思イ付キ短編小説

□あまおと
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 降りしきる雨の音が耳障りだった。
 火宮太晴(ひのみやたいせい)はうんざりした表情で教室から窓の外を見ていた。空は一面雲に覆われており、温かい光をもたらすはずの太陽は重たい鉛色の向こう側。冷たい銀色の雨は針のように鋭く大地を突き刺していく。
 雨は嫌いだ。小さい頃からそう思っていた太晴は、自然に寄った眉の皺に気付く様子もない。ホームルーム中にも関わらず、教師の話は右から左に流れていくのみだった。
 やがて、クラスのみんながガタガタと音を立てて立ち上がった。ホームルームが終わったらしい。太晴もワンテンポ遅れて立ち上がると、室長に従って礼をし、終礼が終わる。たったそれだけの作業が終わると、太晴はまた椅子に座り、窓の外を眺め始めた。
 すると、フッと視界が暗くなる。顔を上げると、そこには親友二人の姿があった。
「太ちゃん、何してんの?」
「さっさと帰ろうぜ。マジだりぃわ」
 一人は十七という歳にも似合わず、小首を傾げるという可愛らしい仕草を取る雲居巳雷(くもいみらい)。もう一人はというと、ホームルーム中に寝ていたのか前髪が不自然に上がっており、瞳は眠たげにトロンと垂れている風谷嵐志(かぜたにあらし)だ。
「ああ、わりぃ。帰ろっか」
 太晴は窓から視線を外すと、立ち上がってスクールバッグを持ち上げる。そして、そのまま友人二人に導かれるようにして、教室から出ていった。
「最近雨が続くねぇ」
 巳雷が廊下の窓から外を眺めて呟く。
「まあそりゃ、梅雨だからなぁ」
 仕方ねぇよ、と嵐志も欠伸混じりに巳雷に相槌を打った。
 二人とも雨が降る景色を楽しんでいるようである。雨が好きなのか、単純に天気なんかさほど気にしないのか。一人後ろで眉間に皺を寄せる太晴は、二人とは明らかに違う事を思っているよう。
 すると、太晴の方をチラリと振り向いた巳雷が、コソコソと嵐志に声をかけた。
「太ちゃん、機嫌悪そうだね」
「んなもん、この時期はいつもの事だろ。ほっとけよ」
 太晴が雨の日に機嫌が悪いのは、小学校に入る前からだった。特に理由もないのだが、雨の日は一日中不機嫌そうに眉に皺を寄せ、口数も減る。そんなよく分からない性格の彼だが、小学生時代からの親友である二人は、もう慣れっこなようだった。
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