当たりもノリもいい。ここまで別人のように性格が変わると、クラスメイトも動揺を隠しきれないようだ。
「火宮くんって、変わってるよね」
「あれは二重人格なのかな、それともただの変人なのかな」
「ゲームでいるよね、天気によって特性が変わったりするやつ」
 そんな事を言われている事など露知らず、太晴は昼休みに巳雷と嵐志の三人で弁当を食べていた。
「そういえばさ、この前の雨の日、変な女子を見かけたんだよ」
「変な女子?」
 太晴の言葉に、巳雷は首を傾げる。嵐志はというと、クリームパンを咥えたまま頬杖をついて眠ろうとしていた。さすがに二人ともこれを見過ごせないようで、巳雷はクリームパンを救出し、太晴は嵐志の頭を引っ叩いて眠気を弾き飛ばす。嵐志は叩かれた側頭部を摩りながら大きな欠伸を一つ零した。
「いってぇなぁ。晴れの日だからって攻撃力まで上がるのかお前は。そのうちソーラービームでも出すんじゃねぇか?」
「さすがの俺もそんな事はできねぇよ! つーか起きろよ、話してんだろうがっ!」
 これがテンションの差である。
「で、その子がどうかしたの?」
 見兼ねた巳雷が軌道修正に入ると、太晴はそうだった、と彼に向き直る。
「そいつなんだけどさ、傘も差さずに道に立ってたんだよ。放っとく訳にもいかないから途中まで送っていったんだけど、あれは一体何者だったんだろうかな、って」
 そこまで聞いた巳雷はあんぐりと口を開けていた。その横にいる嵐志も、目を見開いて太晴を見つめる。
「嘘……雨の日で不機嫌全開の太ちゃんが、道で会った見ず知らずの女の子に救いの手を差し伸べたの? 雪でも降るんじゃないの、これ!」
「バカッ、雪で済むか? 霰とか雹が降るぜ、こりゃ……」
 二人の失礼極まりない態度に少し眉間に皺を寄せる太晴だが、それも仕方がないというのは自身も分かっていた。そこまで自覚はないが、雨の日は確かにそこまで気分はよくならない。しかし、ここまで言われるとは、自分が思う以上に酷いのだろうと察した太晴であった。
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