Breaker ―破滅の使徒―

□第五章 乱戦の火花
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 通路に放り出された琉輝は、仕方なく食堂へ向かった。とはいえ、こんな迷路に一人置き去りにされては、堪ったものではない。昨日炉愛たちに教えてもらった角の印を思い出すまで、しばらく彷徨うはめになった。
 ようやく辿り着いた食堂の赤い扉を開けると、そこには双子と凛華の姿があった。凛華は昨日の琉輝と同じように双子の間に挟まれ、浮かない顔でサンドイッチを頬張っている。
「ようっ、琉輝!」
「やほっ、琉輝!」
 双子が同時に琉輝に気が付いた。凛華は両隣の声で、琉輝が現れたのに気が付いたらしい。ボーッとしたまま首を琉輝に向けた。
 琉輝は何と言えばいいのかよく分からず、ああ、とかそんな適当な返事を返し、凛華の向かい側の席に着いた。食卓にはサンドイッチをドッサリ積んだ皿が置いてあり、向こうにいる凛華の顔が半分ほど隠れてしまっている。
「凛華、おはよう」
 元気のない凛華が少し心配になり、琉輝が声をかけた。しかし凛華は、おはよ、と呟くように言って、小さな口にサンドイッチを運ぶだけである。やはり、父親の事が頭から離れないのか……消えない罪悪感が、琉輝の胸をきつく絞める。
 すると、能天気な声が頭に響いた。
「なーにしてんだよ、琉輝! ほら、さっさと飯食えっ!」
「そうだそうだ! さっさと食えっ!」
 双子がサンドイッチを投げ付けてくる。食べ物を投げるとは罰当たりな、と思いつつ、琉輝は双子がそれぞれ投げてきたサンドイッチをキャッチした。見てみれば、二つとも中に挟まれているものが違う。片方はレタスとハム、もう片方はポテトサラダとスライスされたソーセージだ。
 レタスとハムの方を一口食べる。新鮮な野菜など食べた事がないので、レタスのシャキシャキした食感には少し驚いた。ハムに薄く塗られたマヨネーズの酸味で味がまとまっていて、とても美味しい。
 皿に乗った他のサンドイッチも覗いてみると、他には玉子とマヨネーズを和えたもの、トンカツ、魚のフライ。中にはジャムや、生クリームと缶詰めのフルーツを挟んだ、お菓子のようなものもあった。凛華が食べているのは、イチゴジャムとバターのサンドイッチだ。
 琉輝は二つ目のサンドイッチを食べながら、何処からこんなにたくさんの、様々な食品が手に入るのだろうかと思った。
 この国の農家や畜産は全て、帝国軍が支配している。そこで生産される食物はほとんどが軍に運ばれ、他はまだ僅かにある飲食店などにいくはずだ。間違っても、敵である反帝国集団に渡る事はない。それなのに、この豊富ともいえる食物は一体、何処からやってくるのだろうか?
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