思イ付キ短編小説

□届かない愛の歌
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 小さな店にものが詰め込まれている所為か、とてつもなく狭苦しい。奥に行けば行くほど密度が高くなり、足を進めるのが困難になってきた。
「くそっ……ここホントに客呼ぶ気あんのかよ」
 踏み出す度にバキッとかボキッとか聞こえるが気にしない。両脇の棚に掴まりながら、転ばないように進んでいく。
 と、その時、右手に何かワサワサとしたものが触れた。それは細い糸の束のようなもので、指がスッと通り抜けた。
 何だ、コレ?
 キョータはその糸を掴み、その正体を確認する。桃色の糸。それが奥の方に続いていた。目で糸の元を辿っていき……息が止まった。
 少女がいた。長い桃色のツインテールで、淡い色のドレスを着ている。頭はガックリ垂れていて、目は閉じたまま。その様子はまるで――死んでいるかのようだった。
「ぎゃあああああっ!」
 キョータは思わず飛び退き、反対側にある棚に背中から突っ込んだ。棚からものが落ち、辺りに砕けた破片が飛び散る。
「おやおや、どうしたんじゃ?」
 あれだけの悲鳴と物音にも全く動じない老人は、のんきにヒョコッと顔を出した。
「どうしたじゃねぇよ! 死体! 人が死んでんじゃねぇかっ!」
 キョータはパニックになりながら、動き出す気配が一切ない少女を指差す。
 老人ははて、と首を傾げて少女に歩み寄った。
「ほっほ、少年や、これは死体ではないぞ。ロボットじゃ」
 ……は?
 ロボット? 機械? しかし、どうみても人間じゃ……
 キョータがさらなるパニックに陥っていると、老人は少女の頭を上げ、何やら左の耳の裏をいじった。すると、少女がパッと目を開いた。大きな紫の瞳が、キョータの姿を捉える。
『おはようございます。今日はいいお天気ですね』
 少女――ロボットは抑揚のない滑らかな声でそう言った。
 きっとプログラムされた言葉を喋っただけなのであろう、外は未だに大雨である。
「こいつ……何モンなんだ?」
 キョータがロボットを指差して老人に尋ねた。
「この子は歌を歌うロボットでのう、頼めばなんでも歌ってくれるという、とてもいい子じゃったんじゃ」
「じゃった、つー事は、今は違うのか?」
 キョータがロボットを見つめて首を傾げると、老人は長い髭を撫でてロボットの頭に手を置いた。
「そうじゃのう……この子は随分前に壊れてしまったようでの。捨てられていたところを儂が拾って、店に置いておるんじゃ」
 壊れているのか……てか、壊れてるものを売り物にするなよ。
 キョータはロボットをしげしげと眺めた。見た目は普通の可愛い女の子である。そこで、少し近づこうと足を踏み出した。
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