Breaker ―破滅の使徒―

□第一章 破壊の園
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 くすんだ鉛色の空の下、青年は遠くに爆音を聞いた。
「またか……」
 崩れ掛けの建物の屋上に座る青年は、煤燼の混じる風に緑の髪を靡かせ、音のした方に目を向けた。黒々とした煙が上がり、逃げ惑う人々の悲鳴が微かに聞こえてくる。それに続いて銃声が響き、やがて静かになった。
 青年は立ち上がると、首に掛けている青いゴーグルを橙色の目にかけた。黒い上着をはためかせ、手には灰色に汚れた手袋。腰には銃を二丁と、短い剣を携えている。
 建物から飛び降りると、青年は瓦礫の山を歩いた。所々赤い染みがあり、そこで以前何があったのかを物語っている。
 この荒廃しきった世界に自分が何故生まれてきたのか、青年――琉輝には分からなかった。いつまでも終わらない内乱が続き、毎日何百という人間が死んでゆく。いつ自分が死んでしまうかも分からず、生きる為に何人もの人間を殺した――正しい事をしているとは思わない。だが、死にたくはなかった。
 琉輝は建物の下に置いていたバイクに乗ると、先ほど爆音がした方へ向かった。瓦礫や石があちこちに転がっている為運転しにくいが、移動手段はこれしかないので仕方がない。
 あの爆音と銃声は、帝国軍のものだろう。現在この天黎帝国は、帝国軍とそれに反発するいくつかの反帝国集団が争いを続けている。互いに引けをとらず、二十八年も続く戦いは今も終焉を迎える気配はない。
 しばらく進むと、爆撃のあったであろう場所に辿り着いた。周りにはすでに人の気配がなく、硝煙や火薬の臭いが辺りに充満している。ふと傍らの瓦礫の山に目を向けると、人間の手や足がそこから伸びていた。いや、瓦礫の山だけではない。そこら中に人間の死体が転がっているのだ。まるで乱雑に捨てられたゴミ袋のように。
 琉輝はバイクから降りると、足元に転がる銃や未使用の爆弾を拾い集めた。辺りに転がる死体など全く気にも止めず、使えそうな物は全て集める。時には死体が握る武器もその手からもぎ取った。琉輝は一人で戦っている為、武器や食料の調達も一人でしなければならない。仲間がいた事もあったが――
「貴様、そこで何をしている!」
 突然、男の声が辺りに響いた。琉輝はハッとして頭をあげ、同時にその場から飛び退いた。途端に銃弾の雨が彼のいた場所に降り注ぐ。もし少しでも反応が遅れていたら、今頃蜂の巣になっていただろう。
 琉輝は銃を抜くと両手に構え、敵の姿をその目に捉えた。深緑の軍服に青い腕章……帝国軍の偵察隊だ。先ほどの攻撃の生き残りがいないか確認しに来たのだろう。
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