思イ付キ短編小説

□あまおと
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「まあ俺の事は置いといてだな……その女子なんだが、二年生にいるんだ」
 太晴が言うと、
「え、紹介してくれんの?」
 嵐志がキラリと目を光らせたので、顔面に拳を叩き込んでおく。
「んな訳ねぇだろ。何か変な感じの奴だったし、ちょっと様子を見に行こうと思って」
 あれだけ雨に打たれていて、体調は大丈夫なのだろうか。ちゃんと学校に来ているのかどうか気になる。それに、あの変わった性格からして、クラスではかなり浮いてるんじゃないだろうか。
「ふうん……でもさぁ、太ちゃんって日によって、ていうか、天気によって性格変わるじゃん? 今このテンションで会いに行っても、同一人物と思ってもらえるかどうか分かんないよ?」
「え、俺そんなに変わる?」
 変わる変わる、と巳雷と嵐志は揃って頷く。
「気持ち悪いくらい変わるよ」
「ていうか、その二年生の子も太晴にだけは変な奴とか言われたくないと思うぜ」
 そんなになのか……太晴は自分がそんなに変わるとは思っていなかった。だとすれば、会いに行けるのは雨の日だけではないか。とんだ災難である。

 そして、災難は重なる。

 午前中あれほど晴れ渡っていたというのに、帰り際になって突然雨が降り始めたのだ。にわか雨というやつなのだろう、激しい雨が叩きつけるように降り落ちる。
 太晴は自分の眉間に深い皺が刻まれるのを感じた。
「太ちゃん、その顔で外歩いてたら、すれ違った不良に絡まれそうだよ」
「不良も逃げるだろ、このひでぇツラ」
 二人がコソコソ話しているのを余所に、太晴は自然と足早になって昇降口に向かう。なるほど、今のこの心情から鑑みるに、確かに自分は酷い顔をしているようだ。
 靴を履き替えて校舎を出ようとして、ピタリと足を止める。目の前は滝のような大雨だ。朝は雨が降る気配など微塵もなかったので、傘など持ってきていない。加えて最近は晴れが続いたので、折り畳み傘も備えていなかった。両親は共働きなので迎えには来れない。巳雷も嵐志も傘を持ってはいないだろう。
 結果として、太晴は雨の中走って帰る事になった。
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