Breaker ―破滅の使徒―

□第三章 咎人の隠れ家
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 喫茶店の奥にある店員たちの休憩室。
 琉輝は眠っている凛華を床に横たえると、自分の上着をシーツ代わりにかけた。左腕を見ると、ドクドクと血が流れ出している。そういえば、撃たれたんだったっけ――思い出すと、痛みが蘇ってくる。
 何か傷口を覆うもの探しに部屋中を漁ると、運良く小さな救急箱を発見するした。開くと色々な薬や包帯、絆創膏が箱いっぱいに詰まっている。しかし、どの薬をどう使えばいいのか分からない琉輝は、一先ず消毒液を傷口にぶちまけてみた。瞬間、凄まじい激痛が左腕を駆け巡る。
「いっ……っ!」
 悲鳴を上げそうになりながら、琉輝はジタバタともがき回る。だが凛華を起こす訳にもいかず、出来る限り声を抑えて呻いた。あまりに不意の痛みで、琉輝は少し泣きそうになる。それでも何とか包帯を巻くと、深く息を吐いて床に寝転がった。
 さあ、これからどうしたものか――すやすやと眠る凛華を見つめ、琉輝はゴロリと寝返りを打った。今はここで食料と寝床を確保出来ている。しかし、食料もしばらくすれば尽きるし、いずれはここも帝国軍にばれてしまうだろう。そうなれば凛華どころか、自分の身すら危うくなってしまう。
 ――自分だけじゃ駄目だ。凛華も守ってやらないと……。
 何故自分がここまで凛華を守ろうとしているのか、琉輝自身にもよく分からなかった。きっと、父親を殺した罪悪感、そして幼くして両親を失ったという、自分と同じ境遇にある彼女を放っては置けなかったのだろう。
 その時、喫茶店のドアを開ける音が鳴った。カランコロン、と鐘の鳴る音も一緒に聞こえる。それからドアが閉まり、店内を歩いてくる足音が二つ。
「ここでしょうか?」
「ええ、間違いないでしょう。近くに彼の物と見られるバイクもありました」
 一人は落ち着きのある静かな声、もう一人はきびきびとした鋭い声だ。
 ――まさか、帝国軍か?
 全身に冷や汗が流れる。まさか、こんなに早くばれてしまうとは……。
 足音は少しずつ、確実に休憩室に近付いてきていた。琉輝は凛華を起こさないように部屋の隅へ移動させ、銃を両手に構える。音を立てないように部屋の入り口まで行くと、ドアに耳をつけて音を確認した。聞こえてくる足音が大きくなるにつれて、心臓が早鐘のように激しく打つ。
「ここですね」
 薄いドア越しに聞こえる静かな声。その声はまるで、琉輝がこの部屋にいると分かっているようである。ここまで来ると、もうじっとしている訳にはいかない。極限まで張り詰めた神経を一気に解き放ち、琉輝は派手にドアを開け両手の銃を二人の人物に向けた。
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