Breaker ―破滅の使徒―

□第六章 双璧の交戦
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 隠れ家に戻ると、琉輝は双子から真っ先に医務室に行くように言われた。
「何で? 別にこんくらい大丈夫だろ」
 頬や腕、脚なんかに銃弾が掠めた傷があるが、大した事はない。放っておけば勝手に治るだろう。
 しかし、双子は断固としてそれを許さなかった。
「お前、もしそのまま放って羅衣に見つかってみろ。恐ろしい目に遭うぞ!」
「怪我を広げられる前に手当てしてもらっといた方がいいよ! 絶対!」
 あまりに必死な双子に、琉輝は疑問を抱く。――羅衣って、医者だよな? 何、恐ろしい目って? 怪我を広げられるって?
 包帯の巻かれた美しい顔に、悪魔のような笑みを浮かべているのを想像すると寒気がした。似合い過ぎている。
 さっさと行くぞ、と二人に両腕をガッチリ掴まれ、琉輝は半ば強制的に医務室に連行された。
 緑の扉を開けると、特有の薬の匂いが溢れる。羅衣はベッドに腰掛けている凛華と話をしているようだった。
「あら、帰ってきてたのね。早かったじゃない」
 こちらに気付いて、羅衣が声をかける。凛華もつられて振り向いた。
「琉輝、おかえり」
 凛華が笑っている。それを見て、琉輝は少し安心した。朝は突然泣きだしたりしてどうしようかと思ったが、今は落ち着いたようだ。
「凛華、俺たちは?」
「呼んでくれないの?」
 名前を呼ばれなかった双子が、寂しそうな顔をして見せる。すると、凛華は難しい顔をして首を捻った。
「愛恋と……炉愛?」
 あまり自信はなかったようだが、見事正解だ。羅衣はちゃんと覚えられたわね、と頭を撫でてやる。双子は名前を覚えてもらえたのが嬉しいのか、やったーっとハイタッチをしていた。
「もうみんな覚えたの?」
 愛恋が凛華の傍らに座りながら言った。炉愛は凛華を挟んで一緒に座る。
「うん。琉輝と、羅衣と、璃熙と、波凪と、愛恋と、炉愛と、駆馬」
 凛華は指折り数えて、みんな覚えたよ、と返した。
「そうか、偉いな凛華は」
 炉愛が頭を撫でてやると、嬉しそうに笑う。その表情に、琉輝は安心した。まだ父親の死から完全に立ち直った訳ではないだろうが、笑顔が見せられるまでには回復している。きっと羅衣や璃熙のお陰だ。
 ――彼女を傷付けたのが自分だと分かっていながら、彼女に笑顔を望む自分は何なのだろう。
 都合のいい考えだな、と思い、琉輝は自嘲気味に笑った。
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