Breaker ―破滅の使徒―

□第二章 瓦礫の花
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 今日もまた、何処かで戦いが起こった。爆音、銃声、悲鳴や狂った笑い声のようなものも聞こえてくる。ここから結構近いようだ。
 誰もいない喫茶店の中、琉輝は食べ掛けの乾パンを口に放り込むと、店にあった非常時用の水で飲み下した。窓ガラスは割れ、壁には無数の亀裂が走っているが、倒壊の危険はなさそうだ。しかも最近人が立ち去ったようで、倉庫には僅かながら非常食や水が残っていた。我ながら良い寝床を見つけたな、と琉輝は一人満足気な笑みを浮かべる。
 今までも琉輝は色々な場所を寝床にしてきた。破壊された建物の影、気味の悪い噂が流れる廃屋、血で何処もかしこもが汚れた住宅の一室……とにかく屋根があり、人目を避けられる場所なら何処でもよかった。しかし、食料もあるこの喫茶店は今まで過ごした寝床の中で一番良い場所である。
 琉輝は銃を取り出すと弾が入っている事を確認し、爆弾などの武器が入ったバッグを持ち外へ出た。空を見上げると、分厚い灰色の雲が頭上を覆っている。この空はいつだって灰色だ。澄み渡る青い空や、燦々と輝く太陽を見る事はほとんどない。
 ガラスの欠片や砕けた道路の上を歩いて行くと、建物の影に置いたバイクが目に入る。喫茶店の前に置いたのでは自分がいるという事が丸分かりなので、少し離れた所に置いてきたのだ。琉輝は青いゴーグルをかけるとバイクに乗り、いつものように戦場へ向かった。
 眼前の景色は何処まで行っても変わらず、瓦礫と死体ばかりが視界に入ってくる。銃声がだんだんと大きくなってきた。それに伴い、人間の声もよりハッキリと聞こえてくる。断末魔の悲鳴、というのに相応しい、死ぬ間際のあらんかぎりの叫びだ。
 ある程度戦地に近づいたところで、琉輝はバイクを降り静かに歩き出した。建物の影からそっと顔を覗かせ、戦況を見る。帝国軍の戦闘兵――深緑の軍服に赤い腕章――が三人、銃を構えていた。その向かい側に二人、恐らく反帝国集団だろう。
 反帝国集団の二人の声が聞こえてくる。命乞いでもしているのか、必死に懇願するような声だった。だが――兵の一人が引き金を引いた。パンッと乾いた音が響く。そして、ドサリと何かが地面に倒れる音が一つ。
 一人、死んだ。あまりにも呆気なく。
 もう一人が声にならない怒りの声を上げ、銃を乱射した。しかし、そんな感情任せの弾が当たる筈もなく……また一人、死んだ。感情も何もない、一発の弾をその身に受けて。
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