Breaker ―破滅の使徒―

□第五章 乱戦の火花
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 ――ここは何処だろう?
 ふと気が付けば、自分は見知らぬ場所にいた。黒い空の下でもなく、真っ白な病室の中でもない。淡い色が彩る温かな空間の中で、自分は誰かの腕に抱かれていた。
「――琉輝」
 自分を抱いている主だろうか、優しい声が聞こえる。父親のようだ。
「――琉輝」
 また自分を呼ぶ声。父親の顔を見ようとしてみるが、何故かぼやけている。何となく、金色の髪が見えた気がした。
「――琉輝」
 微かに見える口から繰り返し聞こえるのは、心地の良い響き。何だか、幸せな気分だ。これがこのまま続けばいいのに。このまま……ずっと……――

 目が覚めた。自分でも意外なほどにパッチリ目が覚めた琉輝は、ガバッと跳ねるように起き上がる。視界は水色のカーテンが大半を占めており、寝る前に見たのと何ら変わらない状況だ。
 さっき見たのは夢だったのか……まるで、昔の自分を見ているかのような、そんな夢だった。
 だが、何かがおかしかった。自分は父親の顔を覚えていない。父親に抱かれていた記憶もないし、あんな場所は今まで一度も目にした事がない。何故そんなものが、あんな夢になって現れたのだろう?
 そして何より、父親だと認識した人物――彼は璃熙に似ていた。金色の髪も、優しい声も、抱かれた腕の温もりも。
 あり得ない。そう思い、琉輝はまたベッドに横たわった。きっと、昨日の事があったから。きっと、温かくて柔らかいベッドで寝てたから。だからああいう夢を見たのだろう……そう、自分に言い聞かせた。
 混乱する頭で再び眠りに就こうとすると、カーテンが勢い良く開いた。
「琉輝、起きたかしら?」
 羅衣はそう言って、前方と左右を囲っていたカーテンを開ける。一気に空間が広がった。辺りを見回してみると、自分と羅衣以外はいない。凛華は何処に行ったんだ?
「昨日は疲れてたでしょ。だから起こさないでおいたの。もう皆起きて朝ご飯を食べてるわ。凛華も一緒にいるから、あなたも早く食堂に行きなさい」
 早口に言われ、琉輝は返事をする間もなく病室から追い出されてしまった。振り返って口を開くも、
「食べ終わったらまた戻って来なさい。怪我の具合を見るわ。あと、シーツを洗ってもらうわよ。煤とか砂埃が付いてるの。病室のベッドはいつも清潔じゃないといけないのよ」
 部屋から首を出し、捲くし立てるように言われ、バタンとドアを閉められた。有無を言わさずとは、まさにこの事である。
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