思イ付キ短編小説

□紙飛行機
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 真っ直ぐ、ゆっくり、美しく。飛んでいく飛行機は、夕日に照らされて橙色に映し出されていた。

「しゅーぜーん」
「何、斬也」
 放課後の教室、二人の少年は教卓を挟んで向かい合い、何やら作業をしていた。
「できた?」
「まだ」
 寸々谷斬也(ズタズタニキリヤ)と襤褸井修善(ボロイシュウゼン)は、揃って真剣に紙飛行機を作っていた。しかも、その紙は午前の授業で返された数学の解答用紙である。
「早くしろよー。お前ホンット不器用だなー」
「そんな事言ったって、俺にはどうしようもない」
 いつまで経っても出来上がらない修善に、斬也は俺がやるから、と言って半ば引ったくるようにして解答用紙を奪い取った。この調子では、冗談抜きで朝までかかってしまう。修善とは幼なじみなので、彼の凄まじい不器用さは知っているが、年を重ねるごとにどんどん酷くなっていってるのは気の所為だろうか?
「悪い、斬也」
 いつも通り無表情な修善だが、口調から多少申し訳なさそうな雰囲気が見て取れる。それもそうだろう、解答用紙が飛行機の工程を飛ばしてスクラップになっているのだから。
「まあ、気にすんなって。……よし、こんなもんか」
 斬也の手により、解答用紙は見事に一騎の飛行機になった。多少シワが目立つが、見た目だけなら遥かにマシである。
「流石斬也」
「ま、俺だからな。頭じゃ適わ……」
「ちょっと飛ばしてみるか」
「オイ、無視すんなよ。悲しくなるだろ」
 得意気な斬也をサラッと流して、修善は紙飛行機を構えた。目標は教室後ろの掲示板。作るのに関しては言うまでもなく駄目であったが、飛ばすだけならできるだろう。
 少し口を尖らせた斬也も同じように構え、せーのっという掛け声と共に二機の紙飛行機が宙に放られた。真っ直ぐ飛び続ける斬也の紙飛行機に対し、修善のものは少し上昇したかと思うと直角に下を向き落ちていく。さながら撃墜された戦闘機だ。
「あら」
 感情のこもらない間の抜けた声を出す修善。本人もあまり期待してはいなかったようだが、飛び続ける斬也の紙飛行機は悠然と教室の真ん中を渡っていく。そして、掲示板にコツンと当たると力尽きたように床に落ちた。
「よっし、俺の勝ちっ!」
 ガッツポーズで決める斬也を尻目に、修善は机に不時着する事もなく奈落の底に落ちた紙飛行機を拾い上げて首を傾げる。
「どーしたよ、修善。俺に負けて悔しいか?」
「いや、別に。点数の分、こっちの方が重かったって考えれば納得できるから」
「……お前、さりげなく酷い事言うよな」
 親友の胸に刺さる一言に、斬也はガックリと項垂れた。斬也と修善の成績は、いつも一緒にいるとは思えないくらいかけ離れている。修善が拾い上げた紙飛行機を開き、斬也に見せた――八十二点。
「ホントの事」
「ぬ、ぬぅ……」
 小さい呻きを漏らす斬也。どうしても埋められない差を見せ付けられ、何も言い返せなくなってしまった。致命的に手先の不器用な修善より、絶望的に成績の悪い斬也の方が遥かに立場が悪い。
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