織姫


□恋心 ―壱―
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―――――




「ん?何やってるんでぇ?」


いつもの様に、左之助は道場に来るな否や、菖子の姿を探す。


庭から部屋を見ると、
菖子が縫い物をしていた。


「お着物縫っているんです」


顔を上げ、微笑んだ。



ふーんと言いながら、菖子の前に座り、まじまじと見る。



「‥男物だよな?」

「はい。秀一のです」

「そ‥そうかい」



随分と嬉しそうに答える菖子に、苦笑いを浮かべる。

‥と、そこに。


「貴様ぁああああ!」



ズササと廊下を滑りながら現れた秀一。


「オメーはいつもどっから見てんだよ」


ふうと溜め息をつく左之助に、ドカドカと足音を立てながら詰め寄ってきた。


「貴様こそ毎日毎日!菖子様から離れろ!」

「あのなぁ‥俺は貴様じゃねーって。
相楽左之助だ」

「知るか!」

「もう‥左之助様、本当にすみません‥」




ぽつ‥ぽつ‥

‥ザァー‥‥




突然の雨音に気付き、菖子は外へと目を向けた。先程までの青空は何処へやら。


「‥雨‥?‥」


大粒の雨が、庭を湿らせていく。
菖子は慌て出した。


「大変!薫ちゃん達、出稽古に行っているの‥私、傘を届けに行って来ますね」

「お?んじゃ、俺も行くぜ」

「え!?ちょっと待てぇっ!」



針をしまい、立ち上がる菖子に慌てて左之助を阻止し、後を追う秀一。


「あっ」


ピタッと止まる菖子を覗き込んだ。


「どうしてぇ?」

「お洗濯物取り込まないと‥っ」

「おう、じゃあ俺が「私にお任せ下さい!!」」

「そう?それじゃあ、お願いしますね。
行って参ります」

「えっ」


にこりと微笑む菖子に、秀一は顔を青冷めた。


左之助がこちらを向いてニヤッと笑う。


(し‥‥しまったぁあああ!!)


つい、いつもの癖で左之助より自分が菖子の役に立とうと張り合っていたのが今回は裏目に出た。


「お待ち下さい菖子様!私も参ります!」

「お前は洗濯取り込むんだろ!俺が着いてるから安心しな」


菖子の後を追いかけて行く左之助。


秀一の拳が震える。



「‥‥お前が一番危険なんだよぉおおおーっ!!」



雨の中に秀一の怒涛の声が溶けていった。――






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