思イ付キ短編小説
□騙された少年
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それはある晴れた春の日の、小さな出来事から始まった。
「ねえ、斬兄」
寸々谷斬也(ズタズタニ キリヤ)は妹の裂羅(サクラ)に声を掛けられ、読んでいた漫画から顔を上げた。
「ん? 何だ裂羅」
そう言いながら、脇に置いたコーラを手に取る。
「刹姫ちゃんからメールが来たんだけど……」
刹姫ちゃんとは、斬也の彼女であり幼なじみでもある殴田刹姫(オウダ サツキ)の事だ。もちろん小さい頃からの付き合いなので、三つ下の妹である裂羅も仲がいい。
「うん、それで何て?」
何やら言いづらそうな裂羅など気にせず、斬也はコーラの蓋を開けゴクゴクと飲み始めた。いつも友達とのお喋りメールを楽しそうに話してくるので、今回もそんなもんだと思ってた。
しかし、
「刹姫ちゃん……斬兄と別れたいって」
瞬間、口からコーラを吹き出した。床や壁に飛び散り、コーラは激しく泡を立てる。
「は? 嘘、え? 刹姫ちゃんが何? 別れ……え?」
完全にテンパりまくっている斬也。手があちこちを彷徨い、目がキョロキョロと泳いでいる。別れたい? 一昨日だって一緒にゲーセン行ったのに、何故?
もがぁあああっ、とよく分からない叫びを上げていると、裂羅が神妙な面持ちで、
「斬兄、今日何日?」
そう尋ねられ、少々思考を巡らせる。
「四月一日……あっ」
ようやく気付いた様子の斬也は、バッと裂羅に向き直った。
「エイプリルフール! 引っ掛かったね、斬兄」
裂羅は満面の笑みである。斬也は安堵したような表情だった。妹には決して怒らない、いわばシスコンの兄である。
「何だよ、びっくりさせんなよー。まあ、刹姫ちゃんならメールじゃなくて、拳が飛んで来そうなもんだけど」
アハハハッ、と笑っているが、実際そうなった場合は笑い事ではない。空手やら柔道やらを習っている刹姫の手にかかれば、的確に顔面を打ち抜かれ、確実に鼻から大量出血だろう。
「そっかー、エイプリルフールかー。んじゃ、ちょっと他の奴らもからかってみるかな」