あかおにごっこ。

□第一話 遊犠―ユウギ―
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 血の滴る短剣を手に、青年は笑顔だった。顔には真っ赤な血が飛び、白い頬を鮮やかに彩っている。紅色の髪の隙間から覗く紫の瞳は、狂気に満ちて輝いていた。
 古びたビルが立ち並ぶ街で、青年は目の前を必死に走る男を、軽快な足取りで追い駆ける。
 赤い首輪を着けた男は、肩や背中から血を流し右腕をダラリと垂らして、青年から逃れようと走り続けた。その顔は恐怖や苦しみが入り混じり引きつっている。
 ところが、男は途中で膝から力が抜けて転んでしまった。
 すると、青年は待ってましたと言わんばかりに口角を釣り上げる。
「ヒャハハッ、転んじゃったぁ。どうする、逃げる? それとも、くたばっちゃう?」
 短剣に付いた血をベロリと舐め取り、青年は男に歩み寄って行った。男は彼の言葉に冷や汗を流しながら、まだ動く左腕で懸命に前へ進む。
 しかし、青年が彼を逃がすハズがない。
 男に追い付くと、青年は彼の左肩を思い切り踏み潰す。骨の砕ける音、男の叫びがビルの狭間に谺する。
「ヒャハハハッ! ほらぁ、逃げないの? さっさと逃げないと、殺されちゃうよ?」
 狂ったように笑い出す青年に、男は倒れ伏したまま涙を零した。
「た、頼む……頼むから、殺さないでくれ……。そうだ、リタイアだ。俺はもう、リタイアする! だからっ……」
「無理だから」
 男の言葉を遮り、青年は短剣を彼の背中に突き立てる。鋭い悲鳴が耳をつんざき、返り血が顔を赤く染めた。
「“タグ”にリタイアはねぇんだよ。ノルダの説明、聞いてねぇの?」
 男から返事はない。
「おい、返事しろよー。一人だけ喋ってるのって寂しいじゃんかよー」
 青年は男の脇腹に蹴りを入れる。だが、男は返事どころか、動く様子すらない。
「おーい、聞こえてるー? 返事しろっつーの」
 男が事切れたとも知らず――否、分かっているが、青年は男の顔面に蹴りを入れた。しかし、当然のように反応はない。青年はそんな彼の顔面に、何度も何度も蹴りを入れ続ける。
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