思イ付キ短編小説
□狂信クラーヂマン
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「私は神の使徒です。神の命により、人類を滅ぼしに来ました」
そう言って、金髪の彼はにこりと笑った。
* * * * *
その日はいつも通り。目が覚めて、窓の外が明るいのを確認してから布団に顔を埋める。鼻が冷たい。布団から飛び出した足先に冷気を感じ、さっと引っ込めた。まるで胎児のように布団の中で丸くなると、外に出るために熱を補給する。その行為に意味があるのかどうかは分からないが、僕はあると信じてこの熱補給を行う。
……よし、これくらいでいいだろう。心地よい毛布の感触が名残惜しいが、腹の虫的にもそろそろリビングに行く時間なので、布団から出てベッドを降りた。冷たいフローリングに裸足を付けるのは、雪がちらつき始めるこの時期には大分辛い日課である。寒いなチクショー、とこの冬が憎らしくなるのと同時に、さっさとこの冬が終わらないものかと願っていたりもする。要するに、僕は寒いのが苦手だ。
キッチンでは母がいつものように僕の朝食を作りながら、こちらに顔を向けないまま「おはよう」と声をかけた。僕も「おはよう」と返し、テーブルに置いてある新聞を手に取る。トップの記事は、現地時間で今日の未明起こったとある国での大事故の話だった。――都市で観光バス大爆発、運転手を含む乗員全員が死亡、周囲の人々も巻き込み、死者は百名近くにも上る――また何処ぞの国の自爆テロか何かだろう。迷惑な話だ。死にたいなら勝手に一人で死んでくれればいいのに。もちろん、そういう単純な話でないのは分かっているが。
母が作ったベーコンエッグはあまり好きではない。ベーコンが大きくて食べづらいし、僕はカリカリに焼いたのが好きだ。その上に卵を乗せ、さらに上からチーズをたっぷり散らし、ドロリと溶けたところで出来上がり。そのベーコンとチーズに半熟の黄身を絡めて食べるのが大好きである。
無論、その事を母に告げれば「じゃああんたが作りなさいよ」といつものように文句を言われるのが目に見えているので、言わない。勝手に作ったのは母の方だ、とも言わない。
母の作ったベーコンエッグを食べながら、新聞をめくっていくと、後ろの方のページに嫌に目を引く文字が印刷されていた。「大予言! 今日で人類滅亡!?」何て非現実的な言葉だろう。実際、今日で人類が滅亡するなら、こんなのんびりした日常が訪れる事はないはずだ。世界も世間も大騒ぎ。僕はベーコンエッグを食べるまでもなく、地下シェルター行きになっていただろう。最も、地下シェルターなんかで防げる程度の人類滅亡なら恐れるまでもないのだろうけど。
朝食を食べ終えると、服をパジャマから洋服に着替えて、僕はパソコンの画面に向かった。そして、いつものように掲示板やら動画サイトを巡る。今日から何処も冬休みに入るので、ネット内も朝から賑わっていた。掲示板では、先ほど新聞で読んだ人類滅亡などというオカルトチックなスレッドには目も暮れず、漫画やアニメ関係のスレッドをあちこち回る。僕はさっき読んだ新聞の内容なんか忘れ、ネットの世界に夢中になっていた。
ほら見ろ、今まで何度も迎えてきた、何の変哲もない毎日と同じじゃないか。