思イ付キ短編小説

□イカれカボチャのハロ-ウィン
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 木枯らしの吹く十月下旬。彼がこの町に来たのはそんな時期だった。

「ねぇねぇ、朝のニュース見た?」
「あたし新聞で見たよ。またアレでしょ……切り裂きジャック」
「そうそう、今週だけでもう五人殺されてるんだって。怖いよね〜」
「しかも、犠牲者みんなこの近くでしょ? 自分が殺されるんじゃないかって、気が気じゃないよね」
 そんな会話が朝の教室に広がっていた。この教室だけじゃない。他の教室……いや、下手したら他の学校、他の町でもこんな会話が繰り広げられているかもしれない。それほどこの事件は人々に衝撃を与え、恐怖を生み出したのだ。
 朝っぱらからグロテスクな事件をネタに盛り上がる女子たちの横で、神崎悠紀は溜め息をついた。何でこんなに爽やかな朝に、そんな血なまぐさい話しを聞かなければならないんだ……そんな事を思いながら、いつも持ち歩いている本を開く。
 と、後ろから軽く頭を叩かれた。悠紀が振り返ると、そこにあったのは眩しいほどに笑顔の少年。
「おはよっ、悠紀!」
「おはよ、彰久」
 悠紀の親友、井上彰久はハハハッと笑うと悠紀の持っている本を取る。
「あっ、ちょっと。読んでたトコ分かんなくなるじゃん」
 悠紀が腕を伸ばし取り返そうとするが、彰久はヒョイと躱し本をパタンと閉じた。
「あっ!」
「朝っぱらからこんな本なんか読んでんのかよ、つまんないねぇ〜。もっと楽しい話題があるじゃん」
 彰久はニヤニヤと笑いながら、隣で今朝のニュースの話をしている女子たちに目を向ける。彼女たちはまだ、あの凄惨な事件をさも楽しそうに話しているのだ。
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